39.最後の休日


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日曜日まで、俺は塚本くんとあまりにも穏やかすぎる時間を過ごした。

平日は塚本くんは学校に行って、俺は無理をしない程度に家事をして過ごす。家自体がそれなりに広いから、一通り掃除をするだけで塚本くんが帰ってくる時間になってしまう。だから1人が寂しいとか暇だとか思うようなことはほとんどなかった。


それでも昼飯を食うときはテレビをつけていても、何と無く携帯に手を伸ばしてしまう。ようやく連絡先を交換してやりとりできるようになった。ちょっとしたことを送ってみると、昼休みの時間だったら即行で返ってくる。本当にこいつ俺以外と飯食うやついないんだろうか。だれかと一緒にいるのに携帯いじってんならかなり失礼だと思うけど。


本当に他愛ない話。どんな授業だったかとか、さっきまで俺が何してたかとか。スマホ片手にどうでもいいことを会話しながら昼飯を食う。近くに塚本くんはいないけど、それはいつもの昼休みみたいで。口には出さないけど結構楽しい。毎回塚本くんが授業前のチャイムが鳴ったというのが終わりの合図。「また後で」と軽く返して黙々と残りの飯を食う。


塚本くんが家に帰ってきたら、夕飯を食べながら夜寝るまで映画を見るのが日課になった。あの入り浸ってた旧視聴覚室の代わりみたいになってる。俺は床に、塚本くんはソファに座って毎日一本映画を見る。夢中になってる日もあれば、気がつけば2人して寝落ちしている時もあった。


あまりにも幸せだ。

幸せすぎる毎日に錯覚してしまいそうになる。全ての問題がもう解決しているだなんて。このままここで、ずっと塚本くんと一緒にこんな日々を過ごせたら。そんな甘えきったことを考えてしまう。

塚本くんはきっと二つ返事でOKしてくれそうだ。何なら俺の面倒だって見てくれるだろう。

嬉しいけど、それはきっと楽だけど、それじゃダメだ。俺は、俺のことなんかを期待してくれる唯一の存在の塚本くんを幻滅させるようなことだけは絶対にしたくない。彼にだけは見放されたくないだなんて、ちょっと前の俺が聞いたら呆れた顔をするだろう。「だから他人と極力かかわらない方がいいって心に誓ったのに」と。いつからだったか心に刻んだその誓いが、気がつけば打ち壊されている。もう嫌な思いはしたくないんじゃなかったのか。また、性懲りも無く他人を信じて。


呆れ果てるとともに、だけどそんな自分が嫌じゃない。だって今の俺は辛気臭い顔ばかりじゃ無く、ちゃんと笑えているのだから。


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「本当に明日から学校に行くつもりですか?」


日曜日の夜。

隠していた俺の制服を差し出しながら、ひどく不満そうな顔でそう尋ねる。制服はしっかりとアイロンがけされ、柔軟剤のいい香りがするしなんだか手触りも良く感じる。どうやらただ単に隠していただけでなく、洗濯をお願いしてくれたみたいだ。シワひとつないシャツがまるで新品のようで、これが本職の使用人の技かと驚きを隠せない。


「なん度も言わせんなよ。これ以上休んだら内申がやばいんだって」


「それは分かってますけど…」


俺は未だに若干足を引きずっているし、薄まったとはいえ所々に痣がある。彼から見た俺はまだかなり痛々しい姿なのだろう。ただ俺的には体調も万全だし、正直家にずっといて家事に勤しむのにも飽きてきたところ。そろそろ学校に復帰しなくてはだらだらした毎日に慣れてダメ人間になりかねない。塚本君の家に居座るのも、そろそろ終わりにしなくてはいけないのだし。

明るく返事をする俺とは対照的に浮かない表情を今日はずっとしている。いつもみたいに強引に止めたいけど、俺が言う内申の話をされたら学校に行くなと言い続けるのも無理があると分かっているのだろう。俺のために止めたいけど、俺のために止められない。彼的には相当もどかしい気持ちなんだろうなと予想がつく。


「なんかあったらちゃんと相談するしさ。ほら、念願の連絡先交換したろ?」


スマホを手に取りなんとか彼の機嫌を直そうとそう言うが、小さくため息をつくだけで表情は一向に明るくならない。


「そんなこと言って絶対相談しませんよね、先輩って」


「は?するって言ってんだろ。なんのための連絡先だよ」


自分でそう言いながらも逐一何かあったからと言って彼に報告するつもりはない。だけど本当に困ったら今度はちゃんと相談するつもりだ。自分でどうにもならないことならちゃんと助けを求める。一人きりで抱えこんで彼に余計に心配させるくらいなら、そっちの方がずっといい。



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