壺中の天

かがち史

序 壺中天


 その姿は、むしに似ていた。



 狭い壷中こちゅうでうごめく、無数の蟲だ。

 外の光を求めて、同類を喰らい合う愚かな蟲だ。



 『井の中の蛙大海を知らず』という。

 ならば壷中の蟲は、なにを知るというのだろうか。


 いにしえの仙人は、壷中に天を見たという。

 ならばそれは、狭くとも天に違いないのだろうか。



 奪い合い喰らい合う天の下に、私たちはその身を置いてしまった。



 奪わなくては奪われる。

 喰らわなくては喰らわれる。



 奪い、喰らうだけの理由がないものは――



 いっそ、土に還ったほうが幸福なのかもしれない。




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