第9話 あらやだ! お礼は高級メロンで良いわよぉ?

 波に打ち上げられたトド……じゃなかった、ヨシエさんが、いつものようにででん、と寝転がっている。最早見慣れた光景だ。


 今日はバイトが休みだというのに、私は何が悲しくてこのだらけきったおばさんと一緒にホリデーを過ごさなくてはならないのか。かといって、家主である私がここを明け渡すなんて絶対に嫌。負けてたまるか。


 朝ご飯は、昨日の夕方に買ったお惣菜の残りを夜のうちに冷凍しといたやつ。イトウのご飯と一緒にチンして食べた。

 お昼はこないだ30円引きになってた食パン。これも冷凍しておいた。凍ったままトースターで焼いて、マーガリン塗っていただきます。


 で、いまは15時。まだまだタニヤマートのタイムセールは始まらないから、だらだらと寝転がってスマホゲームをしていた。課金なんてしない。さすがにそれはもったいないと思うくらいの金銭感覚はある。


「みくちゃん、だいぶわかってきたわね」


 明らかに上からの物言いにいらっとする。


「何がですか」

「だいぶ節約出来てるんじゃない、最近?」

「まぁ、それなりには」

「コンビニでかご一杯に惣菜とポテチ入れてた人とは別人だわ、別人」

「そっすか」

「これもあたしのお陰よねぇ~! アーッハッハッハ!」


 まぁ、確かにきっかけにはなったかもしれないけどさ。


「……で、いくらくらい浮いたの?」

「は? 何がですか?」

「食費よ、しょーくーひ!」

「えっと……どれくらいだろ。ちょっとわかんないですね」


 嘘だ。

 いまのところ5,000円は浮いてる。


「んもー、ダメよちゃんとわかるようにしとかないと」

「どうせ、その浮いたお金でランチがどうとかって話なんですよね?」


 と、ズバリ指摘すると。

 ヨシエさんは「やぁーだ!」と無駄に大きな声を出した。


「メロンで良いわよっ」

「――は?」


 ぷくぷくとした両手を、ずずい、と差し出して、なおも「メ、ロ、ン」である。


「何がメロンなんですか?」

「決まってるじゃない、あたしへのお礼よ、おーれーい! オ・レィ! なぁんちゃって! アーッハッハッハ!」

 

 今度はフラメンコよろしく両手をパパン、と打った。最高にうざい。


 その『オ・レィ!』はヨシエさんの中で相当なヒットだったらしく、しばらくメロンのことも忘れ、ヨシエフラメンコは続いたのだった。


 窓から投げ捨てようかな。

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