第二十八話「強襲!サイボーグ鬼性獣」

日本を飛び出してから数十分。

空と雲と海原しか見えてこない中飛び続ける、三機と一体。

 

「………見えてきたぜ」

 

最初に気づいたのは涼子だった。

飛び続けていると、急に雲が濃くなった。

 

前を見てみると、そこにあったのは入道雲を思わせる雲の壁。

幻影島を覆う、巨大な雲のヴェール。

見れば、雲の各部に雷が走り、ズオオと暴風の吹き荒れる音が響いている。

 

一目で解った。

あの雲の中は嵐だ。

 

「あれの中は嵐だよなぁ」

「でしょうね、道理で肩が痛いと思ったわ」

 

今からあれの中に突っ込むというのに、涼子と準は、まるで世間話をするように軽く話を交わす。

 

飛行機が嵐の中を行くのが難しいのは、この時代でも変わりない。

五月雨博士は「問題ない」と言っていたが、やはり不安はある。

 

紛らわせる為に冗談を交わした涼子と準も、その表情は強張っている。

朋恵と光に至っては、苦虫を噛み潰したような顔だ。

 

「………行くぜ!」

 

それでも、任務な以上行かなければならない。

涼子はレバーを倒し、サーバル号を前に進める。

 

残る二機のヒロイジェッターとCコマンダーも、光と朋恵が覚悟を決めてそれに続いた。

 

「五月雨博士曰く、ヒロイジェッターもCコマンダーも嵐の中でも飛べる!輝いてやろうぜ!」

「光くん、向こうに着いたらマッサージ頼んでもいいかしら?」

「は、はい!」

「うにゅ~~~!」

 

次々と、まるで海に飛び込むペンギンのがごとく、四機のマシンは乱雲の中に飛び込んだ。

 

当たり前だが、その直後セクサーチームを待ち受けていたのは、マシンを襲う激しい揺れと雷鳴。

そして暗雲による視界がほぼ無い中のフライトであった。

 

「ぐうう………!」

「き、機体が分解しそうだ………」

 

センサーで互いの機影は見えているが、目に映るのは渦巻くような暗雲と、時々雷光によって見えるシルエットのみ。


「み、皆ついてきてる?!」

「ああ、来てるぜ!」

 

通信は繋がるが姿は見えず。

互いの姿がはっきり見えない事がこうも不安だとは、この時までセクサーチームの誰も思ってもみなかった事だろう。

 

そして、数分の………セクサーチームにとっては何時間にも思えるフライトは続く。

この果てしなく続くと思われた苦行だが、終わりは唐突に訪れた。

 

「あっ!」

 

突如、涼子達の眼前に目映い閃光が広がる。

 

気付けば、そこに暗雲も雷雨も無かった。

視界は開け、共に飛んでいた他のヒロイジェッターやCコマンダーの姿が、今ははっきり見えている。 

機体も揺れず、安定している。

 

そして。

 

「ここが………」

 

眼前に広がるもの。

乱雲を抜けた先にあった、洋上に浮かぶ孤島。

一帯をジャングルで覆われた、まるで映画に出てくるような謎の島。

 

「幻影島(アイランドファントム)………」

 

現代に現れた超常からの使者、幻影島。

とうとうセクサーチームは、それを眼前に捉えた。

 

 

調査団の飛行機の反応が途絶えた場所を探し、島の周りを旋回するセクサーチーム。

 

『………涼子さん』

「どうした光、アタシにもマッサージしてくれんのか?」

『いやそうじゃないです………』

 

ふと、光が涼子に通信を入れてきた。

何か心配事でもあるように、不安げに。

 

『島の周りを飛んでて、なんか妙なんですよ』

「妙って何がだよ?」

『………砂浜が無いんです、この島』

 

確かに、よく見てみれば島の周りは崖だったり、土や草が波を浴びている等で、本来なら海辺にあるべき砂浜がない。

まるで、どこかの土地を切り取ってきてそのまま海上に乗せたようだ。

 

『それに、火山活動で海の中から上がってきたにしても、島には植物が生い茂ってます……自然にできた島じゃなさそうですね』

「つまり………どういう事だ?」

『恐らくですけど、これもスティンクホーが絡んでるんじゃ………』

 

光の推理に、セクサーチーム全員が息を飲む。

 

確かに、今まで色々な事件にスティンクホーが絡んでいて、そこに鬼性獣が現れる度にセクサーロボで戦ってきた。

 

今回も、関わっていてもおかしくない。

 

「………いや、流石にそりゃないだろ!」

 

が、涼子はその推理を否定した。


「でも………」

「ヒーロー物の悪の組織ならまだしも、証拠もないのにスティンクホーのせいって決めつけるのも………」

「………それもそうですね」

 

少々、光は納得がいかなそう。

だが涼子の言う通り、これもスティンクホーの仕業と考えるのは早計だ。

この現象も、単なる自然現象の可能性もある。

 

「………あっ!見て!あれ!」

 

島の周りを旋回していると、朋恵が何かを見つけた。

見れば、ジャングルの木々をなぎ倒しながら落下したであろう、無惨な飛行機の残骸。

間違いない、調査団のものだ。

 

「こりゃ酷ぇ………」

「何があったかは知らないけど、生存者ゼロの覚悟はしておいた方がいいわね………」

 

口々に涼子と準が言うように、飛行機の残骸は、

単なるエンジン不調等で落ちたとは思えないぐらい、各部が破壊されていた。

火事もあったのだろう。装甲の各部が焦げており、溶けている所も見受けられる。

 

「とりあえず、降りて調査しましょう、もしかしたら近くに隠れて………えっ?!」

 

光が提案を出しきるより早く、Cコマンダーの索敵センサーがけたたましく鳴った。

そして、次の瞬間。

 

「きゃあ!」

「朋恵さん?!」

 

突如、アター号が何者かの攻撃により弾き飛ばされる。

 

「うわっ?!」

「何だァ?!」

 

そして、ヴヴヴヴヴ、と蜂の羽音のような音と共に空に現れる、一体の巨影。

ワイバーンとカマキリが合体したようなシルエットを持ち、背中の甲羅が広がったような羽からバーニアを噴射し、それを補助するようにコウモリとトンボのそれを合体させたような翼を高速で羽ばたかせている。

胸に埋め込まれた凶器のような機械装甲、そして本来の虫のような眼に被せるようについた赤いバイザーのような「眼」が、それが純粋な生物でない事を物語っていた。

 

Cコマンダーのセンサーには、眼前のそれからスティンクホーの反応が出ている事が示されている。

 

「まさか………こんな所にまで鬼性獣が?!」

GYEAGOOOOOOON!!

 

光に対して「その通りだ」と言うように、鬼性獣「ハガーマディン」が、大気を震わせて叫ぶ。

 

「あううう………」

「大丈夫か朋恵!」

「な、なんとか!」

 

装甲に亀裂こそ入ったが、なんとか持ち直したアター号。

他のヒロイジェッターと連携し、内蔵兵器による一斉射撃をハガーマディンに浴びせた。

 

GYEGAAAA!!

 

しかし、いくら射ってもハガーマディンには傷一つ付かない。

ただ、嘲笑うようなハガーマディンの咆哮が響くだけ。

 

「クソッ!やっぱりセクサーロボに合体しないと………!」

「でも、Cコマンダーは………!」

 

セクサーチームも、ヒロイジェッターだけでは鬼性獣に勝てない事は知っている。

鬼性獣と戦うには、Cコマンダーに合体してセクサーロボにならなければならない。

 

しかし、今のCコマンダーは調査団を乗せるためのコンテナを背負っている状態。

合体するには、一度コンテナを外さなければならない。

故に今は、合体が出来ない。

 

GYEEE………!

 

ハガーマディンもそれに気付いたのか、ニタァと嗤うように唸ると、カマキリの「はら」を思わせる自らの尻尾を、こん棒のように振るう。

すると、尻尾から無数のトゲが散弾のように射出された。

アター号を襲った、あの攻撃だ。


「うげっ!」

「きゃあ!」

 

三機のヒロイジェッターは散開して避ける。

だが。

 

「うわあっ!」

 

コンテナを背負っていた為に動きが鈍っていたCコマンダーは、その直撃を受けてしまった。

 

「うわああああ!?」

 

脚部を姿勢制御用のバーニアごと破壊され、バランスを崩したCコマンダーが、コンテナごと島のジャングルの中へと落下してゆく。

 

「光!?」

「光くん?!」

「みーくん!!」

 

咄嗟に、Cコマンダーを追う三機のヒロイジェッター。

しかし。

 

GYEGAAAA!

 

させるかとばかりに、ヒロイジェッターの進路に向けて射出されるハガーマディンのトゲ。

これでは、Cコマンダーを助けに向かえない。

 

「くそッ!どうすりゃいいんだ………!」

 

涼子だけでない。セクサーチームの全員が焦っていた。

眼下にCコマンダーが、光がいる。それも落下で怪我をしているかも知れない。

 

すぐに助けに行きたかった。

しかし、目の前の鬼性獣はそれを許さないほどの強敵。

 

「あぐっ!?」

「準!?」

 

そうこうしている内に、今度はオウル号がやられた。

飛べてこそいるが、機体をトゲが貫通している。

 

このままではヒロイジェッターも危ない。

光を救出する所ではない。

 

「………クソッ!」

 

苦い顔を浮かべ、涼子はレバーの下部にあるスイッチを押した。

すると、サーバル号から二発のミサイルが射出され、ハガーマディンの眼前で爆発する。

 

GYEEE?!

 

爆発と同時に、ハガーマディンの周りに、キラキラ光る粒子を含んだ煙が広がる。

それを前に、空中でじたばたと溺れるようにもがくハガーマディン。

 

ケーオンに装備されている物を転用した、対鬼性獣用のジャミング煙幕弾だ。

 

「全員この場を離れろ!光の救出はヤツを撒いてからだ!急げーーーッ!!」

 

涼子の下した判断は、鬼性獣から一旦逃げるという、見ようによっては光を見捨てるかのような判断であった。

 

安全を確保しつつも、光を救出する為には仕方のない事。

まさに、苦肉の策であった。

 

「みーくん……」

「光くん………ごめんっ」

「光………絶対助けに行くからな!」

 

各々が涙と悔しさを飲み込み、ハガーマディンから逃れるため、ヒロイジェッターは島の各地へと散ってゆく。

 

 

 

………一方。

 

「………鳥」

 

島のジャングルの中から、それを見つめる瞳があった。

その小さな監視者は、セクサーチームが島にやって来てから今までの一部始終を、その細い瞳孔に納めていた。

 

「機械の鳥………白の巨人………言い伝え………」

 

そしてハガーマディンがジャミング煙幕から解放される前に、そそくさとその場から消えてゆく。

 

………ハガーマディンが視界を回復させた頃には、既に全てが終わった後だった。

 

 


………………

 

 

 

ハガーマディンが、苛ついたように吠えた後に、何処かへ去ってゆく。

 

それを、光はCコマンダーのザザザとノイズの走るモニター越しに、地上から一人見守っていた。

無論、ヒロイジェッターがCコマンダーの救出を諦めて撤退するのも。

 

「う………ぐ………」

 

パイロット保護のために、頑丈に作られているはずのコックピット。

そのコックピットの各部から、バチバチと火花やスパークが散っている。

 

どうやら、Cコマンダーの受けたダメージはかなりの物らしい。

 

「そうだ………皆さん、逃げて………ぐっ?!」

 

動いたら瞬間、左腕に激痛が走った。

余程派手に落ちたらしい。

どこかにぶつけたのだろうか?折れているようだ。

 

「ぐ………う………コンテナは………?」

 

左腕の痛みに耐えながらも、光は右手を伸ばし、Cコマンダーの制御システムを起動する。

コンテナの無事を確認するためだ。

 

「あ………ああ、よかったぁ」

 

幸い、コンテナは無傷だった。

ハガーマディンの攻撃も上手く避けていたらしい。

落下の衝撃によるダメージも、元が頑丈だった為かほとんど無い。

 

「ぐ………Cコマンダーは………?」

 

次に、Cコマンダーの状況を確認する。

コックピットの状況が状況なだけに、嫌な予感しかしない。

が、もし動けるのであれば、上手く涼子達と合流できるかもしれないという希望があった。

 

「………ダメか」

 

しかし、システムを開いた瞬間、希望は潰えた。

 

ハガーマディンの攻撃は脚部だけでなく、腕、コックピットの付近にまで届いていた。

幸い、セクサー炉心と動力パイプこそ無事だったが、もうCコマンダーは歩く事すらままならない。

 

「………ぎいっ!?」

 

更に、ハガーマディンによる攻撃はコックピットにこそ命中しなかったが、それによりコックピットが圧迫され、光の右足を挟み込んでいた。

こちらも折れているらしく、身体を戻しただけでかなりの激痛が走った。

 

未開の地で、敵の勢力圏内で、仲間とはぐれ、大怪我を負い、またその場から動けない。

 

まさに、絶体絶命。

 

「………涼子、さん………」

 

きっと、涼子が助けにきてくれる。

そんな僅かな希望にすがるように光は涼子の名を呟き、薄れゆく視界の中意識を手放す。

 

 

………最後に、うっすらとだが、Cコマンダーに近づく集団が見えた、気がした。

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