第5話 人酔いのエンチョウセン

 酔っ払い

 間違えてない

 酔っ払い


 あーあ二日酔い。いつもこんなに飲むのかと母に心配された。


「仕事ではあんま飲まないよ。楽しくて飲みすぎた」


「そう、ならよかった」


 いつかの夏、母が新幹線でどこかへいなくなった。父と2人して帰って。僕はひんやり暗いトンネルが怖くて。あんまり騒ぐからおぶされて。ゆらゆらしていつの間にか眠っていた。食堂のテレビでは甲子園の延長戦が流れていて。僕は迷子になって。ガラガラ声の父が探してくれて。星がキラキラしていて、やけにみんなにぎやかで。そんなぼんやりとしていた記憶を思い出した。


 里帰り出産、父は家の食堂を休んで僕の面倒をみてくれた。寂しさからだいぶ反抗した。それでも父は母からの電話にいつも僕はいい子にしていると言った。その声はガラガラで、不思議がる母に大声で歌ったせいだとか酒やけだとか嘘をついていた。よく怒られたけどいつかの箸の持ち方は褒められた。


「上手になったな」


「お母さんが教えてくれた」


「そうか」



 しばらくして僕に妹ができた。




 一夜の切取線

 三夜の新幹線

 五夜の柄柄声

 七夜の綺麗星

 九夜の延長線


 淡々とした声が僕を探して僕をしかって

 枯れてしまって


 点は星や石や声だったり

 そのへんのものだったりする

 それは線になって

 星座になったり僕になったりする


 父は今も甲子園を見ている




「お母さん!兄貴彼女いるよ、メッセ来てる!やば、マジ嘘でしょ、これ見て!」


「やめろ!!!」



 この食堂の看板娘の声は響く。

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一夜のキリトリセン 新吉 @bottiti

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