青白い顔

 茉里は、夜中に目を覚ました。

 眠れなかったわけではない。今は夏だが、部屋の空調は効いている。慣れない仕事をたくさんこなしたから疲れていた。眠れないはずがない。

 しかし、茉里は目を覚ました。

 少し疲れの残る体を引きずって、茉里はベッドから起きた。そして、ふと、気になって、コスメポーチの中身を見た。

 翡翠のような石は、確かにそこにあった。

「気分、変えた方がいいかも」

 茉里は、独り言を言って、一人部屋を出て、洗面所に向かった。そこで顔を洗えば、気分は変わるだろう。そう思って、洗面台に水をはり、顔を洗い始めた。

 すると、誰かが後ろに来た気配がして、茉里は顔を洗う手を止めた。気配が消えないので、誰か他の客が来て待っているのだろうと思った。すると、突然、茉里の右足にひどく冷たいものが触れた。

「冷たい!」

 思わず、声を出した。そして、そんないたずらをする客に一言言おうと、急いで顔を拭いて鏡を見た。

 だが、そこには誰もいなかった。

 茉里が不思議に思って周りを見渡すと、また、冷たいものが茉里の足に触れ、それは足首を強く掴んできた。びっくりして下を見ると、青白い顔が床から出てきて、その死んだ瞳が茉里を見つめた。

 茉里は、一瞬訪れた恐怖心から、声が出なくなってしまい、口を押さえたまま、ただひたすらに青白い顔から目をそらして、足を掴む冷たい手を振り払おうとした。

 すると、冷たい手はすぐに外れ、青白い顔だけが残った。茉里が口に手を当てて嗚咽を漏らすと、青白い顔は、無表情のままこう言った。

「たすけて」

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