林の中のペンション

 うっそうとした森に囲まれた湖岸から見える対岸には、まっすぐと隣町に抜ける道が通っていた。

 その湖はちょっとした景勝地で、観光客がたまに現れては、数少ないペンションに泊まっていく。どのペンションも建物は洒落ていて、十年経つごとに改装を繰り返していた。

 森の木の中には白樺やブナが混じっていて、湖のすぐそばの茂みからペンションまでの間の林は、きれいに整備されていた。

 ペンションから林を通り、森に入ってしばらくすると、湖岸が見えてくる。湖水と森の間にあるわずかな岸には、たくさんの石が敷き詰められていた。

 林の中のペンションから湖岸まで約十分。その距離を、ぶらぶらと歩いている女性がいた。林の中のペンションに初めて従業員としてやってきた住み込みのアルバイトだった。名前を浅丘茉里あさおか まりという。まだ大学生で、夏休みの間だけの雇用契約だった。

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