遅い昼餉


 ちょう礼部尚書のご挨拶が終わったあと。

 月影げつえいたちは、かなり遅い昼餉を桂花宮の一室で食していた。

 腹の虫が盛大に鳴りそうなくらい空腹だった月影たちは、おいしい料理に舌鼓を打ちつつ、束の間の休息を得ていた。

「月影。さすがに今日は疲れたね」

 食後の点心てんしん(軽食。おやつのこと)を上品につまみながら、話しかける柳桂ゆうけい

「うん…………。これからのことを考えると、頭が痛いよ…………」

 その言葉にうなずきながらも月影は、額に片手を当てた。

 先ほどから何だかズキズキするのは、気のせいだと思いたい。僕は本当に、ここでやっていけるのだろうか?

「まあ、ここまで来てしまったら、自分ができることを全力でやるしかないね。それに、花国の朝廷の中でも群を抜いて優秀なせんせいに教えてもらえるんだ。こんな貴重な機会、今逃したら、後にも先にも絶対ないよ」

「えっ……そうなの?」

 月影は、下を向いていた顔を上げ、柳桂の方を見る。

 柳桂は、月影の驚きを浮かべた表情に、いささか呆れまじりに説明を始めた。

「えっ、知らないの? 指南役となってくださった方々はみな、その分野では超一流と都でも有名な方々さ。特に、こう伯佑はくゆう第一王子さまとこう仲真ちゅうしん第二王子さまは、あの若さで要職に就いていらっしゃる。異例の速さで出世されているそうだ」

「へぇ…………。そうなんだぁ…………」

 月影は、無邪気にうなずく。

 滅多に王都・瑞花ずいかに来ることができない四神宗家の直系一族の出身の割に、柳桂はなかなか情報通のようだ。

「ああ。でも、いろいろとご苦労はおありだと思うよ。お二方とも、黄王家という花国で一番のお家柄のご出身だからね。畏れ多くも女王陛下であらせられますお母上の七光りだの、コネだの陰ではさんざんいう者もいるみたいだけれど、お二方の能力と努力は、私は本物だと思うよ」

 私が言うのも本当はおこがましいことだけれども。

 こうつぶやいた柳桂は、自分の湯呑みを手に取り、それに口をつけた。

 なるほど。

 黄王家のご出身ならば、さぞ気苦労も多いことだろう。

 月影も、花国の大貴族・四神宗家が一つ、白宗家の齋家である珀本家の出。だから、黄王家の若き王子さま方のご心中を、少しばかりならお察しすることができた。

「まあ位や身分の高い者は、多かれ少なかれどうしてもやっかまれたりするからね。だから、多少は仕方がないと思うしかない」

 思い当たるところがあるのだろう。

 柳桂は、どこかあきらめたように、首を横にふった。



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