第十七話「開幕!マッド・ビルド・ロード」

その日の放課後、涼子と光は真っ先に五月雨研究所にすっ飛んだ。

理由は、今回の次郎との一件について相談するためだ。

 

ちなみに光の両親には、クラス委員の仕事で遅くなると伝えておいた。

 

「なるほど、そんな事が………」

 

マッド・ビルド・ロードの紙をまじまじと見つめる五月雨。

 

「なあ博士~どうにかいい方法は無いのか?」

 

不良な上に親のいない涼子にとって、身近な頼れる大人といえば五月雨ぐらいしかいない故の事だ。

 

「あら、付き合っちゃえば?その次郎って人と」

「あ゛?」

 

そこに、優雅にコーヒーを飲みながら茶々を入れる準。

当然、涼子は威嚇するように準を睨む。

 

「同じ脳筋バカ同士お似合いでしょう?光くんは私が幸せにするから♡」

「じゅ、準さん………」

 

見せつけるように、光に腕を絡ませる準。

準からしてみれば、光を愛でるためのお邪魔蟲がどこかに行ってくれるのであれば万々歳なのだ。

 

「テメーッ!!他人事だと思って調子に乗りやがってクソババァ!!」

「何ですってこのガキんちょ!!というか実際他人事でしょう?!」

「ふ、二人とも、やめて………」

 

毎回のごとく、光を挟んだ一触即発の空気になる二人。

今まさに飛びかからんとした、その時。

 

「喧嘩はダメですよ~」

「うおおっ」

 

二人の間に割って入り、その柔肉で二人を遠ざける巨体。

気の抜けた声で現れた彼女は、セクサーチーム三人目・来栖間朋恵。

 

「二人とも~、みーくんが怖がってるじゃないですか~っ」

「あうう………」

 

胸と腹の柔肉で守るように光を抱き締める朋恵。

体格も合間って、まるで小熊を守る母熊のよう。

 

「………みーくん?」

 

ふと気付く。

朋恵が、光を聞きなれないあだ名で呼んでいる事に。

 

「え?だって、光だから、みーくん、ね~?」

「え………ああ、そう、ですね」

 

困惑するが、朋恵に頭を撫でられて思わず納得してしまう光。

朋恵としては、子供を愛でるような感覚なのだが………。

 

「ぐぬぬぬぬ………」

 

それを嫉妬の目で見つめる涼子と準。

しかし、先程「光が怖がる」と言われた為にどうにも出来ない。

 

 

「………話を戻すが、結局お前は挑戦を受けるのか?受けないのか?」

「ん?ああ、そうだったそうだった………」

 

話に置いていかれている五月雨の質問に、涼子は本来の相談事を思い出す。

光の事も大事だが、今はその話をしている時ではない。

 

「勿論受けるつもりさ、アタシとしてもあのストーカー野郎をどうにかしたいし、ただ………」

「ただ?」

「………マシンが、用意できないんだよ」


涼子は移動手段としてバイクを持っていた。

それがあれば、今回のレースもそれで出たであろう。

 

しかし、そのバイクは今はない。

あの時、ガシボ襲撃時にアパートごと壊されてしまったからだ。

 

幸い、修理は可能ではあったが、肝心の修理がまだ終わっていない。

今も、修理屋の方に行ったままだ。

 

「………なるほど、それで私を頼ったわけか」

 

涼子の「代わりに使うマシンを作ってくれ」という異図を呑んだ五月雨。

顎に手を当てて少し考える。

そして。

 

「………わかった、やろう!」

 

その二言で、了承した。

 

「ほんとか博士?!」

「ただし、一位になった場合の賞金は3/4はこちらが貰うぞ、こちらとしても資金は欲しいからな」

「やったぜー!!」

 

子供のようにピョンピョン跳び跳ねて喜ぶ涼子。

これで、マシンの問題は解決した。

賞金の3/4を持っていかれるが、マシン料だと思えば安いとも言えた。

 

「よかったですね」

「まったくだぜ光ぅ~!」

「うわっ?!」


瞬間、朋恵に抱き抱えられていた光を涼子がパッと取り上げた。

 

「心配しなくていいぜ?アタシがちゃーんと守ってあげるからな~♡」

 

乙女趣味の女子がぬいぐるみにするように、光を抱き締めて頬ずりをする涼子。

まるで飼い主にマーキングをする猫のように、胸を、顔を擦り付ける。

 

しかし当然、これに準が黙っているはずもなく………

 

「………あれ?」

 

ふと、辺りを見回す朋恵。

 

「ん?どうした?朋恵」

「………準ちゃん、どこ?」


準がいない。

いつもなら「何光君を独り占めすんのよ!」と怒鳴りかかってくるはずの準がいないのだ。

先程までここに居たはずなのに。

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

そして、一週間後。

 

かつて一部の政治家が、己の力を後世に示すがピラミッドごとく作った高速道路。

 

しかし、2069年現在その多くが使われていない。

利便性はおろか、必要性すら考えずに造られたそれは、日本のかつての愚行の戒めのように、今も各地に鎮座している。

 

だが、それを見逃さぬ者達がいた。

安全運転講習会に苛立ちを覚えるような、速さに取り憑かれた「大馬鹿者共」。

退屈な日常に飽き、スリルと挑戦を求める「ウジムシ共」。

そこに金銭の匂いを感じ、あわよくば自らの力として取り込もうと企む「ド外道共」。

 

そんなクソッタレ共があつまったソドムの祭り。

愚行の遺産を、無法のサーキットに変えた、吐き気を催す邪悪の祭典。

それが。

 

『第77回マッド・ビルド・ロード、開幕です!!』

 

とある高速道路の両サイドに造られた、観客席の人々の声援が響く。

晴れきった秋の空には紙吹雪が舞い、道路には闘いの時を待つマシン達が、ドルンドルンとエンジンを鳴らしている。

 

その中に、涼子の姿もあった。

いつものアメスクスタイルではなく、場に併せてかレーサージャケット姿だ。

 

「………たしかに、アタシはマシンが欲しいつったけどさぁ」

 

観客としてやってきた光と朋恵。そして整備員としてやってきた五月雨とヒナタ率いるラッキースター小隊と共に、用意された「マシン」を見ていた。

 

当所、涼子は「バイクの代わり」というわけで、バイクのような乗り物を用意してくるのだとばかり考えていた。

 

………しかし、それはバイクと呼ぶにはいささか大きすぎた。

 

操縦席はバイクの物なのだが、埋め込むように装甲に包まれ、二つのタイヤが連なった四輪を持つ。

全体的に赤く、左右から兎耳を思わせるブレードが生えている。

そして、乗用車二台分ほどの大きさ。

 

「えっと………なにこれ、装甲車?」

「こいつは“クリムゾンバニー”だ」

「いや名前じゃなくて」

「動力はネオプラズマエンジンで自然にも優しい」

「性能でもなくて」

「兎に角速さを求めた結果常人なら乗りこなせないマシンになったが、まあお前なら大丈夫だろ」

「………もういいっす」

 

兎に角、乗れるマシンである事は解っただけでもいいか。と、涼子は自分に言い聞かせる。

そこに。

 

「それが貴女のマシンかしら、“小娘”」

「げっ、この声は………」

 

背後から聞こえた苛立ちを全力で煽る声に、涼子が振り向く。

そこには。

 

「ハァイ光くん♡」

「準さん!」

「あの“クソババァ”っ!」

 

レース用のライダースーツに身を包んだ南原準。

その胸には見事な乳袋が作られ、見せつけるようにぷるん♡と揺れては、光の視線を釘付けにする。

 

「はろー五月雨くん」

「やはり、君の差し金か、毒島君………」

 

そこにいたのは、五月雨研究所の兵器開発の一任者にして、現代が生んだ自称美少女マッドサイエンティスト・毒島博士だ。

準と共に現れた彼女を見て、五月雨は全てを察する。


あの時準がどこかに行ったのは、毒島と手を組むためだ。

自分達とは別の、敵対するチームとしてレースに出るために。

 

「ふふっ、今回私はあなた達とは別のチームで出ることにしたの、そして、これが私のマシン!」

「おおっ?!」

 

準が指差す先にある物。

そこにあるのは準のマシン、なのだが………。

 

………それも、やはりのごとく大きすぎた。

強化ガラスに覆われた操縦席と、その左右から延びた巨大な砲身。

下部にはクマムシのような多脚型の生物を思わせるホバーパーツと、四つのミサイルランチャー。

全体的に青いカラーリングのそれは、レース用のマシンというよりは、むしろ………。

 

「………装甲車の次は戦車かよ」

 

戦車。

そう、戦車である。

ガールズと呼ぶには無理のある準の乗るパンツァーである。

 

「かっこいいっしょ?名前は“コバルトパンツァー”」

「いや何で戦車なんだよ」

「武装はセクサースイマーを元にしたレールカノンとミサイルランチャー」

「なんつーモン積んでんだよ?!」

「動力にはハイニトロエンジンを搭載、一般マシンなんて目じゃないよ!」

「それド違法ォォーーーッ!!」

 

違法となった危険な動力を使う事に躊躇すらしない辺り、まさにマッドサイエンティストと言うべきか。

涼子のツッコミを他所に、毒島はケタケタと笑っている。

 

「………で、なんでわざわざ別チームで出るなんて事してんだよ」

 

色々と言いたいことはあるが、涼子が一番聞きたいのはそれだ。

準は今回の一件では何の関係もない部外者。なら、何故わざわざ別のチームとして、涼子と敵対する必要があったのか。

 

「ふふ………ちょっと勝負をしようと思ってね」

「勝負?」

「そう、勝負よ!」

 

困惑する涼子を他所に、準はビッと光を指差す。

そして、宣言する。

 

「このレースで順位が上だった方が、光くんを一週間独占できる!なんてどう?」

「はあ?!」

 

準の予想外の一言に、涼子は思わず声を出して驚いた。

次郎だけでも厄介なのに、その上準の相手までしなくてはならなくなるのだ。

 

「じゃ、そーゆー事で!」

「あっ!おいっ!」

 

スタスタと、自分のマシンの方に去って行く準。

涼子は、次郎に続いて再び理不尽な約束を交わすハメになってしまった。

 

次郎に負ければ、自分は光と別れなければならず、次郎もストーカーを続ける。

次郎に勝ったとしても、準に勝たなければ、光を一週間独占される事になる。

その間に、準は光に対してナニをするか………。

 

「ああ、勝利が遠退いて行く………」

 

予想外の敵出現に、涼子は力なく項垂れるのであった………。

 

 

 

所変わって、次は次郎サイド。

配下の、不良(なかま)達が様々な所からかき集めたパーツを組み上げたそれは、「青龍号」の名前がつけられていた。

原型となるハーレーの面影は残しているものの、全体的なシルエットは立体の暴力ともいえる攻撃的な物になっていた。

 

「ま、周りのマシンすげーのばっかっスよ?兄貴!」

「こんなんで勝てるんですか?!」

「今からでも別のマシンに乗り換えた方が………」

 

彼の舎弟であろう、赤バンダナ、髭面、ニット帽の三人が、 次郎に向けて心配そうに進言する。

 

彼等の言うとおり、周りのマシンはどれも明らかに攻撃目的のパーツがついていたり、レーサーが武装していたりと、レース中に妨害する気満々だ。

ルール上も「ある程度の妨害行為」は許可されている。

それこそがこのマッド・ビルド・ロードが危険なレースと言われる由縁であり、醍醐味でもあるのだ。

 

並びに、青龍号はジャンクの組み上げな上に、マシンも次郎も無防備な、ただ走るだけの典型的なバイクだ。

これでこのレースに出るなど、死ににいくようなものだ。

 

しかし。

 

「必要ねえ」

「で、でも兄貴………」

「男に二言は無ぇっ!俺はお前達の組んだ青龍号で勝つ!!」

 

バン!と次郎は言い切る。

お前達の作ったマシンこそが最強だと。

 

「試合中の妨害なんざするような、男の風上にも置けないような奴に負ける俺じゃねえ!俺は勝つ!!お前達に求めるのはもう応援以外無い!」

「「「あ、兄貴~~!」」」

 

その男気に、三舎弟は感動の涙を流す。

 

「よせよ、感動の涙は俺が勝った時に取っときな」

 

そう言って、次郎はマシンの最終調整に戻る。

日本が忘れ去った、男の中の男、ここにあり。

 

 

 

「なぁヒナタぁ」

「なーにぃ涼子ちゃん」

 

五月雨研究所サイドも、クリムゾンラビットの最終調整に入っていた。

そんな中、手を動かしながら涼子がヒナタに何やら話を吹っ掛けた。

 

「ほんとに居ないんだな」

「何が?」

「レースクイーンだよ、レースクイーン」

 

そう、こういったレースイベントには必ず存在するレースの華。

刺激的な輝くボディでレーサーと観客に潤いをもたらす勝利の女神・レースクイーンの姿がどこにもないのだ。

 

「聞いた時は眉唾だったけどよーほんとに居ないんだなって」

 

王慢党が行った製作は、事業仕分けと表現規制が有名だ。

中でも、レース業界に外圧をかけて、レースクイーンやグリッドガールを廃止に追いやったのは、有名な話である。

 

曰く「現代の社会規定に則していない、女性差別的な物はそろそろ変えて行くべき」との事だったが、自分達より美しい女性への嫉妬である事は見て取れた。

 

結果、職にあぶれたレースクイーン達は風俗等に墜ちる事となり、さらにそこから王慢党の風俗規制によりまたも職を失い、路頭に迷う事となった。

………現に、今五月雨の意見に賛同し、王慢党と戦っているメンバーの中にはレースクイーンやグリッドガールだった者もいる。

 

涼子自身、あまり車やレースには興味がなかったため、ヒナタから聞くまでは眉唾だった。

だがこうして現物を見ると嫌でも信じざるを得ない。

 

「そして、レースクイーンが廃れた所に王慢党がねじ込んできたのが、あれだよ」

「ああ………」

 

ヒナタが指差す先には、執事服や学生服等に身を包んだ見目麗しいイケメン達の姿。

カメコ女子に囲まれて笑顔を振り撒く彼等は「レースプリンス」と呼ばれ、廃止されたレースクイーンに代わる存在として、王慢党がねじ込んできたもの。

 

しかし案の定というか、彼等の参入は女性観客を増やしはしたが、逆に本来の顧客である男性が離れていく事となった。

これを推し進めた当時の党員の言った「男なんて誰得と言われるかもしれない、私得だよ!と声を大にして言いたい!」という発言の通り、単なる自己満足でしかなく、結果的にレース業界その物にダメージを与える事となった。

 

現に、女性レーサーはイケメン達の姿をにこやかに見つめているが、男性レーサーはあからさまに苛立ちを感じているようにも見える。

一説にはこのフラストレーションが、レースをより一層危険な物にしていると言われている。

 

「そりゃーホモでもない限り、ピリピリしてる所に見たくもない男の裸見せられてもイライラするだけだよなぁ」

「まあまあ、だからこそ“アレ”が使えるんじゃあないか涼子ちゃん!」

「そっか、そうだな!」

「「うひひひひひひひ………」」

 

怪しげに笑う涼子とヒナタ。

どうやら二人は何か秘密兵器のような物を用意しているようだが、果たして………?

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

『間もなく、レースが開始されます、ピットクルー及び、その他の関係者の皆様は、安全のため待避してください、死にたくなければな!』

 

ブザーと共に響いたアナウンスと共に、マシンとレーサーを除いた人々が退散して行く。

サーキットには、レースの開始を待ちわびる狼達が残される。

 

一文字涼子と、クリムゾンバニー。

南原準と、コバルトパンツァー。

春日次郎と、青龍号。

そして、野心を燃やすレーサー達。

 

そして今、シグナルに光が灯る。

 

「涼子さん………」

 

観客席で、五月雨や朋恵と共に見守る光。

 

「ふふふ、私の才能を存分に発揮なさい」

 

同じく、準の活躍を期待してニタリと笑う毒島。

 

「兄貴………」

「頼んますぜ………!」

 

言われた通り、全力の応援をしようとする赤バンダナ、髭面、ニット帽の三人。

 

そんな彼等が見守る中、シグナルの色が今、平和と希望の青から、殺意を乗せた赤に、変わった。

 

 

『スターーーーット!!』

 

 

今、勝利に飢えたサーキットのケダモノ達を繋ぐ鎖は絶ち切られ、

その獰猛な「野生」が、アスファルトの草原に放たれた。

 

 

その時である!

 

「今だァァッ!!」

 

涼子が、クリムゾンバニーに隠されたあるシステムを起動する。

すると………。

 

 

 

「………え?」

「………はい?」

「なっ………?!」

 

………観客席を含めた、皆が目を疑った。

涼子の着ていたレーサージャケットが、発進と共に弾け飛んだのだ。

 

ジャケットの中に閉じ込められていた豊満なバストがばるるんっ♡と揺れて現れたモノ。

 

見せつけるかのように胸元にひし形の穴を開け、谷間を見せつける上着に、パンモロ一歩前のミニスカートのセパレートスタイル。

共に材質はテカり輝くエナメルで、くっきりと浮かんだボディラインも合間って、半端ではない色香を放っている。

 

それだけでも十分いやらしいのに、直後クリムゾンバニーからポールが延びてきて。

 

「んっふぅ~~ん♡♡」

 

ポールに登る形で、涼子がその身体を見せつけるように、踊る。

そう、ポールダンスである。

 

「ん~~~っちゅっ♡ちゅっ♡」

 

ぷるん♡と尻が揺れ、ばるん♡と乳が揺れ、投げキッスが飛ぶ。

見せつけるに開脚する股。

シャバシャバデュワ~♪という音楽と共に繰り広げられる、セクシーすぎる舞踊。

 

スローモーションになった世界で、その性欲を掻き立て、本能を見せつける動きは、サーキットの男達の理性を奪い、視線を釘付けにする。

 

 

………そして、古来から「余所見運転事故のもと」と呼ばれるように、アクセルを踏んだまま涼子のポールダンスに見とれていた男達に待ち受ける運命。

それは………。

 

 

「わぎゃあ!」

「ぐわ?!」

 

ポールダンスに目を奪われていたせいで、男達は操作を誤り、スピンを起こして互いに追突する。

 

「きゃあ!」

「ぎええ!」

 

女性ドライバーもそれに巻き込まれ、次々とやられてゆく。

あがる悲鳴。爆発するマシン。興奮に沸き上がる観客席。

たった数秒目を離しただけで、この惨劇は起きた。

 

「やりぃ!」

「よし!」

 

観客席でガッツポーズを取るヒナタと五月雨。

そう、これはヒナタの提案による作戦。

 

………クリムゾンバニーの兎耳のようなブレード。

実はこれは、セクサーロボ合体時の精神感応現象を解析して造られた、半径100kmにいる相手の脳に干渉し、相手の持つ性的なイメージを増幅するシステム。

一種の幻覚装置だ。

 

レースクイーン及びグリッドガールが廃止されてから、きっとレーサーも「溜まっている」であろう事に目をつけたヒナタが進言し、試作段階だった物を五月雨博士に頼んで積んでもらったのだ。

 

「ははははーっ!これで相手は大幅リタイア!もはやアタシの独壇場!」

 

調子に乗ってクリムゾンバニーのアクセルを飛ばす涼子。

しかし、その時であった。

爆煙の中から一台の大型バイクが現れたのは。

 

「あんなモンで、この春日次郎を止められると思ったか!」

「げっ!」

 

春日次郎と青龍号が、爆音をあげながら追い付いてくる。

 

「てめぇ、まさか幻覚を耐えきったのか!?」

「あのような作法も礼儀もない誘惑に揺れるような奴は男とは呼べん!春日タつとも心はタたず!!」

「結局おっタてとんのかい!!」

 

次郎がそんな、色んな意味で漢(おとこ)らしい啖呵を切ると同時に、マシンの残骸と爆煙を蹴散らして現れる一台の青きマシン。

 

「このコバルトパンツァーの装甲はああいった自体に対抗する為よ、あれしきで殺れると思わない事ね!」

「げっ!ババァも無事かよ!」

「残念だったわねメスガキ!」

 

ホバー走行によりアスファルトをガリガリと梳りながら現れたのは、準のコバルトパンツァー。

見れば、誘惑をなんとか耐えきった男性レーサーや、大惨事を免れた女性レーサーのマシンもちらほら見える。

 

「簡単には勝たせてくれねーって事か………!」

 

毒づきながらもクリムゾンバニーのアクセルを飛ばし、涼子はこのレースの勝利を掴み取らんと駆け抜けた。

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