八月十八日

 ついに事件が起きてしまった。

 明け方四時ごろだったか、ポールが血相変えて我々を叩き起こした。聞くと、食料を保管しているガレージから何やら物音がしたので、行ってみると五、六人の人間がガレージの扉をこじ開けているという。私とマーク、ピーター、そしてポールは急いでガレージに向かった。私たちの後からシミック教授がやってくるのも見えた。

 食料を保管しているガレージは公会堂を出てちょっと離れたところにある。我々がこの島に来たとき、このガレージには車も何も置かれていなかったので、この場所も借りることにしたのである。そして、我々は農業に必要な用具や、食料のいくらかをここに保管しておくことに決めたのだった。確かに、配給するほど貴重なものとなった食料をこのような場所に無防備に置いておいたのは、かかる事態を誘発する遠因になってしまったのかもしれない。

 我々は公会堂を出たところで、大声で「何をしている!」と叫んだ。

 盗人たちは、私たちの声に気付いた。保管庫のシャッターはすでに半開きになっており、彼らは順々に食料を荷台に積んでいるところだった。突然の声に彼らは大変驚き、両手で食料を抱えながら、荷台を置き去りにしたまま逃走を始めた。もちろん、我々はそのあとを追いかけた。連中はそれぞれ思い思いの方向に逃げ去ったので、我々も誰か一人にターゲットを絞って追いかけざるを得なかった。4人はそれぞれの位置関係で自然に誰を追うかが決まった。私も一つの影に狙いを定め、懸命に追いかけた。

 所詮、相手は老人だからいずれ追いつくだろうと考えていた。いくら私が都会育ちの非力な人間とはいえ、三十歳の男が五十歳以上の老人に駆け足で追いつけないことはないだろう。ところが、私が追った影は非常に軽い足取りで、私の前方をどんどん逃げていく。そんなバカな、と思いつつ懸命に走るが、相手との距離をどうしても詰めることができなかった。そのとき、私は逃げる相手の背格好に突然思い至ったのである。

「ユディ!」私は大声で叫んだ。「ユディ、待ってくれ。アンディだ」

 影は走るスピードを緩め、こちらを振り返った。やはりユディだった。ユディが村人と一緒に食料を盗みにやってきたのだ。

「ユディ、いったいどういうことなんだ」息を切らしながら私は叫んだ。

 ユディは次第に走るスピードを緩めながら、こちらを振り返った。そしてついに走るのをやめて私と面と向かいあったのである。私もユディと十メートルほどの距離を保ったところで、立ち止まった。

「──どうして、連絡船を故障させたんだ」ユディが問い詰めるように言った。そう、ユディはあのときすでに気付いていたのだ。シミック教授が夜中に連絡船に忍び込み、細工をしてオーバーヒートさせたことを。私は何も答えることができなかった。

「君たちは、僕ら島民を殺すつもりなんだろう。食料を配って油断させたところで、食べ物に毒でも仕込むつもりなんだろう」

「そんなバカなことを。なぜ私たちがそんなことをしなければならない。何の意味もないもないじゃないか」

 私たちはこの微妙な距離で話すために、ほとんど叫び声になっていた。

「なら、どうして連絡船を故障させたんだ。ここは私たちの島だ。君たちの自由にはさせない」

 ユディはそう言うやいなや、向こう側を振り向き、一目散に駆け出していった。私も急いで追いかけようとしたが、ユディのダッシュがあまりに早かったので、もはやとても追いつける距離では無くなってしまった。少し走った後、私は追いかけるのを断念した。

 翌朝、今後の対策を練るために、我々は集まった。

 逃げた連中のうち、二人は捕まえることができたらしい。彼らは「何もとっちゃいない、ユディにそそのかされたんだ」と言った。連中の名前だけ確認して、捕まえられた二人を解放した。

 昨夜、盗みに入った連中が誰か全員明らかにするのは、もはや意味のないことのように思えた。ユディが島民を何人か誘って、食料を盗みに入ろうとしたことは明らかだからだ。ここまでねじれてしまった彼らとの関係を一体どうしたらいいというのだ。私にはもう何も案が思い浮かばない。


 八月二十一日

 島は何事もなかったかのように不気味な静けさを保っている。

 苗代からは無事に青い葉が育ち始めている。自然だけが素直に私たちの行いに報いてくれる。そう思うと、この苗がたまらなくいとおしく感じてしまう。


 八月二十五日

 手が震えて思うように書けない。

 ああ、やっぱり日記など書かねばよかった。しかし、ここまで書いてきた以上、全ての顛末を書き残さないことには私の意地が許さないのだ。しかし、こんな恐ろしいことを、どうして私は文字に残さねばならないのだろう。もし、誰かがこれを読んでしまったらどうする? 例えば、私たちの子孫が。

 でも、だからこそ私は贖罪のために真実を記さねばならない。もちろん、こんなことで私たちが許されるとは到底思えない。もはやこの日記は、私の懺悔の記録である。神様に少しだけでも聞いて頂く術を持ちたいという悲しい人間のあがきなのである……


 シミック教授は、元研究室のメンバーを集めた。

 最初からなんとなくただならぬ空気を我々は感じていた。数ヶ月前に、この島への移住計画を我々に告げたときの、あのときの表情を思い出す。教授の雰囲気から、何かしら恐ろしい提案があることを我々は察知していた。

 シミック教授はゆっくり話し始めた。

「みんな、このままでは初収穫がある前に、我々の食料が枯渇してしまうのは明白だろう。私は、配給を始めた一月ほど前から、ずっとこのことを考えてきた。いろいろな考えが浮かんでは消えた。そして最後に、いくら頭から消し去ろうとしても消えなかった一つの考えに私の想いは収斂していかざるを得なかった……

 きみたちに、もはや何と呼ばれても私は構わない。人類をもう一度やり直すという壮大な計画の前には、私に対する憎しみの感情などちっぽけなものだ。いくらでも憎んでくれ。憎んで憎んで憎み殺してくれ。だけど、私のこの願いをどうしても聞いてほしい。

 ──もはや、島の人々を全員殺すしかないのだ……」


 身体が震えた。誰も何も言えなかった。時間がまるで止まったように、皆の意識は完全にシミック教授一点に留まっていた。その場の空気全体が、人が感じられるほどの質量を伴い、我々を覆っているように感じた。

 突然、ブリンダがまるで気を失ったかのように白目を剥いて椅子から床に滑り落ちた。キャシーがすぐに駆け寄り、ブリンダの身体を抱きかかえて「ブリンダ、ブリンダ」と叫んだ。ブリンダはゆっくり目を開けた。彼女は顔面蒼白だった。

「──シミック教授、あなたとは随分長い間苦楽を共にしましたなあ」突然、ブラウン助教授が話し始めた。

「しかし今日ほど、あなたを恨めしく思ったことはない」

 助教授はそういった後、しばらく静かになってしまった。その後、何を言うのか、そこにいた全ての人の神経がブラウン助教授に注がれた。ブラウン助教授は、突然大きく息を吸いながら真上を見上げた。そしてゆっくり顔を下げ、息を吐き出した。かすかにその息が震えているのが私にはわかった。

「──もう、やるしかないでしょう。シミック教授、あなたの考え方は完璧だ。全く揺るがない。完全に筋が通っている。そしていつでも冷静だ。

 結局、弱さが人間を滅ぼすのです。人間はこれまでだって殺し合ってきた。いまさらそれは否定できない。戦争のない世の中が素晴らしいだなんて、きれいごとだけでは人間は生き延びていくことはできないんだ。

 私は一介の研究者であって兵士ではない。みんなもそうでしょう。私たちは人を殺したことがない。でもね、その前に自然の厳しい生存競争を生き抜いていかなければならない、人間という生物でもあるんだ、私たちは」

 ブラウン助教授は饒舌だった。こんなにも力強く話したことは、まるで初めてではないかと思われるほどだった。それにしても、ブラウン助教授のシミック教授に対する帰依ぶりは、もう十年ほど共にしている私から見ても、尋常とは思えないほどだった。実際、ここ数ヶ月のシミック教授の判断が現実化するのを支えていたのは、最終的にはブラウン助教授の同意によるものだった。彼がいたからこそ、研究室のメンバーの意志がまとまったのだと私は思う。そして、たった今も、絶妙なタイミングで助教授は私たちの気持ちを誘導した。

 すでにこの国においても、治安組織は全く機能していないに等しかった。そして連絡船も往復しない今となっては、我々が村の人々を殺したとしても隠し通すことは不可能ではない。そして、何よりそれを肯定しうるだけの理由を我々は持っている。このままでは、村の人々と共に我々も共倒れしてしまう。シミック教授が掲げた、人類の文明の進化を五千年元に戻すという人類史に残るほどの大実験を成就するには、心を鬼にして邪魔するものを排除せねばならないのだ。

 ふと私は、アステカ王国を滅ぼしたスペイン人たちのことを想い出した。我々も彼らのような侵略者なのだろうか。現在から見ればまるで暴挙としか思えない彼らの行動も、彼らなりに理由があったのだ。キリスト教的な価値観が唯一にして最大なものと考えていた当時のスペイン人にとって、文明の遅れたアステカ人をキリスト教に改宗することこそが正義の行いであった。そしてアステカ王国で行われていた生け贄のような野蛮な行為も、スペイン人にとっては耐えられない悪魔的な行為であり、彼らはそれをやめさせなければならないと真剣に考えていた。

 もし今の時代に、生け贄の儀式を真剣に行っている部族がいたら、我々はそれを個別の文明の問題だとして見過ごすことができるだろうか。私たちは、より普遍的な正義の概念を持っている。世界全体が開かれ、世界と全く関わることなく暮らすことができなくなった今では、もはや野蛮な行為は許されるものではない。そういう意味で、私たちは、当時のスペイン人たちを、金銀財宝に目が眩んで暴力的に侵略を行った連中などと簡単にレッテルを貼ることはできないはずだ。

 この島の人々には理解してもらえないような、超人道的な理由を私たちは持っている。この理由が正当なものであるかどうかは、数百年、数千年を経なければ明らかになることはないだろう。だからこそ、私たちはもはや信じる道をひたすら歩み続けなければならない。今の状況では逡巡することこそ悪なのだ。

 私たちは退くことができないことはわかっていた。結局、ブラウン助教授は、我々の背中をほんのちょっと一押ししてくれたのだ。どんなにつらい決断でも、それを肯定しうるだけの援護が必要だった。


「どのような方法で、その、やるんですか」ポールが恐る恐る口を開いた。

 シミック教授は傍に置いてあった木箱を手元に寄せた。最初からその木箱の存在は気になってはいたのだ。何の理由もなく、皆の前で話すシミック教授の手元にそんな大きな木箱が置いてあるはずがない。

 教授は箱のすぐ後ろに立つと、その蓋を開けた。そして箱を少し傾けて、我々にその中身をみせた。我々は息を呑んだ。そこには、拳銃や軍事演習などで見かけるような機関銃がいくつか入っていたからだ。教授は何も話さなかった。

 このような武器で人を殺さねばならないという驚きが過ぎ去ったとき、そもそもシミック教授がこのような武器を揃えてこの島に来ていたという事実に慄然とした。もちろん、最悪のケースを考えてとのことだろうが、これこそシミック教授の血も涙もない冷徹な判断力の成せる業だと私には思えた。このような武器を手に入れるルートを持っていること自体、空恐ろしく感じる。

 シミック教授は、具体的な方法はこれから考えると言った。私たちは悲痛な面持ちでそれぞれの部屋に帰っていった。

 その後私は、一週間前ガレージを襲撃したユディが逃走するときに口走ったことが、計らずも現実になってしまうことに気付いたのである。ユディは最初からシミック教授の行動にそのような匂いを感じていたのだろうか。近くにいるからこそ、我々はそれに気が付かなかったのではあるまいか。


 八月二十八日

 決行の日は九月一日と決めた。

 その日には大事な話があるから、島の人は公会堂に集まるようにと配給のときに一人一人告げた。大事な話ってなんだ、という人たちの質問には、我々を派遣しているU大学による大規模な食糧支援が行われるというまことしやかな話を伝えたのだった。

 結局のところ、配給という現在のシステムがお互いの相互不信を募らせているのであり、この食糧問題さえ解決するのなら、彼らにとっても大変ありがたいはずである。だからこそ、多くの村の人がこの話に興味を持つというのが我々の推測だ。

 もちろん、こんな話は事実無根である。我々は彼らをおびき寄せねばならないのだ。一度冷徹な決断を下したのなら、それを完遂するまで、罪を重ね続けるしか我々にはもう手がないのだ。我ながら、自分の冷酷ぶりには驚く。私たちは、そんな恐ろしいことを行うことなどおくびにも出さず、笑顔で嘘を付くことがこんなにもさり気無くできてしまったのだから。

 ユディがいると思われる民宿には、私が出向いて、ユディも来るようにと民宿の住人に告げておいた。そして、もうこんな鬼ごっこは止めて仲良くしよう、と伝えるように頼んだ。恐らく、私がこうして民宿まで出向いてきていることをユディは気がついているに違いない。民宿で応対した人も、ユディが住んでいることを認めはしなかったが、話は聞いてくれたので、きっとユディまで伝わるに違いない。

 我々に反抗する勢力の精神的支柱であるユディは真っ先に手をかけねばならない。彼が現れなければ、この計画を中止することもあり得るだろう。今や、ユディと仲良くなろうと会話したことが懐かしい。そのときには、私が彼を殺すためにおびき寄せる役割を演じようなどとは露とも思わなかったのだ。


 九月一日

 今日、我々は島の人々を全員殺害した。

 全ては驚くほどスムーズに行われた。

 罪のない五十人もの人々に銃口を向けたのだ。そして私は、この手で、この二本の手でその引き金を引いたのだ。


 午後二時ごろ、村人は公会堂に集まった。半ば寝たきりのような状態の老人以外は、この公会堂の集会部屋の中に閉じ込められたのである。その中にはユディもいた。私たちは隣の部屋で、集会部屋の様子を伺いながら、これから自分が行おうとしている行為を想像し未だ身震いを続けていた。

 役割はこんな形になった。シミック教授が持参した機関銃は三本。これを、私、マーク、ピーターが使う。シミック教授とブラウン助教授、そしてポールは拳銃を持つことになった。もちろん、機関銃を使う三人は、この集会部屋で村人に対して一番最初に銃を撃つのが役目だ。

 シミック教授は、まず村の人に対して話を始めた。

 少し長めに話して、人々を油断させる必要があった。教授は紫の悪魔に対するU大学の研究についてどのような状況になっているのか説明を始めた。かなり専門的な内容だったこともあり、しばらくすると人々が話しに飽き始める様子が感じ取れた。教授はあくまで冷静だった。まるで大学で学生に講義でもするかのように淡々と話を続けたのである。

 あらかじめ合図は決めていた。教授が三回咳をしたら突入である。私たちは隣の部屋でそれを待ちながら、心臓がまるで爆発するくらい激しく鼓動を打つのを一生懸命に抑えていた。


 教授が話の途中で、三回咳をした。賽は投げられた。

 私たちは自分たちの顔が見えないように顔全体にマスクをかぶり、銃の安全弁を外し、部屋に突入した。もちろん、マスクなどしなくても我々が誰かは島の人ならわかるはずだ。それでも私たちはマスク無しには彼らに銃口を向けることは出来なかったのだ。

 惨劇が始まった。私は、ただひたすら撃ち続けた。逃げ惑う人々の背に向かって、そして、弾をよけようとして身体を屈めた人々に向かって。弾を受けた体から血が飛沫を上げて飛び散っていく。人々は絶叫し、動けなくなってからも呻いている。村人の悲鳴はこの部屋全体に反響し、密閉空間の中に我々の嗚咽と共に充満していく。酸鼻を極めたその凄惨な時間は、我々にとって恐ろしいほど長く感じられた。私はひたすら大声を上げて自分を奮い立たせた。次々と人々が床に倒れ、そして夥しい血が流れた。

 今思うと、わずか数人でこれほど簡単に村人を殺せたことが不思議に思えてならない。この集会室の広さや私たちのポジション、そして銃を撃つタイミングなどが結果的に実に絶妙だったのだと思う。それが、私たちの心の傷口が広がるのを多少和らげることになった。もし、こちら側に死傷者が出たり、向こう側に銃を奪われたり、何人かが逃走に成功したりすれば、争いは長期化し、我々はもっと傷つかねばならなかっただろうからである。

 村人のほぼ全員が動かなくなった後、シミック教授は、床に転がる人々を一人一人点検し、まだ生きている人がいたら容赦なくとどめを刺した。中には、まだ息をしている者もいて、教授に見つかったとき、「お願いだ、助けてくれ」と声も絶え絶えに叫ぶものも何人かいた。もちろん、シミック教授は、彼らがそう叫ぶやいなや、彼らの心臓に最後の一撃を加えることになった。

 ユディももちろん死んでいた。その死に際の形相は凄まじく、私は顔を背けずにはいられなかった。ああ、ユディ、なぜ島に戻ってきてしまったのだ。


 我々は死体を集めた後、それを埋めるために、公会堂の敷地内に大きな穴を掘った。これだけの死体を埋めるのだから並大抵の大きさではだめだ。私は汗を流し、そして涙を流しながらひたすら土を掘った。比較的、柔らかい土質のせいもあったのか、掘るのはそれほど大変ではなかったのだが、それでもシミック教授が「このへんでいいだろう」と言ったときには、太陽が沈みかけるような時間になっていた。

 全員で死体を穴に投げ入れた。一人ずつ穴に投げ込むたびに、我々は十字を切った。私は血だらけの死体を見ることができず、投げ入れるときもひたすら目を背けていた。黙々と死体を投げ込むうち、我々の行為はだんだん儀式化していった。

 全部の死体を投げ終わると、シミック教授が皆に向かって、大きくそして低い声で話し始めた。

「──今日ほど、悲しい日はない。

 しかし、私たちは心を鬼にしなければならなかった。そして、この苦しみはこれからも続くことを、もう一度私たちは想像しなければならない。

 今日あったことは、死ぬまで誰にも話してはならない。たとえ、ここにいるメンバー同士でもだ。私たちは今日聴いたこと見たこと全てを心の中にしまいこみ、そこに永遠に開かない鍵をかけなければいけない。私たちは、これから生まれてくる子供、そして孫たちにもこの事件のことを語ってはいけない。この事実は、ここにいる全ての人間が死んだときに、永遠に闇に葬られなければいけないのだ。

 そして、明日から、私たちは決して人を殺してはいけない。この島に住む全ての人は、いかなる理由があっても人を殺してはいけない。この掟だけを語り継ぐ必要がある。この島で生き延びる人類には、一切殺戮の歴史を持たないようにしなければいけない。

 今日起きたことを秘密にするために、この場所を墓にすることはできない。私はこの場所に教会を建てようと思う。教会は今日亡くなった人の亡骸の上に建てられ、彼らはそこで弔われるであろう。私たちは一生をかけて、この教会で彼らを弔おう。これからのこの島の幸せが、彼らの犠牲の上に成り立っていることをかみ締めよう。

 私は、私たちの行いが本当に正しかったのか、未だにわからない。それは神に判断して頂くしかないのだと思う。我々の行いが正しくないのなら、いずれお裁きがあるに違いない。そのときはその罰を、私は甘んじて受ける。

 ──神のご加護があらんことを。アーメン」

 我々はアーメンを復唱した。私は物心着いた頃から、教会なんて行ったことはなかった。しかし今こそ、聖書の言葉は罪深い私たちを導いてくれるような気がする。

 我々は、掘った土を死体の上にかけ、無言で穴を埋めていった。

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