ラストレター

白銀ルキア

ラストレター

「悠ゆうく~ん!!」




授業も終わり、チャイムと共に悠くんのもとへもうダッシュ!


からのは~ぐ♡


二年生になって、悠くんとクラスが離れちゃったのですごく寂しいな…




「もう椿つばきってば!」




悠くんに抱きついた私に照れながらも怒らない悠くんはほんとに優しい。


そういうところも大好き!




「おいおい、いつもラブラブだな…もうリア充爆発しろとか思えないくらいにな」




いつもみたいに悠くんの友達の康弘やすひろが笑いながらちゃかしてくる。


教室のみんなも「いつものね、勝手にどうぞ?」みたい目で誰も気にしてない。




「もう!暑い!」




高校二年生、青春真っ只中まっただなかの私たち!!


もう8月中旬で確かに暑い…


でもね!それでも私は悠くんと居たいの~




「え~いいじゃん!」




「暑いよ!」




鬱陶うっとうしそうに私を押し退ける悠くんに仕方なく離れる。




「ちぇ…」




一緒に居たいのは山々だけど嫌われるのは嫌だもんねー!




「あっ!そうだ!悠くん!悠くん!明日はなんの日か覚えてる?」




私はわくわくしながら悠くんに聞いてみた。




「付き合ってちょうど5年目でしょ?…俺だって覚えてるよ」




照れくさそうにそっぽを向いて答える悠くんになんだか私まで恥ずかしくなってくる。




「手紙はー?」




私たちは付き合って一年ごとに手紙を書くことにしている。


そして明日はなんと付き合って記念すべき5年目なのだ!!


私の性格的にぱぱっと書いちゃうように見えるかもしれないけど、毎年毎年ギリギリまで悩んでやっと書き終えるのだ。


いつも直接気持ちを伝えている私にとって、毎年の手紙にはなにを書いたらいいのか…


というか書きたいことが多すぎてどうまとめていいのかわからない…




「書いたよ…」




悠くんは少し顔を赤らめながら私を優しく撫でてくれた。




「私もー!えへへ」




「椿、そろそろ帰ろっか?」




気づけば教室には私たち以外誰もいなくなっていた。


よくあることだ!


大好きな悠くんとの時間はあっという間に過ぎてしまう。




「うん!」




下校中も楽しくお喋りをしながら帰った。




「じゃあまた明日ね!悠くん大好きだよっ♡」




「うん、また明日」




ひらひらと振ってくれる手がこんなにもいとおしい…


悠くんの前で立ち止まっていると、悠くんはいつものように頭を撫でてくれた。




「明日も会えるんだから、な?」




「…ん」




名残惜なごりおしさを残したまま自分の部屋のベッドにダイブする。




「ん~ふんうう!」




布団に顔を埋めながら悠くんへの好きの気持ちを大声で叫ぶ。




「ぷはぁっ!…あ、手紙!!」




急いで机に向かい、机の上にある手紙を仕上げる。


一文字一文字、気持ちを込めて文章を綴つづっていく。


少しでもこの気持ちが伝わるように…






今日もいつものように待ち合わせをして悠くんと登校!




「おはよう~!」




「今日ははやいな?」




「いつも私の方が後だけど、今日は特別な日なので30分もはやく来ました!!」




「おぉ!すごいぞ」




悠くんはいつもと同じで優しく私の頭を撫でてくれる。




「えへへ♡」




「そろそろ行くか?」




「うん!」




悠くんの腕に抱き締めながら私はもう一度悠くんにきいた。




「───手紙書けた?」




悠くんの顔を覗きこみながら私はしがみついていた腕をよりいっそう強く抱き締めた。




「書けたよ…今回はちょっと頑張った…」




私の抱き締めている手とは反対の手を自分の首筋に手を持っていく姿にきゅんと来た。


照れたようなその顔で私の頭を撫でる。


あぁ、好きだよ…ほんとに。




「え?ほんと!?楽しみにしとくね!」




「期待はしないで…恥ずかしい」




「うん!じゃあ今日は放課後すぐに屋上に来てね!」




毎年、自分の手紙を屋上で読み合う!


毎年の恒例こうれいとなっているのだ!!




長い長い授業も終わり、悠くんとの待ち合わせ場所に行くために教室を出た。


教室の生徒はまだ残ってお喋りをしている。




「椿!!」




叫ばれた自分の名前と同時に強く腕を握られた。




「あれ?康弘どうしたの?」




「椿…もうやめろよ…」




悲しそうな顔をする康弘に私は首をかしげた。




「えと…なにがー?」




「もう…やめてくれ…」




康弘は今にも泣き出しそうな顔で私の肩を掴んで揺らした。




「お願いだから…」




「えーとだからどういう──」




「悠は死んだんだよ!!」




廊下に響くような大きな声で康弘は叫んだ。




「悠…くんが?なに言ってるの?だって悠くんはあそこにいるじゃん」




私は隣のクラスの窓から見える悠くんを指差して笑った。


悠くんは確かにあそこにいる。


いつもの席で、いつものように…




「分かってるんだろ!!」




「え…?だって──」




「葬式にも出たじゃねぇか!」




康弘は訳もわからないことを言って私の肩を強く揺らした。




「え?なに言って…?」




葬式…?


誰の…?




「もう…悠を…悠を休ませてやってくれよ…」




康弘は泣きながら私に訴えた。


それでも私にはよく分からず、ただ揺らされることしか出来ない。




「…でも悠くんは──」




あそこにいるよ?


そう言い終わる前に康弘が話をさえぎって大声で叫んだ。




「いねぇよ!!」




い…ない?


悠くんが…?




「え?だって悠くんがいなかったら私…」




「…椿…お前はずっと一人だっ──」




「嘘だ!嘘だ嘘だー!!そんなの…悠くんはいるもん!」




聞きたくない聞きたくない!


悠くんがいない…?


体が拒絶反応を起こしてる。


これ以上先は聞きたくないと。


私は必死に両手で耳を塞ふさぎしゃがみこんだ。






「嫌だ嫌だ!やめて!やめて!」




私は無我夢中むがむちゅうで叫んだ。




「聞け!椿!」




康弘が無理やり手を掴んで耳から引き剥がす。




「いや───!」




「6日前!悠は事故で死んだ!」




目を閉じて耳も塞いで何もかもから逃げ出したい。


そう…ほんとは分かってる…でも理解したくないの!




「葬式だって出ただろ!ちゃんと現実を見ろ!!」




「いやっ!離して!!悠くんの所に行くの!」




「2日前…悠の葬式が終わって、次の日だ、お前は学校を休んだよな!」




「休んでないっ!ずっとずっと悠くんと!」




「そして昨日!お前が壊れたのは昨日だ!へらへらしながら学校に来たと思ったら!誰もいない悠の席で一人で──」




「一人じゃないっ!悠くんが!悠くんが──」




──バシンッ




康弘は私の頬をおもいっきり叩いた。


「バシン」という音は誰もいない廊下に響き渡った。


いつも間にか賑にぎわっていた廊下や教室には誰も残っておらず、ここには私と康弘以外誰もいない。




「悠を…死なせてやれよ!」




私は無言でゆっくりと康弘へと視線を向ける。


康弘は涙を流しながらずっとずっと訴えかけていてくれたのだ。




「行ってこい」




康弘に背中を押され、私は屋上まで全速力で走った。


なぜそうしたのかは正直わからない、体が勝手に動いた…という感じだ。




私はゆっくりと屋上の扉を開ける。




「悠…くん」




力なく発した言葉は風と共にかき消された。


夕焼けの光の中に一人の男性の姿を確認する。




「悠くん!」




「椿…」




振り返る悠くんの姿はいつもどうりの優しい悠くんだ。


悠くんの手には一通の手紙があった。




「今年で付き合ってちょうど5年だろ?だからいつも言えないことも書いたんだ、聞いてくれ」




悠くんの笑う顔は少し大人びている気がして、手を伸ばしても届かないような…そんな気がした。




「ほら…」




いつものように撫でてくれる手には体温がなかった。


でも、それでもそっと触れる悠くんの手はとても優しくて…




「椿へ、今年でもう付き合って5年目だね」




悠くんは手に持っていた手紙を読み始めた。




「5年目ということでいつも言えないことを伝えようと思います。


椿とは小さい頃からずっと一緒で、ずっと好きだったから椿が告白してくれた時、すごく嬉しかったよ。」




え…?


悠くんが私を…?


そんなことは初耳だ…言って…欲しかった。


自然に涙が流れていく。




「椿がくれた時間はとても楽しくて毎日があっという間に過ぎていった。


付き合いたての頃はどうしたらいいのかわからなくて二人で調べたよね!そんな馬鹿なことも今では良い思い出だね。


椿は「ファーストキスは展望台で悠くんから!」って言ってたのに、俺の誕生日に椿からだったね、その後は二人とも顔を見れなくて…ふっふふ」




悠くんは自分の手紙を読みながら笑い始めた。


そんな悠くんを見ているといつの間にか私も一緒に笑っていた。




「椿の笑った顔が好き」




「椿のおっちょこちょいなとこが好き」




「椿の好きな所を言ってたらきりがなさそうだ…」




笑っていた悠くんも真剣な表情だった。




「椿が俺の彼女で良かった、いつも本当にありがとう。椿…大好きだよ」




「悠…くん…?」




悠くんはまるで、最後のように、私の頭を撫でた。




「これまでも…これからも…ずっと好きだよ…だから」








「俺のことを殺して」






悠くんはいつもみたいに優しく私に笑いかけた。


風になびく悠くんの髪が夕日に照らされてる。




「悠くん…」




「悠くん…大好き…!」




私は涙でぐしゃぐしゃの顔を必死で拭いながら悠くんに最高の笑顔を向けた。




悠くんはなにも言わず涙を流しながら笑った。




私の手紙も聞いてくれなかった…一生懸命書いたのに…


悠くん…


私は強く自分の持っていた手紙を握りしめながら座り込んだ。






もう…悠くんに名前を呼んでもらえない…


いつもみたいに優しく私の頭を撫でてくれる悠くんは…


笑いながらも涙が溢れ出てくる。




「うわぁぁああん」




私は馬鹿みたいに泣き続けた。


ずっとずっと…

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ラストレター 白銀ルキア @siroganerukia_

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