第20話【奴隷の少女】【職と宿】【チートに囲まれた主人公】

その後、オークションは再開されポーク子爵の提示された額から始まった。


 結果、ポーク子爵は金換券2万1500枚まで粘ったが、オーメルさんが金換券2万2000枚を提示して諦めた。

 競り落とせなかった貴族の顔は悔しそうに、俺らに罵倒を履き続けたが、俺達は無視して会場を後にする。


 「オーメル様、こちらに代金をお願い致します」

 「……残りは小切手でも?」

 「了解致しました……」


 職員がVIP席から離れて数分すると、清潔感のあるワンピース姿のネフィルちゃんと一緒に戻ってきた。


 「……ワタルさん……!」


 俺の姿を見た瞬間、抱きつき胸の中で泣き出してしまう。


 「よく頑張ったな」

 「はい……怖かったです……寂しかったです」


 俺の服を涙と鼻水だらけにする彼女に愛おしさを感じてしまう。


 職員はすぐに部屋を去り、代わりに爺さんが入ってきた。

 何も言わず、置かれたお茶を飲み落ち着く。


 「うまくいったようじゃな」

 「ああ…爺さんにおかげだぜ」

 「カールイさん、オーメルさん…ワタルさん……本当に、本当にありがとうございます」


 ネフィルは俺たち3人に感謝の礼をする。


 「オオミヤ様……ご再会のところを申し訳ありませんが、こちらにサインをお願いします」

 「契約書か……」


 オーメル商会から奴隷を買う場合、オーメル商会の会員にならないといけない。

 

 「今回、入会金、初期手数料は不要です。しかし、月費用は定額発生いたしますのでご注意くださいませ」

 「わかった…」


 その契約書を書いた途端に燃えてなくなる。

 その灰は一枚のカードとなって現れた。


 「これは、奴隷所有証明書です。決して無くさなぬように……そしてネフィルさん、首をお貸しください」

 「……はい」


 オーメルさんは、事務的に彼女のうなじを晒し、指を這わせる。


 すると、首を一周する線が現れた。

 カードに書かれた模様と同じものだ。

 それは、彼女が俺の奴隷である証なのだろう。


 「ネフィル、何か首に巻くか?」


 これは彼女が奴隷である事を周囲に知らせる事になる。

 俺は、奴隷の主人として間違った発言をしたのかもしれない。


 「いいえ…大丈夫です。これは、今から私が背負わないといけない業であり、戒めです」


 俺の肩には20億円以上の重荷が、彼女には死んだエルフ達の命が首を絞めている。


 「オオミヤ様、主人として彼女へ誠意のある対応を」


 この時のオーメルさんの顔は一番怖く、優しかった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「月の会費ってこんなにかかるのか……」


 VIPの部屋から出た、俺、爺さん、ネフィルは一旦施設のロビーのソファーで寛いでいた。

 オーメルさんは、次のオークションがあるそうで、ここでお別れだ。


 月額は普通に考えたら、払えない額ではない。

 しかし、職なし家なしの俺にとっては、重すぎる額である。

 一応、亡命した人間でもある。



 「無資格で始められる仕事ってないかな」

 「魔法の使えない無能のワタルさんには……」


 ネフィルちゃんは本気で悩んでいる。

 おそらく、無能とは無能力者の事を指すと思うのだが、天然辛辣さは変わらないらしい。


 「なら、冒険者になったらどうじゃ?」

 

 きた!異世界定番イベント。


 「それってギルドか何かの審査があるのか?」

 「儂の所属するギルドは審査が有るが、オーメル商会の奴隷所有証明書があればスムーズに行くと思うぞ」


 それは有難い。やっぱり、手続きは簡単でなくては。


 「冒険者と言っても、やる事は多種多様……初めは薬草集めや、土方が殆どじゃな」


 それは良い。いきなり猛獣や盗賊を狩りに行くなんて無理だもん。


 ある程度のブラック派遣は覚悟のうちだ。


 「お主ら暮らす部屋もないじゃろ?」

 「確かに……俺だけなら野宿でも良いんだが……」


 ネフィルを見る。流石に、この子を何日も外で暮らせなんて言えない。


 「私も野宿で大丈夫です!」


 健気でよろしい。


 「せめて、この子だけでも住むところを確保したい」

 「なら儂の住む、ギルド集合住宅に住めば良い」

 「あんたが住んでるっていくらするんだよ」


 5000万円を会って時間が経たない俺に渡してくる爺さんだよ?

 そんなブルジョア市民の家賃なんて払えない。


 「安心せい、儂の住むところはギルド集合住宅の中でも一番安い所じゃ」

 「なんでそんな所に?」

 「研究室用の部屋が多く欲しくての……儂、ここ数年はフリーランスで研究を行なっておるもので」

 「この世界にもフリーランスの概念があるのか……」

 「それに、お主らの使う部屋は過去の研究資料を保存しておる部屋じゃ。お主らに警備役も頼めて儂にとっては益のある事じゃ」


 それを聞いて目を一番輝かせていたのは、ネフィルだった。


 「それって部屋の中の研究資料を読んでも?」

 「ああ構わんよ。好きなだけ読むが良い」

 「ありがとうございます!あのカールイさんと一緒に研究が出来るだけでなく、研究資料も読めるなんて」


 これだけの功績を残した『伝説』の研究資料だ。普通じゃお目にかかれないのだろう。


 「ワタルさん……ここは、カールイさんのご好意に甘えるべきです!」

 「わ、わかった……俺には住めれば、どうでも良いしな」

 「契約成立じゃな。家賃の半分は儂が出してやる」

 「ありがとうよ、爺さん」「ありがとうございます!」


 これで宿と職問題はどうにかなりそうだ。


 おそらく、爺さんはネフィルちゃんと俺を自分の近くにいさせたかったのだろう。

 優秀な人材と丈夫なモルモットだし。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 無一文のままでは、どうにもならない俺達は、俺やネフィルちゃんの持っていた貴重品を質(しち)に持っていき換金作業した。


 ネフィルちゃんの所有物は殆ど、国に没収されており余り良い結果は残せなかった。


 一方俺の方は、


 「これは珍しい素材でございますな」


 質屋の鑑定しは、俺の溶けたタブレットに興味を示していた。


 「それにこの板は、見た事のない造りでございます。どのような魔法器具でございますか?」

 「今は壊れて使えないんだが、写真を撮ったり……」

 「写真?」

 「目に映る光景を正確に紙に描けるって所かな」


 この世界に写真の技術は無かったのか。

 爺さんの顔を会った事の無い人達が認識していたから、似た技術は有ると思ったのだが……


 「ああ、念写魔法でございますか」

 「なに!神秘性魔法でも器具化するのが難しい念写魔法がこの板で行えるのか……なんと興味深い…」

 「私も、その話詳しく聞かせてください!」


 質屋だけでなく、研究大好きなジジイとロリも興奮し始めてきた。


 「その念写魔法?の器具化ってそんなに難しいのか?」

 「何言っておる、最高の器具師ドワーフ族でも……」

 「これぐらいの大きさになってしまいますよ!」


 ネフィルちゃんは一瞬で念写魔法の器具をスケッチして見せてきた。

 科学者の描くイラストって無駄が無いよね。


 そこには、人間の2倍はある大きさの機会が描かれており、横に置かれたイラストは実際にそれで写した爺さんの顔らしい。


 顔の再現度は高いが、多少ぼやけている。

 

 「これだけの板で行うとは、お主の科学はどれだけ先を行っておるのじゃ!この小さなガラスから情報を読んでおるのか?」


 タブレットに備え付けられたカメラ部分を指差す。


 お前さん達の魔法科学の方が驚きが多いよ。

 隣の芝生を見ている様なものだろうが。


 「オオミヤ様の話が本当なら金換券20枚は下りませんよ、これは…」


 質屋の鑑定士も興奮気味に身を乗り出してきた。


 「いや、儂なら金換券50枚は出そう!他に機能はないのか!」

 「俺は、冒険者として必要な物資が取り揃えてられたら良いから…」


 研究脳達だ。変な所で熱心になる。


 常に無表情の爺さんの鼻息が荒い。


 「あとは、通話出来たり……」

 「なんと!最近儂が試作している通信魔法を実用化していたのか……」

 「魔法と言うより電波で……」

 「ワタルさん、電波ってなんですか⁉︎雷か光の魔法の応用みたいなものですかね」


 流石、天才達だ……未知の科学を自分たちのテリトリー内にある近い分野で置き換えている。


 俺はわかる分だけ伝えたら、


 「なら儂が時間操作で壊れる前に戻してみよう」

 「カールイさん、それって大丈夫なんですか?」

 「この大きさ程度なら儂の魔力量でなんとかなる」


 そう言うと、爺さんは机に魔法陣を書き、詠唱し始めた。


 すると、溶けていた部位が直っていくではないか。


 「おお!カールイ様これは何と美しい形でしょうか!そして、綺麗に形付けられたガラスがまた……質屋をやって長いですが、ここまでの物は初めてかと」


 そりゃ、この世界に一つだけの品物だしな。


 俺のこの世界への干渉は止まらなくなっていた。

 と言うより、勝手に3人が暴走しているだけなんだけど。


 「このボタンを押すのか……」


 カチカチ……


 「何も起きぬぞ!」

 「多分、バッテリー……雷のエネルギーが足りないと」

 「雷ですか?なら、私が補充してあげます……おそらく、この四角の位置に電媒体の反応があります」


 ネフィルちゃんは爺さんから無理矢理取り上げ、詠唱を始める。


 「繊細な機械だから、無理に……」

 「細かい作業なら任せてください!これでも、雷電獣の雷補充をした事があるんですから」

 「なんと、あの雷電獣に雷補充をしたのか…なら、信頼がおけるのじゃ」


 さっきから知らない単語が飛び交い、俺の頭の方がショートしそうだよ。


 難しい顔をしながら、バッテリー部分に電気を送る。

 すると


 『POWERFUL 』


 の文字が出てきた。急速充電はバッテリーに良くないんだよ。


 「おお!すごいです……こんな綺麗に文字が浮かびあるなんて」

 「神樹の加護を受ける際の映像よりも繊細な画面じゃぞ」

 「これは、表面のガラスの質が良いからでしょうな」


 爺さんは、大人気なくネフィルちゃんから取り上げると、おもちゃを貰った子供の様にはしゃぎだした。


 「ここのボタンを……」


 ピポパポ


 機械音がなり、起動の合図が鳴り響く。


 顔認証システムが作動するが、俺ではないのでロックが開かない。

 それに気づかない3人は何度もロック画面に戻される。


 数回やったので、


 『顔認証ガ一定回数ミトメラレマセンデシタ。オオミヤワタル様ヲオ呼ビ下サイ』


 「なんじゃ!なんじゃ!いきなり喋り出したぞ」


 突然のアナウンスに3人は一緒に距離を取る。


 『オオミヤワタル様ヲ、オ呼ビ下サイ』


 「これは物に宿る精霊ではないでしょうか?」

 「なんじゃと!ワタル、お主精霊を従えておったのか?」

 「と言うよりも、この板が精霊を宿せる物だとは……内部に神樹の破片もありませんし」


 3人の反応が面白くなってきたぞ。

 もう少し暴走させとくか。


 「今、認証解除しとくから……あと、皆が使えるように暗証システムも消しとくよ」


 この世界じゃ悪用されないだろう。


 『オオミヤワタル様デスネ……顔認証システム、解除シマス』

 「精霊よ、早く…写真とやらを見せんか!撮影もしてみたい」

 『精霊?…了解シマシタ…カメラアプリヲ、開キマス』


 AIの会話案内って便利よね。


 「うん?なんじゃ…ガラスの中にネフィルがおるぞ…」

 「え?私はここにいますけど」


 爺さんは、カメラ部分をネフィルちゃんに向けている。


 『撮リタイ物ガ決マレバ、下ノ丸ヲ押シテ下サイ』

 「丸?これかの?」


 パシャ!パシャ!


 「なんじゃ!変な音が鳴ったぞ。振動魔法の一種か?」

 「カールイ様、画面を見てください!」


 3人は顔を寄せ画面を凝視する。


 「すごいの!一瞬で念写…それに精度も高い」

 「わぁ、念写なんて始めて……」

 「そんなに念写って大変なの?」


 何気になく聞いたのがまずかった。


 「当たり前じゃ。念写はその空間の魔力を反射させて絵を自動で描く。本来質の良い魔力と技術者のなせる技じゃ」

 「念写機は、一回の念写で金換券2枚は必要なんですよ!」


 この大きさを見たら、納得だよ。


 俺の世界でも 、撮影技術が普及した時代の撮影費が一回何十万円ってかかってたみたいだから、妥当なのかもしれない。


 「カールイ様、ネフィル様……私、機械技師の資格も有りまして、解体してみたいですぞ」

 「それは良いな」


 質屋の鑑定士は、どこから出してのか……見たこともないドライバーなどが入った工具箱を取り出した。


 「待ってくれ……それで壊れでもしたら」

 「大丈夫じゃ…また、儂が修復してやる」

 「それでは始めましょう」


 俺は押し切られる形で部屋の隅に追いやられ、変態3人の解体ショーを見るハメになった。


 待ち時間、他の店員さんがくれた焼き菓子が美味しかったので時間は暇する事はなかった。


ロリ「ふひゃ〜、これは凄い最先端技術でしたね」

鑑定士「ここまで、繊細に加工された金属は始めてでしたよ。途中、似合うドライバーが無い時は焦りましたが」

ジジイ「ワタルよ、この電子回路と言う部位は驚いたたのじゃ。この面積で可能な、情報伝達距離は最大で10mが限界なのに、これは何十キロもある。これが人が作ったとは」

 「その板は、殆ど機械が作って…」

 ジジイ「なんと!機械が機械を作るとは……確かにそっちの方が、精密機器の質の均等性も……」


 変態3人は、タブレットを分解しては治してを繰り返し、中の構造を調べに調べあげてしまった。

 その過程で、機能の原理に近づいているのは、流石天才だと思わざるおえなかった。


 「満足じゃ」

 「私もです。(魔法)音痴のワタルさん程度の持ち物から、こんな興味深い物を触れられるなんて」


 ロリの天然辛辣は、休憩中もフル稼動である。

 ミリヒルの口の悪さが可愛く感じる。

 いや、ミリヒルはツンデレだから可愛い。

 だがこのロリフェイスは素である。


 「それじゃ、換金に……」

 「儂はもう、中の構造がわかったから、もう良い」


 え?嘘…金換券50枚は?


 「鑑定士さん……金換券20枚は…」

 「ん?冒険者者として必要なものを揃えると言う交渉だったのでは?」


 こっちも満足してやがる。

 それを言ったのは、俺だけど……


 「それよりもお主、他には何かないのか?」

 「そうです。もっと見たいです!」


 ジジイとロリに攻め寄られるが、俺の手持ちにあるのは腕時計くらいだ。


 「この時計は……」

 「そんな安物の時計に興味はないのじゃ」

 「悪くはないですけど、このタブレットの後じゃ……」

 「鑑定してみます……銀換券3枚と言ったところでしょうか。デザインは珍しいですが、特殊な技術があるとは思えません」


 30万の腕時計が3万とは……世は無情である。


 「それだと他には無いな……」

 「ふん……なら良い……」

 「無いんですか…」

 「私は、道具屋への紹介状書いてきますので、少々お待ちください」


 俺から採取出来ない事がわかると、変態3人は塩対応になっていった。


 「ネフィルちゃん……」

 「ワタルさん、今話しかけないでください。さっきの技術を忘れないうちにメモを取っているので」


 頭の整理に必死なネフィルちゃんの目は、俺に対する光はなく、畜生を見るかのような寂しい目立った。


 くそ!覚えてろ、この辛辣ロリフェイス……お前さんの膜は絶対奪ってやるからな。


 いや、奴隷だし……いきなり奪っても。


 この子は嫌がる事は、やめておこう。


 もう少し、処女を熟成させた方が美味しいだろうし。


 つづく

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異世界で彼は涙を流す〜不死身冒険者の苦労譚〜 ヤミネad @yaminead

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