018 世界の理(ことわり)について

 『世界の理(ことわり)』について。

 幻滅する話しがあったのには驚いたが、『神様』も『神様』でそれほど自由では無いらしい。


 さて、メフィストの話しを私の解釈を交えて概略するならば、次の通りで良いだろうか。

1:『神様の部屋』とも呼ばれる空間に喚ばれたモノにはその回数分だけ、理(ことわり)を知ることができる。私の場合では5回まで可能だ。

  まぁ大抵1回目は無条件で教えられるが、殆どは『私は神様である』で終わるのであまり意味はない。

2:この世界、あえて三千世界と呼ぶが、この世界の頂点にはこの世界を創った『創造神』が君臨している事。そしてこの『創造神』は『平和』を探し求めているらしい。

3:『創造神』は『平和』を見いだしたモノ、大抵は神様だろうが、その結果に相応の望みを叶えて下さるという。ゲームというか、王様や貴族に宝を献上して褒美を頂く様な事らしい。このゲームもどきに参加しているのはほんの一部というが、三千世界と言う母数を考えれば、一兆分の1%でも半端ない『神様』が参加している計算になる。

4:前述3の『神様』は直接的に世界に介入ができないので『分身』を送るか、『使者』として人を送るそうだ。以前は『分身』を送ったらしいが、昨今は『使者』が流行なのだろう。良く解らなかったが便利らしい。

5:成り行きで1つ理(ことわり)を知る権利を得たが、非常に非道な裏事情だったので思い出したく無い。


 まぁこんな感じで良いだろう。少なくとも私はこの様に理解する事にした。そして気になったのはメフィストの関与だ。どうして私を喚びだしたのだろうか。

「メフィストも『褒美』が欲しくて『平和』を探しているのかい。説明から想像するに、神様とやらと同じ事をしている様ではないか」

「褒美?・・・あぁ望みの事ね。得られるのなら遠慮はしないけど、別に平和に興味はございませんわ」

 悪魔だからこそ、欲に釣られて仮初めの平和でも探していると思ったが、悪魔故に混沌を求めるのだろう。平和に興味が無いとは意外とブレないのだと、ちょっと関心してしまった。

「そうか、つまらない事を聞いてしまって悪かったよ」



 ここまで、直ぐ隣で説明していたメフィストは、更に密着する程に近づいた。

「必要なお話しは以上ですわ。それでは大切な、本題に入りましょうか」

 誘惑する様な甘ったるい話し方だった為だろう。無意識に身の危険を感じて避けようとした。が、これ以上逃げると椅子から転倒しかねない。

「何故お逃げになるのでしょうか?それよりもわたくしを見つめて下さいませ。吐息に浸り、芳香で喉を薫(くる)らせ、寄り添って温もりと感じて下さいませ。もっともっとお話ししたいとお慕いしてますのに」

 そう言いながら私の太腿を指でなぞった。

 淑女が男の子にって絵図ら的にどうなのって思ったが、こそばゆくて成り行きに任せたくなった。これが手練手管という技かと考えてしまった。

 まずいかもしれない。このままの流れで言いなりになりそうだと、慌てて手を振り払った。

「色仕掛けなどするだけ無駄だ。誘惑するなら他の人間でやれよ。このまま、なし崩しに契約へ追い込むつもりだろうが、私は異性に寄り添えるほど器用じゃないんでね」

 言ってて悲しくなってきたが、仕方が無い。そういう性格なのだから。

「あら、気付いてたの?」

「当然だろ。露骨過ぎじゃ無いか」

「色香に酔いしれる事もできないなんて、懐の浅い男ですわね。それとも鈍いだけかしら。疎(うと)過ぎて忘れてしまったのかしら」

 ああそうだよ。鈍くて悪かったな。おかげでボッチだったよ。サクっと傷口えぐる言葉を奏でる所は男の姿でも女姿でも変わらないと、今更に思い知った。



・・・れ゛ろ゛・・・・う゛・・・



 う゛う゛う゛と、小さくではあるが獣が威嚇する様なうなり声が響き始めた。

 うなり声の元を辿ると、紅葉と呼ぶ少女が睨んでいた。

「・・・なれ・・・ろ。りぅ・・・と、りぅ・・・りぅ・・・。・・・りとか・・・らはな・・れろ」

 たどたとしい話し方で紅葉がうなる。どうも私の名前は発音し難いらしく『りと』と短縮されてしまった。まぁハンドル名でもあるので、私はあまり違和感を感じなかった。

「り・とから・・・れろ。はな・・・ろ。りと・・・は・・・のだ。・のめ・つね・・・」

 何を言っているのか解らないが、とても必死に訴えているのは表情からも良く分かった。

 紅葉は2・3回大きく深呼吸してから、のめり込む格好になった。

「りと、から、は、なれ、ろ。この、め、ぎつ、め・・・ぎゃっ!!」

 あまりにも前のめり込み過ぎた為に、バランスを崩して椅子ごと転落してしまい、何かを引き裂いた様な悲鳴を上げた。

 私は椅子から飛び降りて慌てて紅葉を抱き抱えた。

「くれは・・・ちゃん、大丈夫かい。怪我は無いか?痛い所は無いかい」

「わぁ・・い、りとっ、りとっ・・・」

 そう言って紅葉は私の腹部に顔を埋める様に抱きついてきた。頬ずりのつもりだろうか、埋めた顔でお腹を擦るもんだからくすぐったい。

 幼女とは言え、これ程好意にされるのはとても嬉しい。もしかしたら他人に好意を抱かれるのは初めてじゃないか?とか寂しい思い出が浮かんだが、そのまま受け流そう。今は早く落ち着いて欲しいと紅葉の頭を撫でる。

「思っていたよりも早く活動出来る様になられたのですね。残念ですわ」

 振り向けば、メフィストが近づいて声を掛けてきた。ただ、膝立ちしている私の面前には、ドレスの深いスリットがあった。左の太腿が見えそうで目のやり場に困り、思わず紅葉の方を向いてしまう。

「よ・な、ちか・るな!りと・だい・・ひと・・・わた・のも・だ!」

 紅葉は私の顔の埋もれた顔を掘り起こしてメフィストを睨み付けた。まだ発声が難しいのだろうか。言葉を聞き取るのは難しい。

「りと、は、・・・だいじ・たいせ・なひ・・。めぎつね・・・ちか、よ、るな!!」

 まるで獣が威嚇する様だった。

 暫くの間、紅葉とメフィストがにらみ合う。

 そこには女の戦いがあったようで、挟まれている私は凄く居心地が悪い。

 それに、幼女相手にムキになる淑女姿のメフィストが大人げない。・・・とは言っても、紅葉は私と同じ生を過ごしたなら合わせて200歳は超えるだろう。言ってしまえば『ロリBBA』だ。大人扱いされても変では無いのかも知れない。

「りと。なに、か、言・た?」

「い、いいや何も言っていないよ」

 一瞬心を読まれたかと思った。女の戦いに巻き込まれたかと思うとゾットする。



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