第1話 あらやだ! だったら、スーパー行きましょ!

「あら、あらららららら……!」

「な、何!?」


 耳元で、とても『ささやき声』とはいえないレベルの声が聞こえた。キョロキョロと辺りを見回すも、至近距離には誰もいない。何なのよ、とうとう幻聴? ショックのあまりってやつ?

 

 28歳、フリーター。

 友達はまだ独身の方が多いけど、結婚を前提のお付き合いをしていたりとか、もしくはバリバリ働いてキャリアアップがどうとかって感じ。まだ焦る年じゃないって回りは言うけど、正社員で働いてる28歳と、フリーターの28歳は違う。もっといえば、結婚を前提にした彼氏がいる28歳と、彼氏に振られたばかりの28歳も違う。


 とりあえず今日のところは食ってやれ。失恋したらやけ食いが許されるのだ。法律でもそう決まってる。私の中の法律では。


「あらっ、やぁーだ。お惣菜ばっかり!」

「ちょ、何!?」

「まぁでも最近のお惣菜って美味しいのよぇ。ねぇ? 侮れないっ、コンビニっ!」

「えっ、あ、はい」


 やばい、返事しちゃった。

 返事したら魂抜かれるとかそんな都市伝説あったかな。


「だけどこれは買いすぎよ。さすがのあたしだって『今日は旦那が飲み会だし、息子もいないから、惣菜で済ましちゃえ!』って時しかやらないわぁ」

「そ、そっすか……」

「――あら? ちょっとアンタ!」

「な、何すか」

「そのポテチ! タニヤマートで88円だったわよ!」

「いや、でもタニヤマート遠いし……」

「若いんだから! それにいま閉店15分前だから、お惣菜も半額よ? あそこはね、店内調理で美味しいの! ほら、急いで!!」

「えっ、いや、その」

「お茶だのお酒だのもあっちの方安いから! ほら、急いで戻して!! 走るわよ!」

「は、はいっ」


 って、何となく乗せられてしまったけど、私は何で走ってるんだろう。



 これが、体長……いや身長っていうべきなのかな、約14センチの小さなおばさん、ヨシエさんとの出会いだった。

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