019 女の執着と結果

「いいわ。わたくしの負けよ。紅葉様」

 長い間、いや本当は少しかも知れないが、間に挟まれた私にはとても永く感じられた後に、メフィストは『やれやれ』と降参のポーズをして見せた。

「りと、よか、た。よかた、よ!」

 紅葉はそう喜んで再び抱きついてきた。

 正直な所、私には何が起きていたのか、さっぱりで、皆目見当がつかない。

 本当なら紅葉から聞いた方が良いのだろうが、まだ言葉がたどたどしくて分かりにくい。恨まれるのを承知でメフィストに問い掛けた。

「メフィストと紅葉にどういう関係があったりするのですか?」

「紅葉様が満足に動けないうちに、竜登様を籠絡したかったのですが残念だわ。紅葉様がお強かったと認めるしか有りませんね。・・・それで竜登様、何かおっしゃいましたでしょうか?」

 聞こえて無かったのかよ。

 しかたなく、もう一度問い掛けた。

「紅葉様とわたくしの関係をと問われましても何も御座いませんわ』

 火花が弾ける程に編み合っていたのに、何の関係も無いハズが無いだろうに。

「『負けた』と言ったのだから、少なくとも何かの勝負をしていたのだろう。いったい何を勝負していたのか教えて欲しいんだ」



「・・・そうね、わたくしは負けた。そう、負けたわね。負けて悔しいから教えたくないわ」

 負けたと連呼する割には、全然悔しそうな素振りを見せないのは気になるが、先ずは聞く事が先だ。さぁて、なんて言ったら良いのだろうか。メフィストの瞳を見て・・・、

 と、振り向けばスリットから顕わになった左太腿がとてもまぶしくて目のやり場に困った。

 結果としてチラ見する感じとなってしまった。指の隙間から覗き見する気がして、なんとなく自分の姿が恥ずかしい。

「・・・そうですか。教えてはくれないのですか。それもそうでしょうね。幼くて言葉もたどたどしい少女に言い負けたのです。さぞ恥ずかしい事でしょう。言いたく無い気持ち、心中お察しするよ」

「あら?そう言われましたら、わたくしが拗(す)ねている様に聞こえるではありませんか」

「そうですか?では拗(ねじ)けている、拗(くね)ている、の方がお好みでしょうか」

「もしかして、弱った所に追い打ちしたいのかしら。宜しいですわ。竜登様とでしたらお付き合いしましょう」

 ちっ、図星を突かれてしまったか。

 弱った所から攻めるのは、これからの言い合いや化かし合いを有利にする為の常套手段だと思ったのだけど、開き直られてしまっては、もう無意味だろう。

 それに言い合いが長引けば勝てる自信は無い。

「・・・追い打ちを掛けるだなんてとんでもない。悔しいと言う割には、そんな素振りがないじゃないですか。本当に負けたと思っているのですか?もしかして手の内を隠していませんか」

「まぁ竜登様ったら。わたくしの事に興味をお持ちなのですね。嬉しいわ、もしかしてサイズとか気になってます?何でも聞いて。ええ是非とも」

 女の姿だとやけの魅了してくる。男の姿で詰(なじ)られ馬鹿にされるよりはマシだけど、コレはコレで面倒くさい。


「りと、き・ちゃ、だ、め。きいちゃ、だめ。とり、こま、れ、る。だめ」

 突然?紅葉が必死に訴え始めた。

「あれ、は、わざと、きょ・み、もたせ・うと、して、る。みみ、かた、む・ちゃ、だめ」

 ワザと?興味?紅葉はたどたどしい話すので良く聞き取れなかったが、どうやら私は好奇心につけ込まれる所だったらしい。

 メフィストは勿体振って、私の求知心をくすぐっていたのだろ。心の隙を突いて取り込もうとしていたらしい。

 危なかった。紅葉が止めてくれなかったらまずい所だった。

「ありがとう。くれは・・・ちゃん。おかげで助かったよ」

 お礼の気持ちで頭をなでると、嬉しそうに微笑んでくれた。私もなんか嬉しい。

「メフィスト、さっきの質問は無しだ。もう聞く事は無いし、負けたと思うなら、もう用はないだろう。これで仕舞いにしようじゃないか」

「ん、もう。勘のいい娘ね。要所々々で遮られてしまっては駄目ね。わたくしの負けだわ。紅葉様がいらっしゃる限り、望むスキルを持つ竜登様を手中にできないわ。本当に降参よ」

 言葉にわざとらしさを感じるが、もうどうでも良い事だ。

「降参なら、もういいだろう。私達を解放してくれ。もう終わりにしようじゃないか」

 メフィストは左手を胸に当て、右手はタイトなロングスカートを軽くたくし上げてお辞儀をした。

「ちょっと待ってくれませんか、竜登様。今まで大変失礼を重ねてしまい申し訳御座いません。謝罪の気持ちとして、わたくしが竜登様を求めた理由と、竜登様、紅葉様の魂について知る限りをお教えさせて頂けませんでしょうか」

 謝罪の言葉よりも、更に顕わになった左の脚に目が眩み、視線が釘付けになってしまった。

 一瞬だが意識を奪われてしまった。これは男の性というものだ、きっとそうだ。そうやって情けない自分自信に言い訳をする。

 しかし、様付けで呼ぶ程に下手に出ているはずなのに、なにげに高圧な態度のメフィストが謝罪する姿は少々違和感がある。

 裏が有りそうな気はするが、魂についてとか、やけに求知心をくすぐるじゃないか。自称、元魔術士(仮)にとっては垂涎のネタだ。

「りと、だめ。き・ちゃ、だめ!」

「そうだな。確かにとても迷惑を受けた。その謝罪を受け入れようか。今度は出し惜しみはしないで話してくれよ」

「ええ、もちろんですわ」

 紅葉の制止するのも空しく、私はメフィストの提案を受け入れてしまった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る