第3話 あらやだ! 何でチラシがないのよ、新聞は?

「アーッハッハッハ! アハハハハハ! やぁーだもう、まっちゃん、面白いわぁ~」


 相変わらずヨシエさんはテレビの前に陣取って、寝っ転がりながら私が砕いたおせんべいを食べている。身体が小さいから1枚を半日かけて食べる感じ。お茶だってヨシエさんより大きい500mlのペットボトルだから、当分は持つだろう。というわけで、食費に関しては、まぁ問題はない。


 ただ、なんていうかもう、ちょっとイラっとする。


「ヨシエさん、うるさいです」

「はぁ? うるさかった? 音量下げる?」

「いや、テレビじゃなくて、ヨシエさんの笑い声が」

「あらやだ! 気を付けてるつもりなんだけどねぇ。アーッハッハッハ! やぁーだもうっ! アーッハッハッハ!」

「だから、ヨシエさん、うるさいです」


 こっちはね、新居探しに忙しいんですよ。

 

「ていうか、この部屋広いけど、一人で住んでるの?」


 ギクッ。

 そこつく? 


「彼氏と住んでたんです。いまはちょっと距離を置いてるっていうか」

「ああ、振られたのね」

「ちょ、ちょっとそんなはっきり」

「良いじゃない。どうせろくでもない人なんでしょ?」

「ろくでも……ないわけでは……」

「男はね、甲斐性よぉ。あたしなんてね、結婚してから、いーっかいも働いたことないんだから! やっぱりそういう人見つけないとねぇ」

「うわ、まじすか? 一回も? パートとかも?」

「無理よぉ、あたしなんて」

「いや、スーパーのレジ打ちとか、おばさんいっぱいいるじゃないですか」

「無理無理無理無理! レジとか、ボタンいっぱいあるし! あたし、お金数えられないもの! アーッハッハッハ!」


 お金を数えられないとか、嘘すぎる。

 だったらいままでどうやって買い物してきたんだよ。


 呆れ顔で見つめていると、ヨシエさんは、また、ぶっ、とおならをしてから「そういえば」と言った。


「ねぇ、チラシないの? あたし、チラシ見ないと死んじゃうんだけど」


 と顔をしかめた。


「チラシなんてないですよ」

「はぁ? 何でよ、新聞は?」

「とってません」

「嘘! じゃあテレビ欄も見られないじゃない! アンタ、おばさんを殺す気?」


 もうますます未知の生き物すぎる。


 チラシと新聞のテレビ欄がないと死ぬと騒ぎだす生き物、それがこの小さいおばさん、ヨシエさんだ。


 

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