第2話


 携帯の画面をチラリと見ると、私の推しのサムライ☆ナイン関係の速報が流れていた。


 うわぁ、リアタイしたい。(リアルタイムで見たい)


「イェーイ!お前、こっち来てほらビール飲め!」


「あ、はい」


 強制的に現実に引き戻されてうんざりする。


「お前は俺から離れるなっていつも言ってんだろ?」


 うぇー。


 社会人というのは我慢の連続だ。

 ネチっこい先輩なんていたら尚更。

 ましてやその先輩に面倒なセクハラまがいの発言ばかりされていたらもう最悪。


 くっそ。私の同僚みんな既婚者か彼氏持ちなんだよな。私だってヲタクで心にはいつもサムライ☆ナインがいるのに……。


 女なら誰でも良いって感じが特に嫌。


 しかし突っぱねるにしても、後が怖いので強く言えない。

 平穏に働きたいだけなんだけど、そんなささやかな願いですら作り笑顔と我慢の上にしか成立しないのが世の中というもんで。おかしい話だ。


「二次会どうする?」


 会社の飲み会も終盤に差し掛かったところで、二次会の話が出始めた。


 私はとりあえずトイレに席を立つ。

 洗面所の鏡の前でため息をついた。

 前回、ほぼ若手のみの二次会に参加したら、その先輩と10分くらい2人きりの時間を作られた。カラオケでみんなしてトイレかジュースを取りに行くフリで席を立ちやがったのだ。

 またやられる可能性がある。あれは悪夢だ。


 私は考える。

 爽やかに逃げきる方法。


 ふとよぎったのはシゲの顔だった。

 いつもなら2人で会うなんてしないけれど。


『俺らの関係って何なの?』


 友達だよ。友達でしかないよ。


 理想の友情をきちんと成立させて、お陰でほら長く交流がある。

 深くもならないし浅くもならない。


 そうだよ、友達。


 アルコールのせいもあってか、私の思考はそこでパチンと弾けた。


 友達だから、頼ってもいいか。

 もう今更、変わる関係じゃないだろう。




「この後も飲みに行けるでしょ?」

 強制じみた二次会のお誘いに私は笑顔だった。


「すみません、今日は予定が」


 お会計を済ましたところで、店の外に立つシゲと目が合った。


「では私はここで。お疲れ様でした!」


 先輩に元気よく挨拶をして、私は小走りでシゲの元へ向かう。背中に刺さる視線は気にしない。

 シゲはというと、先輩と目が合ったのか会釈した。

 本人は無自覚だろうけど、見た目がいいとそんな姿ですら爽やかに見えるから不思議だ。


 そそくさとその場を離れながら、私は小声でシゲに話しかける。


「ありがと。急にごめん」


「いや、今日金曜だし、どうせ実家に帰るつもりだったから」


 こういう誰にでも優しいところも彼の魅力だと思う。

 シゲは実家暮らしの私と違って、一人暮らしをしている。その方が職場に近いんだそうだ。


「ちょっと俺の部屋寄って良い?仕事終わってそのままここに来たから。部屋に荷物取りに行きたい」


 急だったせいで、仕事終わりにそのまま来させてしまったのか。本当、申し訳ないことをした。


「あ、うん」


 私は腕時計を確認した。まだ間に合いそうだ。

 最悪、部屋で見させてもらえばいっか。


「あとでテレビ借りるかも。いいかな」


「別にいいよ」


 彼はいつも私の趣味に関して詮索もしなければ特に否定もしない。

 それくらいが気楽でいいよなといつも思う。

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