第13話 公園のベンチへ座るとセンタメンタル

 日々があっという間に過ぎていく、夏休みも後半に入るとバイトにデートにデートと、あとデート。それとデートで忙しさは増すばかりだ


 そう 俺には彼女が2人いるからな!

 知ってるか? 彼女って何人いても犯罪でも法律違反でもないんだぜ

 ひまりとは図書館や天文台・博物館といった知的カルチャーなデート

 あかりとはアニメ映画や家でゲームといった趣味満載サブカルチャーデートをする


 体が2つ欲しいよ。ドキドキの種類はひまりとあかりで違うかも知れないが、一緒にいて楽しいもんは楽しい……

 ただ3人ならもっと楽しくなりそうだ。恋愛が絡まなきゃ3人一緒にいつまでも遊んでいられたかもしれない。


 恋か友情か姉か妹か、それが問題だ。大人になるってのは自分の責任で選択しなきゃならない事が増えるってことなのか……

 大人になりたい気持ちもあるし、子どものままでいたい気持ちも少しある



 バイト終わり帰ろうとすると優也さんに呼び止められた


「時間あるか? 」

「帰るだけなんで ありますけど なんすか? 」

「最近 なかなか話せなかったし 少し付き合えよ」

「……良いっすけど」


 優也さんはいつもの女の子を落とすキラースマイルを見せると俺の背中を軽く叩いてきた


 外に出ると21時を過ぎても気温はあまり下がってないのか ジメジメと湿度も高く不快指数はすぐに上がり眉根を寄せてしまった



 優也さんの家の近くの公園までやってくると


「何、飲む? 」

「じゃあ ブラックで」


 優也さんは自販機に歩み寄りボタンを押してからスマホを近付けた。

 無機質な機械音が響くと、缶コーヒーは取り出し口へと落ちる。


「ほらよ 自販機の周り虫が多くて嫌になんな」


 ベンチに座る俺に缶コーヒーを放って来たので、両手でしっかりと掴んだ。冷たくて気持ちが良かったので思わず首やおでこにも当ててみる。


「頂きます。虫、苦手なんですか? 」

「いや。神社なんて虫の宝庫だからな、ガキん頃から捕まえたりしてたよ」

「優也さんの子どもの頃とか想像出来ないっすね」

「何でだよ 俺にも可愛い子ども時代があったさ」



 そう言うと優也さんは『これが今は合ってるよな』と言いながら缶ジュースのプルタブを開けた プシュッ。と炭酸の抜ける音が少し場を涼しくしてくれた。

 決して大きくはない公園。砂広場に滑り台とブランコ 、後は色が剥げてしまってるけど、パンダやゾウの形をした、跨がる事も出来るオブジェがあるだけだ。


 ここの公園は正直、来たくはない。俺たちの近くにはもっと大きく設備も整った公園もあったので、遊ぶ時はそっちで遊んでいた。が、あの時は……あかりが事故に遇った時は、ここの公園で遊ぶ事になっていた。


 この公園で遊ぶことさえしなければ あかりは事故に遇わなかったのに

 意味もない『たられば』だと分かっているが、そう思わずにはいられない


「なぁ お前 最近、から元気だけど 何かあったのか? 」


 重くなりすぎないように声音は優しい。

 この人にはやっぱ勝てないだろうな

 でも、これは俺とツインズの問題だ 他人にとやかく言われたくないし、二股してるなんて言えねー


「言いたくなきゃ言わなくても良いけど 前に俺んとこの神社の夏祭りで遊びに来た時、俺のお袋とも会ったじゃん」

「それがどうしたんすか? 」

「お袋が『あかり』ちゃんだっけ? あんだけ可愛いから見覚えがあったらしく、それこそ5・6年前に毎日の様に神社でお参りしてたらしいぜ」

「お参り? 」


 5・6年前なら、あかりが事故に遇った前かな?


「そ お参り。っで、うちの神社の1番の御利益って知ってるか? 」


 首を横に振った


「縁結びだよ。恋愛成就って言っても良いけど」

「え? 」

「お袋が言うには、ほぼ毎日熱心にお参りに来てたらしい あれだけ可愛いなら、お参りしなくても成就出来そうなのに。って思ってたから、記憶に残ってたらしいぞ」


 あかりは10歳の頃には俺に惚れてた。と、ひまりは言っていたが、こんな所までやって来て、ほぼ毎日お参りをしてたのかよ。

 この公園で遊ぼう。言ったのも、あん時は、あかりだったよな。


 顔を上に向けると街灯にも小さい虫が集まっていた

 あかりに引き寄せられるように……


「その分じゃ、ここの公園の噂も知らないよな? 」

「噂? 知らないっすね」


 優也さんは片方の口角だけを上げ、自嘲気味に笑うと炭酸ジュースの缶を見せ付けるように俺の前に差し出してから口に含んだ。


「お前らの年代だとギリくらいかなぁ。俺が、ってか俺と友だちが流した噂なんだけど、うちの神社は『恋愛成就』が、御利益だから、ついでにこの公園で告白すると結ばれる。ってやつ」


 言われてみればクラスの女子達が話していたのを、聞いた事あるようなないような


「中二病に掛かってたのか知らねーが、神社でお参りしてから、この公園で告白すると成功する。自分で立てた噂がどの位の反響になるか楽しんでたんだろうな 俺の影響力すげー。みたいな」


 確かに中二病だな。でも、現に中二だった訳だから その場合は病気ではないのかな。


「そしたら……クラスメイトの女子がさ、俺が立てた噂通りの行動で告白してくる訳。めちゃくちゃ焦ったよ。俺はそいつの事を好きでもなかったし、でも噂は成功する。で流してたし、現に俺がOKして成功例を作れば、噂はもっと強力に広まるんじゃねーか。っつー軽い気持ちでOKしたんだよ」

「で、どうなったんすか? 」


 何気に先が気になってしまう。優也さんはポケットから電子タバコを取り出した。


「1本だけ許してもらおう。で、付き合って、1週間で振った」

「ひどっ! 」

「な。 自分でも引くわ、その子は噂は本当だよ!って舞い上がってたから宣伝効果にもなったし、もう良いだろ。って思って振ったんだよ」

「相当、女の子は落ち込んだでしょうね」



 電子タバコの煙を吐くと街灯の光りに照らされ、暗いなかに白いモヤが流れ広がった。噂のように


「俺は自分の流した噂の影響度しか考えてなかった。別れてからそう言えば、どんな女だったっけ? って、思って観察したりすると、優しくて思いやりがあって、気配りも出来るがんばり屋さんだった。顔も可愛い方だし。なんだよ! めちゃくちゃ良いじゃん。って、なって今度は俺から告ったんだけど、あえなく撃沈 御愁傷様って感じ」


 優也さんは炭酸ジュースを隣に置くと、両手を合わせて目を瞑った。


「で、俺に何を話させたいんすか? 」

「別に。話したい何かがあれば。どーぞ」


 目を開けてから、そう言ってバイト中にやるような、片手でメニュー表を見せる仕草を大袈裟にやってきた。

 話そうかどうか迷う 他人のアドバイスがまともにきけるだろうか


「陽太さ。俺が言いたいのは、今だけを見るんじゃなくて、後の事もちゃんと考えろよ!ってこと」


 後の事か……俺にも今の状況が、良くない事くらいは分かっている


「で、本当に言いたいことはこれだよ これ! 」


 缶ジュースを指差す優也さん。

 さっきから、この炭酸ジュースを見せ付けてきたりしてるけど何かあんのか?


「あぁ もう! これも言わなきゃ分かんねーのかよ! このジュースの名前は? 」

「ジンジャエール」

「俺の家は」

「神社」


 ちょっと まさか……


「応援は英語で」

「エール」

「と、言うことは? 」


神社ジンジャエール』なんて、意地でも言ってやんねーー

 こんな、くっだらない事を言うために長話に付き合わされたのかよ!


「そっ お前が今、心の中で思った言葉だ。俺はどんな事があろうと応援してるぞ」


 勝手に人の心を悟るな!


 でも 下らなすぎて何か心は軽くなった気がする。


「さてと。もう遅いし気を付けて帰れよ」

「うっす 優也さん高身長・イケメン・高学歴で嫌みっすね」

「その上、面白い」


 優也さんはジンジャエールをゴミ箱に捨てるとニヤッと微笑んだ


「ですから 自分で言う人は、例外なくつまんないっすよ」


 そう言うと背中を強く叩かれた


「空元気ですかーー? 闘魂注入だ バカヤロー」

「いってー! 空元気じゃないっすよ 闘魂ありがとうございました! 」

「遅いから気を付けて帰れよ じゃなあ」


 片手を上げると自分の話しに手応えを掴んだのか、優也さんは軽い足取りで消えていった。



 よっしゃ 俺の最優先でやるべき事は1つ!

 ポケットからスマホを取り出し操作すると、ディスプレイには番号が映し出された。

 1つ1つはただの数字なのに見慣れた好きな数列。この数字が11コ並んでるのを見ると、俺は緊張もするし幸せにもなれる



「ひまり? 今 大丈夫? うん そう、で……明日、時間貰えないかな? 大事な話があんだけど」

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