5.頑固なやつ


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上映が終わり電気をつけると、やたら彼の視線が気になった。席についたまま、俺が片付けをする後ろ姿をじっと見て来る。しつこい視線が気持ち悪くて文句を言おうと振り返ると、驚いたようにわずかに眼を見開く。基本クールに表情を変えない彼だからこそ、その小さな変化だが彼がひどく動揺したということが分かる。その瞬間、自分の顔が今日は酷い有様だということを思い出した。しまったと思い、慌てて顔を逸らしたが不自然極まりないだろう。あんな大きな痣だ。見られていないはずがない。


案の定、彼はずけずけと踏み込んで欲しくない領域に入ってくる。


「先輩、どうしたんですかその顔」


「あー………。あれだ、俺不良だから」


俺は学校に友達がいない。当然話しかけてくるやつもいないから、この怪我のことをだれかに質問されるなんて考えてもいなかった。

慌てて適当に取り繕った嘘はぼろぼろでバレるに決まっている。


「不良なんですか」


どうやらこいつは馬鹿らしい。なんと大丈夫みたいだ。大真面目に聴き返してくれる彼を見て内心ほっと安心する。彼の表情はいつも通りのクールな無表情に戻っていて、こんな俺のことをどう思っているのか分からない。もしかしたらそんな奴とは関わりたくないと避けられるようになるかもしれないが、それならそれでいい。塚本くんのことは嫌いじゃないが、特別親しく接したいという気持ちは一切ない。ただここで、放課後一緒に映画を見るだけの関係。一生続く関係だとでもいうなら話は別だが、俺が卒業するまでだからせいぜい2年。


また離れて辛い思いをするのはもう勘弁だ。


「先輩」


帰る支度の済んだ俺はさっさと帰路に就こうかと思っていた。そんな俺の腕をがっしりと掴んでくる塚本くん。思いもかけない行動にギョッとした。条件反射でとっさに手を振り払おうとする。だが案外強い力は俺の腕を捕らえて離そうとしない。


「な、なんだよ」


じっと見てくる視線に狼狽えてしまう。嘘ついたり誤魔化したりしているせいで、その見すかすような純粋な目が俺を動揺させる。彼に対して悪いことをしているわけではないが、こんな至近距離で見つめあって居心地が悪い。特に今、彼の目の前に俺の痛々しい痣が晒されているはずだ。ただでさえ冴えない顔なのに、さらに見にくくなった顔をこんな美形に見つめられるなんて恥ずかしい。


「保健室に行きましょう」


「……いやいいよ」


そんなことかと再度手を振りほどこうとするが、がっちり掴んでいる。やわな抵抗じゃなく、ぶんぶん振っても俺の腕を離してくれない。地味に痛いし、そもそも男に腕を掴んで引きとめられても嬉しくもなんともない。


「おい!」


「保健室」


「いい加減に…」


「保健室」


「………塚本くん」


「保健室に行きましょう」


何が何でも譲る気は無いらしい。頭が固いというか、頑固すぎる。一瞬同好会を追い出すぞとでも脅そうと思ったが、おそらく無理だ。そう言ってもこいつは譲らないだろう。知り合って2日目の人間にここまで我を貫くことができるこいつの神経にびっくりだ。まあ、初日から頑固さは発揮してたけども。1年のくせに全然いうこと聞かないし、どっちが先輩だか分かりゃしない。

だいたい、ほぼ1日経った後でなんかしても意味なんかないんじゃないか。とかなんとか言っても聞いてもらえず、俺は引きずられるように保健室に連れて行かれた。

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