20.変化



それからしばらくの間、学校行事も終わり普通の日常へと戻っていた。



だが、俺にとっては大きな変化があった。クラスメイトと多少の会話を交わすようになったことだ。俺自身は以前と変わらず愛想なんてこれっぽっちもないから、話しかけずらさはなくなっていないと思うのだが、中でも体育祭の後にご飯を誘ってくれた彼なんかは毎日挨拶をしてくれるようになった。最初は戸惑いがちだったそれも、今となっては当たり前の日常化してきている。たわい無い一言二言の会話だが、それだけでもクラスの中にいることの孤独さはずいぶん軽くなった。彼は陸上部で名前は田噛という。…ということを会話するようになってようやく知った。話さないとはいえクラスメイトの名前も把握していないのはどうかということに今更気づき、こっそり名前と顔を一致させる努力をし始めた。自分がこんな状態では、塚本くんにごちゃごちゃいう資格など到底ない。



それからもう一つ。今までと変わったのは塚本くんが、昼になると一緒にご飯を食べるために俺を必ず探しに来ること。名前も知らないから俺の居場所を誰かに尋ねることもできなくて、いつも彼が二年生の廊下を歩いているところを俺が発見するという形だ。見すぎて最近は慣れていたが、人混みにいても彼の金髪は結構目立つ。これが地毛だというのと彼が金持ちだということから学校も強くは言えないみたいで、彼一人だけが校内で明るい髪色をしている。絵本の王子様みたいなそのキラキラした髪にすれ違う人たちは目を奪われる。それに加えてあの美形だ。見るなと言われる方が無理だろう。そんな人間が俺を目当てにくるもんだから、なんとなく俺自身も若干浮いている気がしている。あまり目立ちたくない俺からしたらそれはかなり不本意なことで。俺はしつこく何度か同じクラスのやつと食べろと言ったのだが、話はすぐにうやむやにされてそんな話などなかったように次の日も平然とした顔でやってくる。こいつ、俺が目立つの嫌いなこと知ってるとか言ってなかったか?以前のように売店とかで待っていてくれればいいのに。一体どうしてわざわざ探しにくるのか、無駄な労力をかけているようにしか思えず俺には理解できない。


俺のいうことは相も変わらず聞いてくれないわけだ。でも俺だってそれが嫌なわけじゃなくて。

塚本くんと会う前は飯は一人で食っていたから、誰かと一緒に食べるのは楽しい。何だかんだ言いながらも、流されるように昼は彼と過ごすようになっている。

そうして、食べる量も、ほんの少しだけ増えたような気がする。塚本くんのお弁当の中の美味しそうな卵焼き。それを毎回いただくようになったのだから。



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「あ、兄さん」


いつもの視聴覚室に向かおうと教室を出たところ、弟と鉢合わせした。一年生がこの辺りに来ることはほとんどない。それゆえに彼の姿を目にしてぎょっとした。同じ学校に通っていながらも今まで遭遇することがないように細心の注意を払っていた。しかしこの時間は普通部活が始まっている時間だ。弟はサッカー部に入ったと話しているのを聞いたから、今の時間は警戒などする必要がないはずだったのに。

2年生に用事があるのか。それとも、俺に何か用事でもあるのか。


「なんだよ」


「一緒に帰ろうよ、たまにはさぁ」


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