第12話 祭りの後の祭り
神社の境内は屋台がいくつか出てはいたが 人はまばらで小さい子が走り回っていたり、どっから流れているのか、録音された祭囃子が聞こえてきたりと地元の小さい夏祭り感が満載だ
でも、このくらいの雰囲気でこのくらい空いてる方が、のんびりしてて歩きやすいし疲れなくて良いや
隣で歩いているあかりが止まりかけたので、俺は繋いでいた手を引っ張られる形になり ついには立ち止まったあかりに目をやると 見ていたのは沢山のお面が並んでいる屋台だった
「何か欲しいのか? 」
黙り込むあかり。お面は欲しいが、買って子どもには見られたくないって所だろう
「俺はあれにしよう。あかりはどれが良いんだ」
ありがちな狐のお面を指差すと パッとあかりの顔が明るくなり、指差したのは昔に流行っていた魔法少女アニメのヒロインが微笑んでいるお面だった
おぉ 懐かしい この健気に頑張る元気っ子ヒロイン、あかりすげー好きだったもんなぁ よく魔法少女ごっこみたいのに付き合わされていた もちろん俺は悪役で、一生懸命真面目に取り組むあかりと、恥ずかしながら、やらされ感MAXなひまりがダブルヒロインだ
お面を2つ買っておでこの上に付けた
あかりはニコニコしているし、おでこに付けた魔法少女もニコニコしてるしで、何か笑ってしまう
お面なんて付けるの何年ぶりだ? それこそあかりとひまりと最後に3人で来た夏祭り以来か……
あん時は迷子になったあかりをひまりが探し回って見付けてきたっけ。
その時のひまりは慣れない下駄で歩いたり走ったりしてたからか、白く小さい足からは血を流していた……
ひまりには俺は色んな面で勝てないだろう ある意味では恋愛感情と同じくらい尊敬している
自己犠牲が強いひまりだからこそ俺が守ってやりたいと思ったんだよなぁ
「ようたー たこ焼きー」
「ハイハイ それだけで良いのか? 」
「かき氷ーーイチゴーー」
「よっしゃ たこ焼きからだな! 」
ふむ。やはり味は微妙だが祭りの雰囲気と 隣でハフハフしながら食べるあかりのお陰で美味しく感じられる
「おい 鼻にソース付いてんぞ」
あかりは鼻先を見ようとしたのか、寄り目になったので吹き出してしまった
「 何だよ その顔 寄り目になってんぞ」
「むぅ~ ティッシュちょうだい」
「自分じゃ拭きにくいだろ。拭いてやっから動くなよ」
鼻先についたソースをティッシュで拭き取ると 見上げて来るあかりと目が合った。
あれ? なんだ?? あかりの顔が……
ほんの一瞬だけ あかりの輪郭や顔の造作が大人になって見えた 鼻筋が通っていて顎が細く、今のひまりと同じ顔……ただ目元だけは今、目の前にいるあかりと同じ
「ありがと ようた」
微笑んで、またたこ焼きを頬張るあかり。
もし事故に合ってなかったら さっきみたいな女子高生になっていて普通に学校行って普通に誰かを好きになって……それが俺だったら、俺はひまりとあかり どちらかを選ぶ何て事が出来るのだろうか
きっと出来ないから どちらも選ばないだろう もしくは最低野郎になって どちらとも付き合うか
そんな事を考える自分がおかしく思えて笑ってしまった
たこ焼きと、かき氷を食べ終え 射的やヨーヨー掬いなどで遊んでから帰る事にした。
そこでも、あかりは『可愛いは正義』を体現し、射的も数回オマケしてくれたし、ヨーヨー掬いなんか掬ってもねーのに2つもくれたよ!
あかりが両手に持ったヨーヨーを器用につきながら口を尖らせる
「むぅ みんな、あかりが小さいと思って」
「まぁ 良いじゃねーか 善意でオマケてくれてんだから」
「でも あかりは16歳だよ」
そんなお面をオデコに付けて両手にヨーヨー持ってる16歳なんていねーよ!
「おっ その『本気を出せば圧倒的に勝てるけど、格好悪いから本気ではやらない。まっそれでも勝っちゃうから やれやれだぜ』って、後ろ姿は陽太じゃねーか。遊びに来てたのか」
俺の後ろ姿はどんな風に見えているのかが凄く気になる! 振り向いてみると優也さんと見慣れない綺麗な浴衣姿の女性がいた
「ぐ 偶然ですね~ 優也さんも夏祭りに? 」
「ってか、俺んちここだから 手伝いだよ」
「え? ここって……」
「だから、ここの神社が俺んちだよ 因みにこれ、俺のオカン」
知らなかった。優也さんが神社の息子だったなんて それよりお母様は完全に銀座とかのママって呼ばれてそう。取りあえず俺とあかりは、お母様に挨拶をしておいた
「まぁ 可愛い。妹さんかしら? 小学生? 何処かで会った気がするわね」
「お お袋 あっちで商工会の人たち集まってるから行こうぜ」
優也さんは気を利かせてくれたのか、お母様の背中を押すように苦笑いで去っていった
横を見ると案の定、プク顔のあかり……
「あ あかり。優也さんすげーな。お面をオデコ左右にしていた上に 謎にヨーヨーと金魚鉢持ってたな あれで20歳なんだぜ! 」
ダメか……俯いてしまった。
そのまま、あかりが歩こうとした時である 何かに
「大丈夫か? 怪我ないか? 」
あかりを起こそうと手を差し出した。
いてっ! また、あかりが事故った時のフラッシュバックか……なんなんだよ
「大丈夫だけど ヨーヨーが……」
あかりか両手に持っていたヨーヨーは見事に潰れ 水が地面に染みていった
「ヨーヨーの水が少し掛かったみたいだな」
水が掛かった、あかりの顔や浴衣を拭いて足元を見ると下駄の緒が切れていた
「転んだのはこれか 下駄脱いで俺の背中に乗れよ」
「あかりは裸足でも大丈夫だよぉ」
「俺が大丈夫じゃないの」
下駄は邪魔になるので捨てて 花火大会の時と同じように、あかりをおぶった。
「しっかり掴まれよ」
あかりは両腕をしっかりと俺の胸の前でクロスさせた。
「じゃ 帰りますか」
早くあかりを鈴影家へ送りたかったので近道でもある裏参道を通る事にした。
裏参道は人気も街灯も少なく暗いので あかりは怖くなったのかギュッとしがみついて来た。あかりを笑わせようとオデコに付けた狐のお面をかぶり振り向いた
「コンコン あかりちゃん。痛いとこはないコン? 」
黙り込むあかり
「コン? 平気かコン?」
あかりもオデコに付けた魔法少女のお面を被った
「……痛い」
「ほんとか? どこが痛い? 」
焦ってしまい狐のお面をオデコに戻した。
「こころ」
「え? 」
「心の奥が痛い 心が痛くて……どうにかしてよぉ 陽太…… 」
魔法少女の笑顔のお面とは対照的に声は細く震えていて そのアンバランスさに怖くなる……
「陽太が好き 子どもでも好きな気持ちってあるんだよぉ この想いはどうすれば良いのか分かんないよ あかりは陽太が好きなんだ 」
魔法少女の笑顔での告白なのに あかりの想いが俺の背中と心に重くのし掛かってくる
「ひまりちゃんと付き合ってるんでしょ? 何であかりはダメなのぉ あかりはスタートラインにも立てないの? 悔しいよ」
あかりの言葉は濁流のように俺の心に入ってくる せき止める事など出来る訳もなく掻き乱される 喉が渇く……
「ねぇ 何でひまりちゃんなのぉ 何で待っててくれなかったのぉ ズルいよ 酷いよ」
1つ1つの言葉が突き刺さる 頭と心の連携が取れずにショートする 頭では、ひまりと付き合ってる事を言えよ。と命令してるのに、心はそれを強く押し止める。
「つ 付き合ってねー。って言ったじゃん」
これは誰に対しての優しい嘘?
「ほ ほんとに? 」
「あぁ」
「じゃあ あかりの目を見て言ってよ! 」
魔法少女のお面を取り覗き込んでくる、街灯に照らされたあかりの顔は、涙と鼻水が光りぐちゃぐちゃになっていた。
必死に訴えかけようとする、あかりの真っ赤になりながらも、黒目がちな目を見つめながら自分に……ひまりに……あかりに嘘をついた
「俺はひまりと付き合ってない」
これは弱い自分への保身?
ふいにあかりが首を伸ばし……唇が重なる……
「ようたー 好きだよぉ あかりと付き合ってよ ひまりちゃんより誰よりもあかりの方が陽太が好きー。 負けないよ 誰にも好きな気持ちは負けない その為にあかりは目覚めたんだ! 」
「……分かった……付き合おう」
負けてしまった……最後の言葉は頭をハンマーでぶっ叩かれた様に効いた……
言った後に全力で後悔したが後の祭りだ……正真正銘のペテン師だよ俺は…… 全員が傷付く結末しか見えない
ほんとに最低野郎だ
俺の言葉にあかりは驚きのあまり息をしてないんじゃないか。って位にフリーズしている
「あかり。付き合おう でも1つだけ必ず約束してくれ ひまりには付き合ってる事は内緒だ 守れるか? 」
頷くあかり……
自分の言葉に自分が一番嫌悪感を抱いただろう
何故 ひまりと付き合ってる。と言わなかったのか、言えなかったのか……
事故を回避したあかりと仲良く付き合ってるパラレルワールドもあるのかも知れない。でも、俺がいるこの世界では最悪の選択をしてしまった。
幼馴染みの双子と同時に付き合う。字面だけだとラノベみたいだが現実ではどうなんだろうか……どちらにもバレないようにデートをする……ラノベでは鉄板だが現実ではどうなんだろうか……
どちらからも言い寄られイチャイチャする。ラノベ……
あれ? 何か俺、ちょっとずつ『美味しいな』って思ってきてない??
「陽太ー あかりと付き合えて嬉しい? にんまりしてるーー」
神よ。どうやら俺は純粋にゲス野郎だったらしい
あかりを鈴影家に送った後、一番最初にやった事は、スマホの待ち受けを海外のサッカークラブのロゴに変えた事だ
ひまりと2人笑いあってる画面はフォルダに閉まった
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