第20話 熱中症① 太陽ぶっ壊したいですね。





「あ~つ~い~で~す~………なんで夏ってこんなに暑いんですかね~」

「年々日本の平均気温の上昇しているみたいだからねぇ………はぁ、あっつい」

「前から夏服に切り替わったけど、これはこれで困りものだよぉ………暮人みたいな男子は気にしないだろうけどさ、女子は日差しが強いと肌とか髪に日焼け止め塗ったり手入れがすっごく大変なんだよ?」



 本格的な夏が始まり季節は夏。七月も後半に入り、テレビで知ったが梅雨明けもすでにされているとの事。雨が降る回数も少なくなってきているし、どうもアイスを食べたり水分をとる機会が増えた。


 高校ではクーラーが各教室に設置されてあるためもうすぐの辛抱だが、こんなクソ暑い環境下でもあくせく働く社会人の皆様には脱帽だ。

 ぜひ各々季節に沿った自由な休息を取って貰いたいものだ。夏真っ盛りのお疲れサマーである。



 現在暮人達はいつも通りの通学路を歩いていた。陽射しがこれでもかと三人の肌をジリジリと焼くが、学校に着くまでひとまず我慢するしかない。途中でコンビニもあるのだが、ただ涼むだけで入店したら店に迷惑がかかるだろうから、このまま教室に行った方が効率的だ。


 かといってもさすがにこの暑さには辟易する。だらだらとまるでゾンビの行進のように歩いていると、ふと家から出る前の行動を思い出す。



「………あ、そういえば家から小さい保冷材何個も持ってきてるんだけど、使う?」

「「使(う)います!」」



 首が捻じれるんじゃないかという勢いで二人揃って暮人の方を向く聖梨華と美雪。暮人はバックからごそごそとタオルに包まれた小さな保冷剤を彼女たちに手渡すと、思わず見惚れそうなほどふにゃりと表情を恍惚に歪めた。



「あぁ~~~っ!! 冷たいですぅ………! まさか保冷材に命を救われる瞬間が来るなんて思いもしなかったですよぉ………!」

「確かにそれには同意するよ………あぁ、キモチイイ」

「なら良かった」



 そう言うと暮人は額に保冷剤をくっつけた。瞬間、激しい冷たさが額に伝わるが次第にじんわりと心地よい冷たさが広がった。

 小梅が中学校に持っていきたいというので前にスーパーに行ってまとめ買いしたが、こうして役に立ったのなら良かった。おそらく事前に小梅はこんなだるほどの夏がやってくると見越していたのだろう。さすがマイエンジェルシスター、名案に感謝。



「それにしても、去年も思いましたがなんで地球はこんなに暑いですかね………。私の世界でもこんな暑い時ないですよ?………太陽ぶっ壊したいですね」

「さっすが神様、考えるスケールが大きいねぇー」



 さすが聖梨華という皮を被った神様。原因の対処をするんじゃなくて、暑さの原因そのものを排除するという考えは普通の人間では思い浮かばない。発想の規模が違う。


 まぁ聖梨華も冗談だったようで顔を上げながら歩くが、何かを閃いたのかスマホを取り出した。そしてしなやかな指で操作すると、耳元に当てた。

 ………あ、さりげなく首に当ててた保冷材を胸元の中に入れないで。多分丁度収まる・・・んだろうけど隣でニコニコしながら極寒のオーラ出している子がいるから。俺、どうなっても知らないよ?



「もしもし天照ちゃん? はい私です聖梨華です。あの一つだけ頼みがあるんですけど………今のこの暑さ何とかなりませんかね? いやもう少し外出て歩いただけで汗がじっとりというか………いやいや! 別に地球の自転を止めたり地軸を真っ直ぐにするという訳ではなくて!………え、出来る? 天照ちゃんそんな力持ってましたっけ?」



 例の神友である天照ちゃんに電話した聖梨華。暑さがどうにかならないかと聞いていただけなのになんだかいきなり地球上にとって壮大な話になっていたが、こういう話は無視するに限る。


 聖梨華は天照ちゃんとの通話を終えると、暮人と美雪に向き合った。


「ふぃ、なんか出来ない事も無いみたいなんですけど、どうやら神会議を開かないと無理とのことでした。さすがに自分の一存では即決出来ない超重要案件だったみたいで」

「「でしょうね」」



 うん、知ってた。流石に自転を止めたり地軸を真っ直ぐにするとか季節を失くしかねない。神様だから人知を超えた力を持っていても不思議ではないが、神様と比べて人間(自分たち)は矮小な存在。なのでそういう神様事情は本当に心臓に悪いので止めて欲しい。ほら、美雪も少し震えてるよ。



「はぁーあっついぃ………でもそろそろ夏休みですね! どこかお二人とも出掛ける予定はあるんですか?」

「俺は特に予定はないけど、小梅次第かな」

「私も部活の遠征や練習以外は何もないかな」



 そう答えるが、その言葉を聞いた聖梨華はハァ、と深い溜息を吐いた後やれやれと手を振る。そのジェスチャーと暑さも相まって若干ムッとするが、どうやら美雪も同様。



「まったく、揃いも揃って枯れてますねぇ。せっかく今だけしか出来ない青い春がカピカピに干乾びてます。だからこそ、私に提案があるんですが! ですが!!」

「………正直なんとなく予想はつくけど、一応聞くね。なに?」

「それは―――今度の夏休み、プールに行きましょう!!」



 ふふん、とドヤりながら、そう彼女は言い放った。


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