第5話 後日談:バイバイ、あそこ……

 そうして、テイとのデートを終えた、数日後のことだった。


「大変だ、大変だ、大変だ!」


 アホな親父が、朝っぱらからアホみたいに騒ぎながら、アホな事を口にしている。そして、俺が寝ているにもかかわらず布団をひっぺがえすものだから本当にアホかと思ってしまった。


「朝っぱらからうるせえんだよクソ親父が!! 何だって言うんだよ!」


「有名私立学校に、学費無料で転入できることになった! それだけじゃない、大企業様のお屋敷に移り住めることになったぞ!!」


「マ、マジで?!」


 その一言で一気に目が覚めた。え、なにそれ、どういうことなの?!


 すると親父は俺に紙っぺらを押し付けて、こんなことを言う。


「あぁ、お前が昨日デートしてくれたおかげで、向こうのおぼっちゃまが手配してくれたらしい。よほど気に入ってくれたんだろうなぁ……」


「マジか! こんなボロアパートともオサラバできるのか! 低所得の親父のせいで真っ当な生活なんてできないと思ってたぜ!」


「さらっとそんなことを言うなんて、血も涙もねぇなこの息子は」


 やかましい。ここまで頑張ったんだから良いじゃねぇか。


 しかし、ホントにテイさまさまだ。また、たまにくらいなら女装デートも付き合ってやろう。……と、思っていたのだけれど、そんな気持ちは次の親父の言葉で吹き飛んだ。


「まぁー……女としてだけどな」


 親父の言葉と、既にびっちりと記入欄に情報が記載された入学届を見て、俺は愕然とするのであった。


「え?」


 改めて入学願書を読むと、『男・女』と記載されている欄の『女』にしっかりマル印が印刷されていた。名前も『ミサ』のままになっている。


「……ハハハハハ」


 乾いた笑いしか出ねえ。え、なに、つまりはこのまま女として学園生活を過ごさなくちゃいけないって事なの? ……そういうことなの?


「おおう……ミサオも泣いて喜んでいる……死んだカーチャンも喜んでいるだろう。さてさて、お赤飯でも炊いて仏前に供えますか」


 親父は既に他人事状態だ。ってか、母さんになんてことを報告してくれる!! 手塩にかけて育てた息子をこんな末路に導いたんだぞ?!


 しかし、テイのヤロウ。付き合ってやるとは言ったけど、言ったけどさぁ!!


「ちくしょう……ちくしょう……騙されたああああああああああああああああああ!!」


 かくして、その叫びも虚しくミサオの男性として生きる道は絶え、修羅の道を歩むことになったのであった。





 ―—この後、波乱万丈の学生生活が幕を開けることになるのだが、それはまた別のお話。


 では、またいつか。この話の続きをする時に会いましょう。バイバイ。

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タマがあってもタマのこしっ! 海 豹吉(旧へぼあざらし) @zyaguchi_hebo

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