遊び

 ウフフ、アハハハハ……ウフフフフ。

 公園に子供2人の無邪気な笑い声が木霊する。


「アハハハハ、こっちだよ!鬼さんこちらここまでおいで!」

 少年は無邪気に手を鳴らし挑発する。

「言ったなーー!僕は鬼じゃなくて天使だぞー!」

 天使Aはそんな少年を追いかけ走る。


「そんなんじゃ捕まらないよー」

 少年は足が速い様で、天使をするりするりと交わしながら挑発を続けた。


「タイム、タイム」

 天使Aは息を切らしながら言った。

「いやー、元気だなー君。すごいよ。ちょっと休憩しない?」

「ダメだよ。今度は缶蹴りだよ。缶蹴り」

 天使Aはそれを聞いて本当に元気だなと小さく呟き、いいよ缶蹴りやろうと笑ってみせた。


「でもさ、缶蹴りって2人でやって楽しいの?」天使Aは少年に聞いた。

「うーん?分かんない僕やったことないから」

 少年は少し困った顔をした。それを見た天使Aは「ちょっと待ってて、知り合いに当たってくる」と、一瞬のうちに消えた。


「それで、なぜ私が呼ばれたのかしら?」

 天使Aは不機嫌な顔をした天使Bを連れて戻ってきた。

「缶蹴りするのに人が足りなかったから」

「あのね。私貴方の様に暇じゃないのよ?なんで私が貴方と、ヒトの子の暇潰しに付き合わないといけないのよ?」天使Bが天使Aに悪態をついたときだった。

「あ、エー君友達連れてきてくれたんだ」

 少年は天使Aのことをエー君と呼び無邪気な顔をしていた。


「うん連れてきたよ。彼女の名前はえっと……」天使Aは少し考える素振りをしてから、「ビーちゃん。彼女の名前はビーちゃんだ。3人いれば缶蹴り面白くなるよきっと」

 天使Aは、天使Bをビーちゃんと紹介してみせた。

 少年はビーちゃんと、聞いてエー君に、ビーちゃん、僕はユー君って呼ばれてるから皆んな英語みたいな名前と笑った。

 すると天使Bは、まだ私やるなんて一言も言ってないんだけどとため息を吐いて言ったが、それを受けて天使Aは天使Bになにか耳打ちをした。


 それを聞いた天使Bは、「なるほどね」と一言呟き。「今回に限り協力してあげる」。と缶蹴りに参加してくれることとなった。


 鬼に決まったのはジャンケンで負けた天使Bだった。


 ユー君が円の外に缶を蹴る。

 それが缶蹴りスタートの合図だった。

 天使Bは缶を拾いに走り出す。

 天使Aとユー君はその隙に隠れる場所を探す。

 天使Aは、滑り台の影に隠れた。ユー君は草むらの中に隠れる。

 天使Bが缶を拾って円に戻ってきた。そこから目を瞑って十を数える。


「一、二、三……七、八、九、十」

 もういいかしら?天使Bが目を開けた。


 静寂が公園を支配していた。

 天使Bは、辺りを見渡し、缶を中央に置いた円から離れ二人がどこに隠れているか探す。

 

 天使Bはキョロキョロと辺りを警戒しながら、ユー君の隠れる草むらの方へと向かう。

このままではユー君が見つかるのは時間の問題だ。

後数歩進めば天使Bからユー君の姿が見えるだろう。

その時、反対側の滑り台がある方で「パン」と、手を叩く音がした。

反射的に天使Bは音の方向に視線を向ける。

天使Bの視界には無人の滑り台しかない。

しかし、音は確かにしていた。


そう考えていると、その一瞬の隙を突いて、ユー君は身を潜めていた草むらから、飛び出し缶目掛けて走り出した。

突然のことに、天使Bは判断が一瞬遅れたものの、ユー君を追いかける形で走った。しかし、ユー君に追いつく事は出来ずそのまま彼は勢いよく缶を蹴ってみせた。


「やったー!すごいやユー君!」

天使Aが滑り台の影から万歳をして出てくる。

「やられたわ」

天使Bは意外にも少し悔しそうにして言ってみせた。


ユー君は興奮が収まらないようで、「エー君が音を鳴らしてくれたから、それで僕、走って、それで」と、息を切らしながら満面の笑みを浮かべていた。


そして、彼らは鬼を入れ替え缶蹴りを続け、3人でブランコを漕ぎ誰が一番靴を遠くに飛ばせるか競争をしたり、縄跳びをして、時間の許す限り公園で遊んだ。


 日が西に沈み出した頃、流石にユー君も遊び疲れたようだった。

「それじゃあ、そろそろ行こうか?」

 天使Aは、ユー君の手を差し伸べ問う。

 ユー君は小さく「うん」と呟いて、「また遊ぼうね」と無邪気に笑い手を握り、それを合図に3人揃って天高く飛んでいった。


_____

 とある病室のベットで眠る少年が居た。

 その横には少年の母親だろう女性が、充血した目にハンカチを当てて座っている。

 少年の身体には幾つもの管が挿入されており、バイタルチェックをモニターで行っていた。

 彼の脈拍はとても弱く、今にも停止しそうだった。

「……頑張ったね、悠君。頑張ったね」

 嗚咽混じりに女性は言いながら悠と呼ぶ少年の頭を優しく撫でた。

「生まれた頃から身体が弱くて……一度もお外で遊べなかったわね……ごめんねこんな身体に生んじゃって、神様は残酷ね。こんなに小さな子を連れて行ってしまうなんて。次、生まれてくる時もママの子になってくれる?そのときは、元気な身体にきっとするから。そしたら、うんとお外で遊ぼうね。約束よ」


 母は息子に別れを告げた。


 ほどなくして、少年は安らぎに満ち、幸せそうな顔をしたまま息を引き取った。

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白くて純粋無垢な悪意。 夏至肉 @hiirgi07

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