第6話 魔法が使えない悪役令嬢、以下甲が、不可抗力によってエルフの森、以下乙の住人たちの居住区を、紅蓮の炎でもって炎上せしめ、乙の住人たちに多大な損害を被らせる(下準備編)

リリーたちの住んでいるモンスター村から徒歩1時間、まあ、リリーはアタリをわざと迷わせるために遠回りしているのだが、二人は神聖な森へとやってきた。

モンスター村というと人聞きが悪いが、要はこの森とその周辺一帯に土着する古い時代からの民であった。

古くから人類と魔物は戦ってきてはいたが、その動機は故郷を守るためである。

このモンスター村を勇者たちから守ったリリーのご先祖様はきっと、この美しい小川や森や小鳥や動物たちを守りたかったのだろう。


いかに、魚の上半身から手と足が直接生えているさわったらサンオイルが塗ってあってつめたくぬるっとした感触がキモチワルイサカナニンゲンのおっさん(29才)が川辺で鼻歌を歌いながらタオルで背中を洗っていたとしても、ここがリリーの故郷であることに変わりはない。


「ねえリリー、ハデスの地下神殿ってまだぁ〜?」

「もうすこしよ」

リリーは澄ました顔で答えた。

「さっきからリリー、もう少しよしか言ってないよー」

「もう少しよ」

リリーはふっと軽く笑った。

この調子でアタリが疲れて動けない歩きたくないと言いだしたら、この小娘を置いてきぼりにするチャンスなのだ。

リリーは、この魔導少女アタリを、何が何でもパーティから追い出したいのだ。


そもそもパーティを組んだ覚えすらないのだが?

「ねえリリー、さっきからおんなじとこぐるぐる回ってる気がするよ〜?」

「ここは迷いの森って言ってね、初心者が来ると必ず道に迷うように魔法がかけられてるのよ」

「うっそ。じゃあボクたち、道に迷ってるの!?」

「私が道を覚えてるから大丈夫よ」

「あ、そっか! リリーって魔法が使えないんだもんね! 森に魔法がかかっててもリリーに魔力がないんじゃ意味ないもんね!」

イラッとしたが、リリーは黙って耐えることにした。

「この森の魔法は常に変化してるの。不定の多層の魔法って言って、カオスの魔法を応用してるって長老が言ってたわ。私にはわからないけど、アタリなら何か感じるんじゃない?」

「うーん、言われてみれば、なんだか頭がグラングランするよ〜」

ふ、そうだろうそうだろう。

この森の魔法は、魔力の強いものに特に強く作用する特別なもの。いわば、アンチ魔導師の森。

この森に棲むモンスターたちは、魔力は弱いが物理攻撃に強いモンスターたちばかり。

リリーは自分の後ろをついて歩く寸胴チビ巨乳メガネ体力なしの頭でっかち露出狂猫かぶり面食い魔導少女のアタリ…………長いのでアタリを見てふふんと笑った。

「疲れたのなら無理しなくていいわよ。ちょうどあそこに東屋(公園や大きな庭園によくある藁葺きと柱と粗末な土台だけの小さな小屋)があるし、一休みしていきましょうか」


東屋に入り、二人は適当に腰掛けの上に腰を下ろした。

「ふぅ〜つっかれたー! ねえリリー、いい運動になったねっ!」

「そうねー。でもハデス様の神殿はまだまだ先よ。このペースだと夕方になっちゃうかもしれないわね」

「ねえリリー。ボクたち、ほんとに道に迷ってない?」

「うーん私も久しぶりに来たから」

そういってリリーは森の向こう側を見る。

「たしかこの道をまっすぐいったところよ」

「ここ迷いの森なんだよね? いくらリリーに魔法が使えなくても、きっとこの森に迷わせられてるんだよ」

はっはっはーご冗談を。

「いくら迷いの森って言ったって、ここ私の地元よ?こんなところで迷うわけ……」

ヌーン、とちょっと遠くまで目を凝らしていつもの目印を探す。

この森にはリリーがつけた目印がたくさんあって、小さい頃からリリーはこの森とともに育ち、成長して、冒険やかくれんぼ、勇者退治ごっこをして暮らしてきたのだ。

とうぜんいつも見慣れた森なのだから、みればそこにはいつもの目印が。


ない。



「んん? 間違ったかな?」

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