1話 騎士になりたい人生だった

 小さい頃から騎士になるのが夢だった。

 強くて優しいみんなから尊敬される、そんな存在に憧れた。

 大きくなったら東の最果てにあるこの辺境の小さな村を出て王都にある騎士と魔法使いを育てる学校に入り、自分も立派な騎士になるのだと夢見ていた。



 しかし、人生というのはそう上手くいかず今年で15歳になる少年、レイルは村で寒空の下、白い息を吐きながら平々凡々と畑を耕していた。

「何してんだろ、俺……」



 王歴342年。

 王都バリアントから見て東の最果てにある小さな村ガリスに俺は生まれた。

 身長は174cm、黒髪、顔は普通、今年で15歳、畑ばかりを耕してきた。



 この国では15歳になる男女は成人になり神から天職を授かる。

 天職とはその人に合った職業を示し、授かる天職によって覚えるスキル、身体能力が変化し、仕事や将来が決まっていく。



 例えば剣士の天職を授かれば、身体能力が大幅に上がり、剣術や体術の先頭に向いたスキルを覚え、冒険者や騎士になることができる。



 逆に商人や農民などの戦闘にむかない天職を授かれば身体能力はあまり変わらず、商人ならば計算や話術のスキル、農民ならば畑を効率的に耕すスキルなどを覚え、冒険者や騎士になることは不可能なのだ。

 そう、この世は天職で今後の人生が決まってしまうのだ。



 そんな一世一代のメインイベントを先月で成人になった俺も村の教会に行って神様から天職を授かってきた。

 しかし神様から授かった天職は今この畑を耕している状況を見て御察しの通り、普通の平民職の農民だったのだ。



 それを教会の神父様から聞いた時の俺の絶望感といったらない。自然と目から大量の汗を流し、何も考えられず、夏が終わり少し肌寒い秋の空の下、遣る瀬無い気持ちを畑にぶつけた。



 いや、まあよくよく考えて見ればね、騎士の天職を授かるはずがなかったんですよ……。

 だって小さい頃から剣や魔法の才能があるわけでもなく、親も普通の農民ですよ。

 普通に考えれば騎士になるはずもないんですよね。



 母親は泣き叫びながら畑を耕す息子の姿を見て、

「素直に育ちすぎてしまった……」

 と言っていたらしい。



 一日泣きながら畑を耕したあと農民のまま騎士になろうとしたが身体能力がいいわけでもないごくごく一般的な身体能力の俺では無理だと村の人全員に言われて俺の夢は完全に絶たれた。



 そして今に至る。

「本当に世知辛い世の中だ」

 そう文句を垂れながらも鍬で土をすごい速さで耕す俺は本当に農民の才があるらしい。



 するとそこに一人の女性の声が聞こえてくる。

「何をぶつくさ言っているんだい!」

 顔を上げるとそこには母ステラの姿があった。



 45歳、見た目は中肉中背、顔にはたくさんのシワのこれぞオバサン!がそこには立っていた。

「なんだよ母さん、俺はサボらず仕事してるよ」

 鍬を高速に動かして仕事してますアピールをしてみる。



「まだそんなのも終わってないのかい! まさかあんたまだ騎士になるつもりじゃないだろうね?」

 ステラは仕事の進み具合の悪さに呆れながら疑いの眼差しで怪しんでくる。

「んなわけないだろ、もう無理だって思い知ったよ」



 そう思い知った。

 また先月の話、どうしても騎士になりたかった俺は親を説得してこの村で一番強い元騎士のガーディアを倒すことができれば俺も騎士になることを許してもらうように頼み込みなんとか了承を得た。



 ダメ元で頼み込んだことなのだが意外にもあっさりと了承が得られた俺は飛び跳ねるような勢いで喜んだ。

 しかしいざ戦ってみると結果は当然ガーディアの圧勝だった。

 元とはいえ騎士だった相手に騎士になりたいという気持ちだけの何もしてこなかったボンクラが勝てるはずもない。

 今思うとただの馬鹿だ。



「悪いなレイル。でもお前さんは両親のことも少しは考えてやんな、騎士は名誉な天職ではあるがとても危険な職でもあるんだ、お前を心配してのことなんだよレイル」

 ガーディアにそう言われ諦めたつもりだったがやはり15年もの間抱いてきた夢をいきなり諦めろと言うのは無理な話である。



 そんなこと考えているとステラが

「もう畑仕事はいいから森に行って薬草と山菜を採ってきておくれ」

 そう言って背負い籠を俺に投げつけてきた。

「その籠一杯になるまで帰ってくんじゃないよ!」

 念押しまでされて魔物はいないがそこそこ危険な動物達がいる森に放り込まれた。



「これが本当に子を心配する親のすることかね〜」



 かなり雑な扱いだと思うのだが....

 しかも成人男性が背負うにしても大きすぎる籠を一杯にするまで帰ってくるなとか鬼畜だと思う。

「はあ、考えてもしかたないし、さっさと終わらせるか」

 そうして草集めを始めた。


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