アナンがクサーヴァの家に来てから三週間が過ぎようとしていた。クサーヴァのゴルトムント島に関する質問は連日続けられたが、それらはかなりの量の報告書となって定期的にピエールに送られていた。そのうちのいくらかは、情報を得たマスコミによってリニアネット上でも公開され、『アナンのゴルトムント回想記』として、ナルチスシティではちょっとした評判になりかけていた。クサーヴァはアナンと共にそれを読んだりしたが、誇張した表現や明らかな間違いなどもあって、相変わらずの興味本位の取り上げ方に少し憤りを感じていた。

「アナン、どうだい。連中は、アナンをこんな風に興味本位で見ようとしているんだ。これを書いたやつ、まるでゴルトムント島が未開人の社会のような書き方をしているじゃないか」

 実は、アナン自身はクサーヴァが怒るほど、記事の内容に不満を持っているわけではなかった。

「でも、島には自動に走る車だってないし、遠くの人と電線を通じてしゃべったりすることなんて出来ないし。ここに書いてあるとおりですよ」

「アナン、私はね、もっと君たちの社会に誇りを持って欲しかったんだ。いや、確かにアナンはゴルトムント島に誇りを持っていたはずだ。──だが、どうだい。いまや君自身が、あっさりナルチスシティの優位を認めてしまっているじゃないか。アナン、君はここにいるとどんどん変わっていくようだよ」

 クサーヴァに言われるまでもない。毎日のあまりに快適なこの暮らしはゴルトムント島などと比べるべくもない。アナンにとっては天国のような日々だ。もちろん、アナン自身は自分がクサーヴァの保護の下に置かれているからこそ、このようないい思いができることもわかっている。しかし、人は便利な暮らしを経験してしまうと、それより不便な状態にはもう戻りたくないと思うものである。

 それに技術的なものに興味を持つアナンにとって、ナルチスシティで見かけることのできる機械やロボットの数々はどれも大変興味深いものだった。こういった機械が、整然として動いているのを見ると不思議に感動を覚えるのだった。

 そして何よりアナンはクサーヴァの家で、フローラの姿をちらちら見るのが密かな喜びだった。母親のような暖かい包容力と同時に、フローラの女性としての魅力は成熟した女性のそれであり、うら若き青年の心を完全に捉えてしまっていたのである。もちろん、アナンとてクサーヴァの妻であるフローラに心を惹かれるのは良くないことだと感じていた。そしてその度に一生懸命、別のことを考えようと健気な努力を続けたものだった。

 少し間を置いてからアナンは答えた。

「僕は、このナルチスシティが本当に好きになってしまったのかもしれません。出来ることなら、僕もスクリプトFを覚えて、この街でモッドのように暮らせればいいとちょっと思ったりもするんです」

「アナン。どんな社会にも恥部はある。私にとって、ゴルトムント島は、ナルチスシティに対するアンチテーゼのように感じるのだ。わかるかい。この街が持っていないものを、アナンの村は持っている。私は、その正体を知りたいのだ。そして、この街の病んだ側面を修復していきたいのだ」

「病んだ側面?」

「そうさ、とてつもなく病んでいるとも。アナンはまだ、この社会の病んだ側面を知らない。まあ、私も今までそんな話はしなかったからね」

「こんなにも便利な社会がどうして病んでいるんですか? 皆は遺伝子を変えて、頭が良くなったんでしょう。それにみんな背が高くて美人で、ハンサムじゃないですか。この上何が欲しいというんですか!」

 いつしかアナンは語気を強めていた。ナルチスシティはアナンが思う限り完璧な社会のように見えた。肉体労働で食料を自ら収穫しなくてもよい。人々は自分の自由なテーマで研究したり、芸術作品を作ったりしている。

 リニアネットでは多くの番組が放映されていて、ナルチス杯サッカーチャンピオン戦やら、オーケストラのスタジオ演奏会やら、コメディドラマやらを見ることができる。いつでもどこでも自分のやりたいことができ、楽しませてくれるものが溢れている。こんな社会の一体どこが病んでいるというのか。

 クサーヴァこそ無いものねだりの我が侭ではないか、とアナンには感じられたのだ。

「僕たちの生活を美化しすぎていないですか? 朝早くから起きて田んぼの仕事をするのは大変つらいんですよ。あんな仕事、機械があればあっという間に出来てしまう。僕は、ブック端末で自動田植え機が作業する映像を見たとき、仮にゴルトムント島に帰れても、もう永遠に田植え仕事はやりたくないと思いましたよ」

「確かに君の言うとおりだ。私もゴルトムント島の生活を少し美化し過ぎているのかもしれない。恐らく、一緒に仕事をしろと言っても、数日で嫌になってしまうかもしれない。でも数日じゃなくて、一ヶ月だったら、半年だったら、あるいは一年いたらどうだろう。もはやそうなれば、好き嫌いでなく私たちは労働せざるを得ないだろう。そして、それこそが人間であることの所以ではないかと、最近私はそう思う」

「労働することが、人間である所以?」

「そうだとも。アナン、君にはもう少しこの街の悪い側面を見てもらう必要がありそうだ。外に出かけないか。ちょっと刺激が強すぎるかもしれないが」

「もちろん構いません。一体どんな悪いことがあるのか、是非知りたいですね」

 いくぶん皮肉な口調を込めてアナンはそう言った。


 クサーヴァはゴーグルとラップトップキーボードを使って何やら検索を始めた。十秒もしないうちに彼は「よし、これにするか」といい、アナンを部屋から連れ出した。そして、二人とも車に乗り込むと、行き先をエージェントに指示した。

「何を検索していたんですか?」アナンは尋ねた。

「スーサイドプランナーの公開リストだよ」

「スーサイドプランナー?」

「要するに、これから予告自殺をする人を一覧で見れるリストがあるのさ」

「自殺……ですか」

「そうだ。ナルチスシティの人たちの死因のトップは何だと思う?」

 会話の流れから答えは一つしかないが、アナンにはどうにも承服しかねて、黙り込んでしまった。クサーヴァは構わず続けた。

「自殺だよ。現在死因の七十パーセントは自殺だ。この数字はまだ年々増えている。自殺はいわば人生の最後のパフォーマンスさ。だから自殺のやり方には、自分自身の人生観がそのまま反映される。その一世一代のパフォーマンスをサポートするために、スーサイドプランナーなんていう商売まであるんだからな」

 そのあと、二人の間には重い沈黙が流れた。アナンは、信じられないといった気持ちと、得体の知れない気味悪さが混じって、頭の中が混乱していた。クサーヴァは検索して調べた場所まで、アナンと一緒に車で向かった。

「さあ、着いたよ。ここでやるらしい」

 二人は車を降りたところは、石畳の道路が部分的に広くなっていて、人が集まれるようなスペースになっている場所だった。その辺りには十人ほどの人がすでに集まっていた。人だかりの奥を見ると、一人の男が肩からギターをぶら下げながら、スピーカーとマイクのセッティングをしている。男は若く、歳はアナンと同程度にも思えた。男の横には仏頂面をした細身の老人が、レンガ造りの壁にもたれかかりタバコを燻らしている。彼がプランナーの関係者か。ここに集まる人の中でその老人だけ異質な雰囲気を醸し出している。

 五分ほどしたところで、ギターの男は準備が出来たのか、マイクに向かってこう話し出した。

「みんな、集まってくれてありがとう。今日は、僕の最後の歌を歌わせてもらいます。僕を育ててくれた両親に、そして──僕の恋人に……。感謝の気持ちと、愛を込めて……歌います。『夢のあとに』」

 男はそういって、後ろにおいてあったギターを持ち、何かの機械を操作した。しばらくして音楽の伴奏が流れ始め、それに合わせて彼はギターを弾きだした。人々は少し大げさすぎる拍手を彼に向かって浴びせた。だが、彼らの表情は拍手の音の大きさと裏腹に冷めた目つきをしている。クサーヴァは同じように拍手しながら、男の様子を見てアナンに耳打ちした。

「君と同じくらいの年だな。若すぎるよ。まだ、あきらめるには早すぎるのに。もちろん、若いからこそ絶望の気持ちに囚われるのだけど」

 アナンは自殺の現場を見ることを予想していたのに、それがギターの生演奏であったのを見て若干肩透かしを食った気分だった。一体彼はこの後、どのように自殺するのであろうか。

 男は歌いだした。

 アナンはそれを聞いて正直に、いい歌声だと思った。もちろん、アナンはこの街で流行っている音楽について詳しいわけではない。しかし、歌という演奏手段は世界共通だ。彼の声の張りは深く、音程も安定していたし、何よりこぶしの付け方がうまく、歌が表す感情を良く表現していたと思われた。

「──なかなか、上手ですね」アナンはクサーヴァにそう囁いた。

「ああ、そうだな。だが……月並みだ」

 厳しいクサーヴァの批評を聞いて、アナンは意外な感じがした。そもそも、こんな街角でギター片手に歌う男の力量を、クサーヴァが真面目に評していること自体奇妙な感じがする。「わざわざ、悪いところを見つけてけなす必要なんかないのに」とアナンは心の中で思った。

 気が付くと、アナンたちの後ろにも人だかりが出来ていた。もうこの男の周りには五十人あまりの人が集まっていた。男は聴衆を前に熱唱した。アナンは彼の目から一筋の涙が流れているのに気付いた。そして、なぜかアナンも彼の涙を見た後、何かしら胸から込み上げるものを感じ、気が付いたら目に涙を浮かべていた。

 突然だった。何の予兆も無く、それは全くの突然だった。歌を歌う男から、ボッという音がしたかと思うと、身体全体から炎が噴き出したのである。火はあっという間に男を包み、男はなんとも形容のし難い叫び声を上げた。それは彼の中ではまだ歌であったのかもしれない。しかし聞いている人々には、もはやその声は野獣の断末魔の叫びにしか聞こえなかった。

 不意を突かれて、多くの人が「あっ」という短い悲鳴を上げた。しかし、その後観客は極めて冷静に男の身体が燃え上がるのを見ていた。男は火が付いているにもかかわらず、走り出したり暴れだしたりもしなかった。男は、火が付いてからしばらくよろめいていたが、十秒ほどしてその場に倒れ込んだ。倒れた後も、炎は延々と男を焦がし続けた。しばらくはその炎のおかげで辺りに熱気が立ち込めていた。男の声が聞こえなくなった後も、伴奏だけが淡々と音を奏でている。そして二、三分した頃、ようやく火は消え、皆が注目していたその中央には、黒焦げになった死体と灰になったギターが残された。

 アナンはそのあまりに陰惨な光景に、ただ呆然と立ち尽くしていた。人が火に包まれ死んでいくことなど見たこともないし、想像さえしたことがない。ついさっき流した涙はあっという間に乾いてしまい、そして今全く別の涙がアナンの目から流れていた。

 ショックだった。超機械化されたこの街には日常的に、このような恐ろしいことが起こっているのだ。これほど似合わない取り合わせもないように思えるが、あまりに洗練されたこの街には、バランスを取るためにこのようなグロテスクなものが必要なのかもしれない。しかし、一体彼はなぜ死なねばならなかったのか。アナンは混乱し、ただその場に立ち尽くしていた。

 プランナーの関係者と思われる老人が、面倒くさそうに動き出す。ジョウロのようなものであたりに水をかけ始めると、その場にいた人たちはひそひそと話しながら四方八方に散っていった。クサーヴァは、放心して立ち尽くすアナンの肩を叩き、二人はまた車中の人となった。

 アナンは家に着くなり自分の部屋に閉じこもってしまった。まずは気持ちの整理が必要だった。しばらくしてようやく落ち着きを取り戻した後、どうしてもクサーヴァに詳しいことを聞くべきだと思った。アナンは部屋を出て、リビングでソファに寝そべって本を読んでいたクサーヴァの隣に静かに腰を下ろした。

「さっきの人は、なんで自殺してしまったんでしょう?」

「そんなことはわからないさ。自殺する理由は千差万別だろう。彼が遺書を残していれば、それを見れば分かると思うけど、私とは何の関係もない人だ。遺書の中身など知る由もない」

「で、でも、クサーヴァはなぜ、僕に見せたんですか?」

「もちろん、この街の病んだ部分を見せるためだ。──だけど、アナン、悪かった。ちょっと刺激が強かっただろう。私も自殺するのを見るのは好きではない。だが、君には知っていて欲しかったんだ。この街が必ずしもユートピアではないことをね」

「目の前で、人が火に包まれて死んでいくなんて……こんな恐ろしい光景は初めてです」

「君にとってはそうだろう。しかし、この社会では見たくなくても、自殺の現場に遭遇してしまう。そういう連中は最後にたいてい何かのパフォーマンスをするからね」

「で、あの人も、スーサイドプランナーに、あの自殺の手伝いをしてもらったと……」

「ああ、そういうことだ。プランナーは恐らくその後に、彼の近しい人たちへの連絡や、遺書の管理、財産の整理などもやってくれることだろう」

「……それで一体全体、なぜナルチスシティの人たちはそんなに自殺したいのですか?」

「アナン、私たちは自殺しなければ何歳まで生きられると思う?」

「さあ」アナンは首を傾げた。

「多くの病気は克服されつつある。事故、自殺を除いた平均寿命は今や百二十歳だ。これからまだまだ伸びるだろう。もっともほとんどの人は、その歳に達するまで、自ら死を選ぶがね」

「人生が長すぎるということですか?」

「ああ。言うまでもなく、我々モッドは遺伝子操作されて生まれた人間だ。知っての通り今では日常的に遺伝子操作が行われている。

 そもそも、遺伝子操作は数々の遺伝病から我々を守るために医学的に行われていた行為だ。百年近く前にこの技術は一般的になったが、最初は医療行為でしか許されていなかったのだ。私たちの身体から、多くの病気の因子が取り除かれ、病気を誘発するような遺伝子もほぼ排除された。おかげで、私たちは、とてつもなく膨大な人生を生きるようになったのだ」

 クサーヴァは続けた。

「私たちは生き抜くことを心配する必要がなくなった。完全自動化により、食料は生きていくだけならタダで入手することが出来る。しかし、私たちはこの膨大な時間を一体何に使えばよいのだ? 私たちは徹底的な利便性を求めた結果、ついに文明が人間の生きる目的を飛び越えてしまったのだ。そして、その結果が自殺の増加に繋がっているのだと私は思っている。人間は生きるために生きなくてもよくなった」

「少し抽象的過ぎます。生きるために生きなくてもよくなった? それなら、自分のやりたいことをやって暮らせばよいじゃないですか。毎日が自由な日々だ。僕には本当に天国のように見える」

「人間は食べるために生きなくても良くなったとき、次に何を手に入れたくなるかわかるかい?」

「──生活を便利にさせてくれる機械とか、いろいろなところへ自動に行ける機械とか」

「アナン、君はもしそういう道具があったら、世界が自分一人だけになっても楽しく暮らしていけるか?」

 考えてもみないことを突然言われてアナンは面食らった。世界に自分一人だけ、などということはあり得るわけがない。あり得ないから考えたこともない。もちろん、もし世界に自分一人だけしかいなかったら、それは想像を超える恐ろしい世界だ。あらゆることは全て自分の自由になるだろう。

 しかし本当に自分が大切だと思えるものは、全て人に由来するものではないだろうか。愛する人、家族、信頼できる友人、自分を励ます近所の人たち、一緒に働く仲間、そういう世界があるからこそ、自分が生きていることが実感できる。自分がそういった人たちに認知され、信頼され、そして愛されるほど自分の幸せは増していくに違いない、とアナンは思った。

「クサーヴァ、少し分かってきたような気がしたんだ。僕たちは、周りの人たちと共に生きている。その中で、自分が頼りにされたり、誰かに愛されたりするからこそ、人は生きて生けるのかなって」

「そうだよ。もう少しあられもない言い方をすれば、人々は愛と誉が欲しいのだ。

 これまでの生きるために生きていく社会では、人々は協力して仕事をしなければならなかった。そうやって、人々は食料を手に入れたり、お金を手に入れていた。それは生きることに必要な行為だったのだ。そういった社会では、社会が要求する仕事がある以上、人々は社会との繋がりを保つ手段があったのだ。

 アナン、私は何回か言ったつもりだが、このナルチスシティがどのように非情なシステムかわかるかい? この街で生き抜くには知性が必要だ。例えば、ボランティアで街の公共の仕事をするのだって、適性が無いと判断されればすぐに首にされる。私は幸い、映像作家としてそれなりの評価を得ているが、この街には私同様に映像作家を名乗る人が百人はいる。そして、将来映像作家になりたいと思っている人間、今なろうと思って研鑽を積んでいる人間がまた何百人かいるに違いない。そういった連中が全員成功できるわけがない。

 いいかい。完全自動化社会というのは、社会の最下層の単純な仕事を機械やロボットにさせようという社会なのだ。そういう社会で人に求められているのは、もっと知的でクリエイティブな領域の仕事なのだ。そして、何が良質な仕事なのかを適切に見極めることが出来る判断力なのだ。

 そういった世界で、落伍者の烙印を押された者は、それから寿命が尽きるまでの長い時間を一体どうやって暮らしたらよいのだろう?」

 もちろんアナンに答えられるわけもない。アナンにはまだ実感が湧いていない。自分がどんな仕事に対しても適性が無いといわれたら、確かに人生でやることは無くなるだろう。それでも、アナンの感覚では生きるために何かしないといけなかった。仕事をしないで、食べていけるわけがない。だから人は必死に仕事を探すのだ。それがアナンにとっての社会だ。

 どんなにやりたいことがあっても、自分に適性がないと判断されたり、一生その世界で芽が出ないこともあり得る。あるいは、歳をとってから、これ以上一線でいられなくなるということも起こるだろう。ナルチスシティにいる人はいつでも、社会から必要とされなくなる人間に簡単に成り得るのだ。その絶望感はいかばかりであるか、アナンには想像もつかなかった。そんな社会のことを思うと気が遠くなりそうだった。そして、クサーヴァもまた、その一員であることをアナンは確かめたいと思った。

「クサーヴァは自殺しようと思ったことはないの?」

「私かい? このナルチスシティで、自殺を考えたことがない、なんて奴は一人としていないよ。私がまだ二十代で映画制作を勉強している頃は、毎日のように自殺することを考えていた。映像関係の新人賞には落ちまくって自分には才能はないんだってね、そう思ったり、あるいはかなり入れ込んでいた女性に振られたりしたときとかね。

 私が自殺のことを考えないようになったのは、フローラと結婚してからだ。これは恐らくゴルトムント島だって同じだと思うけど、人は結婚したらね、毎日のささいなことを話し合える人がいるということが、どんなにつつましい幸せなのか、それがようやくわかると思うんだ。私には、今フローラがいてくれる、あまりに自然すぎて日ごろは感じないけど、それが自分の生きる支えになっているような気がする。

 もちろん、私のように考える人ばかりじゃない。だいたいクリエータ仲間で結婚している奴らは多くはない。彼らは自由を謳歌している。結婚相手に束縛されることを好まない。彼らにとって愛とは、自分をリフレッシュさせる道具だ。残念だが、私には彼らのように割り切って女性と付き合うことは出来ないがね」

 アナンはここまでクサーヴァが本心を曝け出してくれたことに少し驚き、そして嬉しかった。アナンは、二人が教えたり教えられたりする関係から、人として男として対等の人間関係を築きつつあるように思えた。そして、目に見えぬ連帯感が二人を結んだように感じたのである。

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