第11話 ジョナサンの覚醒~砂漠の攻防②

 プリンス・チャーミングはひとり宮殿の記念館にある音楽ルームで、音楽を聴いていた。しばらくすると、そこへ王子ムハンマドがやって来た。

「何を聞いているのかな、プリンス・チャーミング。ずっとお前を待っていたのに、いつも待ちぼうけで、会えなくてさみしかったよ」と言った。そして相変わらず人の気持ちは全く無視して、ムハンマドはプリンス・チャーミングを無理やり

自分の方に向かせると、抱きしめキスをしようとした。そのムハンマドからやっと逃れたプリンス・チャーミングは、

「この間、テロ事件があったでしょう。あのテロ事件で死んでしまった、イマージュの音楽を聞いていました」と言いながら、極上の笑顔をムハンマドに返した。しかしその目は少し怯えていた。ムハンマドは今、自分が優位にあることを当然感じていた。それを知っていたから、プリンス・チャーミングの言うことを静かに聞くだけの余裕も生まれた。

 プリンス・チャーミングはなんとか話題をイマージュに持っていこうとして、頑張っていた。

「イマージュの音楽ビデオも全部そろっているんですね。すごいや! 僕が持っていないものもある。そしてこれなんか、『王子さまへ愛をこめて』ってサイン入りだ。実際にお会いしたこたが、あるんですね。すごいや! どんな感じのかたでした? 僕、イマージュのコンサートへずっと行きたいと思っていたんですけれど、一度もコンサートへ行けないうちに、先週イマージュが死んじゃって、とても残念な気持ちでいっぱいです」と言った。

 ムハンマドはそう言ったプリンス・チャーミングの顔を、しばらくじっと見つめていた。

「あの、こんなことお願いするのは子供じみていて恥ずかしいんですけれど、このメッセージ入りのCD、僕に譲っていただけませんか?」

 そういうプリンス・チャーミングをムハンマドは可愛いと思った。

「いいよ。君にあげる」

 そう言うとムハンマド王子は、喜ぶプリンス・チャーミングの肩をそっと後ろから抱きしめた。そしてプリンス・チャーミングにささやいた。

 「以前のお前はいつも私と言う人間を否定していたのに、ずいぶん成長したな。やっと私の良さを理解できる大人になったようで、嬉しいよ。それに音楽の趣味までぴったり一致するようになった。本当に嬉しいよ。今のお前なら、私の愛をきっと理解できるはずだ」と言った。そして「お前に素敵なものをこれから見せてあげる」と言って、プリンス・チャーミングの手を握りしめ、どこかへ連れて行こうとした。








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