第44話

え?

それって、あおいさんとエステルさんのお母さんを夫人が殺したってこと?

でもあおいさんのお母さんって夫人にいびられて精神的なもので弱って亡くなったんじゃなかったっけ??


「母が亡くなった時私は8歳で、当時は何もできませんでした。

でも今は違う。

母は、夫人にもらった見舞いの菓子を食べて苦しみだし亡くなったのです。」


「なっ!

それこそ言いがかりですわ!

わたくしはそんなこと知りません!!

それに、あの女が死んだ時に一通り調べたはず!」


そう夫人は喚き散らす。


「当時母は夫人に辛く当たられており、精神的に落ち込み、ほとんどをベットの上で過ごしておりました。

私も魔法の才能があったために夫人と兄ブランにひどく当たられ、毎日母と離れで暮らしておりました。」


そう話し出したあおいさんをみる夫人の表情には余裕がある。

本当に夫人が犯人じゃないのだろうか?それともバレない自信があるのか?


「そんな時、珍しく夫人から見舞いにと焼き菓子が届いたのです。

その焼き菓子を食べた日の夜に母は急に具合が悪くなり亡くなりました。」


「何を言う!

当時その焼き菓子は他にも食べた者がいたはずだ!あの女以外は何の問題もなかった!」


そう言われたあおいさんは夫人を正面から見つめる。

いつもと同じ無表情に見えるが、瞳の奥には怒りが燃えている。


「ああ。

夫人が見舞いをよこすなどおかしいと思い、母付きのメイドが毒見をしたうえで母も私も一緒に食べた。

だからあの日は関係ないと思ったのだ。

だが母が亡くなって2、3日経ち、やはりおかしいと思った。

母は精神的に落ち込み寝込んでいた。体も弱っていたが病気だったわけではない。

なのにあんなに急に亡くなるのはおかしいとな。

母が亡くなってバタバタしていたからか、その菓子の残りがそのまま残っていたのだ。

それを調べた。

そうするとある植物の成分がでてきた。」


夫人の顔に焦りが浮かぶ。


「だ、だが、あの植物は毒ではないはずだ!」


「あぁ、そうだ。

だが母は寝込みがちで体力も衰えていたため滋養強壮のための薬を飲んでいた。

その薬と菓子に入っていた植物の成分が反応すると毒になることがわかったのだ。」


「そんなことわたくしは知りません!

そもそも今更、証拠も何もないではないか!

浅ましい平民の子が、わたくしを陥れようとしているのでしょう!」


元は美人なのに、高位貴族の夫人だとは思えないほど酷い顔だ。


「証拠?証拠ならある。

先程自分で言ったではないか、

『あの植物は毒ではないはずだ』と。

私はなんの植物か言っていないのになぜわかる?

20年前の菓子に入れた材料をなぜ覚えている?

それは夫人がその植物の成分を菓子に混ぜたからだ。

母には毒になるとわかっていたのに!」


そう言うあおいさんの声が謁見の間に響き、一瞬の静寂が訪れる。


「な、なぜユスティアを・・・」


そう公爵が言うと堰を切ったように夫人が叫び始めた。


「う、うわあああぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!!

なぜ!?なぜだと!?

あの女が悪いのだ!!!

あの女が!!!!!!!!

平民の分際で、わたくしの夫であるヒンメルの愛を独占し、子を産んだあの女が!!!!」


目を血走らせ、汗や唾を飛ばしながら喚き散らしている。


「この国に来ていた時にあったパーティでヒンメルに恋したわたくしは、国に帰ってからヒンメルのことを調べた。

そこでヒンメルにあの女がいたことは嫁ぐ前から分かっていた!!

私も隣国バスドニアの王族。平民なのは気に入らないが、自分が後から来たのだ、他に女がいることは仕方ないと思っていた!!

だが、嫁いでみたらヒンメルが愛するのはあの女ばかり!!!私のことは義務的に扱うどころか、あの女との仲を邪魔した邪魔者扱い!」


それを聞いたあおいさんのお父さんは邪魔者扱いなどしていない、と。

隣国の王族から嫁いできたのだ。丁寧に接していたと言う。


「いいや。わたくしには分かっていた!

丁寧に接していると見せかけて、目の奥では、心の奥では、あの女との結婚を邪魔したとわたくしを恨んでいるのをな!!!

私が子を産んだ後は役目は果たしたとばかりにヒンメルは私の元へは来なくなった。

だがそれでもよかった。わたくしは男児を産んだ!わたくしにそっくりな公爵家の嫡男だ!あの女が産んだのは女児!

なのに!それなのに!!

わたくしが子を産んだ3年後、あの女も男児を産んだ!しかもヒンメルにそっくりな!

それだけでも腹立たしいのに、魔法の才能まであるだと!?

ふざけるな!平民の血が混ざっているくせに!

だから殺してやった!

あの女がいなくなればわたくしを見てくれるかもしれないと!

少しでも良い、私を愛して欲しかった!!」


そう言った夫人は、もう何も言うことはないというように口をつぐみぼーっと宙を見つめている。

隣で夫人の告白を聞いたブランは、こんな母の姿は見たことがないのだろう。口をぽかんと開け、唖然としていた。


結局、罰金白金貨10枚だった夫人も殺人の罪で生涯幽閉となることが決まった。

夫人は隣国の元王族。そしてあおいさんとエステルさんのお母さんが平民の妾であったことから本来なら極刑でになるところを生涯幽閉となった。

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