一目惚れしか知らなかった僕に君は愛を教えてくれた

@komorikomori

第1話 コクハク

「俺と付き合ってほしい」



放課後。オレンジに染まる教室で俺と君は2人きり。

この言葉を使うのは何度目だろうか。中学の頃から何度も使ってきたせいか、

緊張という言葉はもちろん、振られるという言葉さえも俺の辞書から消えていた。

自分に酔ったようなことを考えていた俺は、返事をもらう前に、次の言葉を発した。



「来週の日曜空いてる?デートしようよ」

(ちょっと展開が早すぎたか、まあいいか)と一人で納得していた。



「ごめんなさい」



「え?」

どこかの漫画みたいに、頭が真っ白にはならなかったが、代わりに顔が赤くなった。



「まだ高校に入学して間もないから杉野くんのことよく知らないし、杉野くんも私のことを知らないでしょ?だから、デートのこともごめんなさい。じゃあまた明日。」



教室で一人泣いていた。

振られて悲しいから泣いているわけではない。

プライドを傷つけられた気がしたからだ。



その日俺の辞書にある「桜井 加恋」の欄に

初めて振られた人。とつけたされた。



翔は家に帰りすぐさまパソコンにむかった。

【女性を振り向かせる方法】



翔は振られたことがかなりの大ダメージだったので、リベンジしようとそんなことを調べている。それも相手がかなりかわいかったこともあるので、諦めることなんてこれっぽっちも

考えていなかった。



振られてからがチャンス!意識させた上での口説き方!



翔は無意識にこのサイトを開いていた。




「ふぁ〜ぁ」

気付いたら机で寝ていた。翔は夜中までパソコンとにらめっこをしていたのだ。



「結局成果なしだったな〜」そうつぶやき、学校へ行く準備を始めた。



「おっはよ〜、桜井さ〜ん」



「お、おはよう」

少し困った様子で挨拶された。またプライドを傷つけられた気がしたが、昨日よりは

痛くはない。



「ねーねー、連絡先交換し...」



「杉野くーん、私たちと連絡先交換してくれな〜い?」



「おっけ〜」

そう軽く答えると、桜井さんはそっぽを向いてしまった。



やっちったー。と心の中で思いながらも、女子グループと連絡先を交換し始めた。

もうグループなんてできてんのか〜...なんて感心しながら、加恋に目をやると、

加恋の机にも女子が一人加恋と話していた。それを見ると少し安心して、自然と

笑みがこぼれた。



連絡先を交換し終えると、裕太と健二がやってきた。2人は中学からの友達で、ずっとつるんでいる。


「お前モテモテだな〜、中学の頃から変わらない立ち位置、さすがだわ」


クラス中に聞こえるくらい大きい裕太の声は少しちくっとした。


「ほんっとに、羨ましいよ〜。で、誰と付き合うつもり?」



「誰にしようかな」



裕太は大声で笑い続けるが、健二は急に真顔になり、何かを察したかのように

裕太も真顔になる。



「何かあった?」



「実はなぁ...」



キーンコーンカーンカーン



しゃべりだそうとした時にチャイムが鳴り、話は中断となった。

話は遮られたが、心のどこかでホッとしている自分がいた。



キーンコーンカーンコーン



昼休みの時間はあっという間に来てしまった。



「で、何があったんだよ。」



俺は昨日あったことを話した。

驚いたり、慰めてくれるかとおもったら、そんなことかと裕太は

腹を抱えて笑いだす。



「振られることなんてよくあることじゃねぇかよ」



よく考えてみればそうだった。中高一貫ではないので、高校にあがったばかりの今コクハクしても振られて当たり前だった。


放課後

「桜井さーん。連絡先交換してくれる?」



「連絡先だけなら...」



「マジで?さんきゅ!」

(よっしゃ)心の中でガッツポーズした。



まっすぐ家には帰らずファミレスに裕太と健二3人で寄った。

二人が注文している間に早速メッセージを送った。



「杉野 翔です!よろしく!!」


さすがにそんなに返信は早くねぇよな。


「お前はどうすんだ、翔。」



「あー、コーラ一つ。」



白髪が似合うおじさんに飲み物を頼んだ。



そのまま一時間くらい3人でゲームをしていたが、

春とは思えないほどの暑さに、再び飲み物を注文しようとした。



「あっ」



目の前にたっていたのは[研修中]と書かれたふだをつけた加恋だった。



「さ、桜井さん?」



「っ...」

一瞬戸惑ったが、彼女はすぐに気を取り直して、



「ご注文は何にしますか?」

と、あくまで客として接した。



「ホットコーヒーを一つ...ください。」



暑いからコーラを注文しようとしていたのに。



翔は自分を取り戻せずに、好きでもないコーヒーを頼んだ。しかもホット。



「ホットコーヒーを一つ。以上でよろしいでしょうか?」


「はい...」



彼女が去った後ようやく正気に戻った。(俺らしくねぇ...)

その後彼女が自分たちのテーブルに来ることはなかった。
















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