春はバブみ

1.親戚の子は数年会わないとほぼ別人

 テレビ画面にはゲームのオープニングムービーが流れる。巨大な宇宙船が船内トラブルにより謎の惑星に墜落していく。

 このゲームをプレイするのは何回目か。いつもはムービーなんてスキップしてしまうところだが、今日は何となくそんな気分になり、スキップせずにムービーを見ていた。



 ピンポーン



「客か……」

 ゲーム操作中なら、「面倒だ」という理由で居留守してしまうが、今はムービー中。そこまでして見たいわけでもないし、

「出るか……」




「久しぶり、お兄ちゃん」

「え?」

 扉の外には、黒髪ショートの少女が立っていた。髪は耳が隠れる程度の長さで、前髪はピンで止めている。顔立ちは"美しい"というよりは"可愛らしい"と表現するのが適切か、愛嬌を感じさせる。薄いベージュのスクールセーターにタータンチェックのプリーツスカート、紺のソックスと革靴という、明らかに"制服"な服装だ。全体にスリム体形で、膨らみはあるが胸も慎ましやかで"発展途上"を思わせる。


「ひどぉい、もしかして忘れたの? 従妹の五十嵐いがらし 萌絵もえだよ」

「え、萌絵? ごめん、久しぶりすぎてわからなかった」

「5年ぶりだしね。どう? 私もだいぶ女らしくなったでしょ?」

 萌絵はそう言って、わざとらしく"しな"を作って見せる。


「うむ、ではいろいろと調べてやろう」

 俺は両手をワキワキと動かしつつ、萌絵に向かって伸ばす。

「きゃー、ちょっと、目が怖い! あー、そうそう、これお土産ね」

 萌絵は俺を適当にあしらい、手提げの紙袋を手渡してきた。俺はワキワキしていた手で受け取る。むぅ、男のあしらいはかなり上達したのかもしれない。


 紙袋の中には密閉式の瓶、その中には茶色の粒がたくさん詰まっていた。

「これは、梅干し! もしかして手作り!?」

「そう、お母さんが漬けたんだよ」

 俺はその場で早速蓋を開け、梅干しを1粒口に運ぶ。

「うぬぅぅぅぅ」

 ものすごく酸っぱい! そして塩味が強い!

「うん、美味い。これは良い飯の友になりそうだ。ありがとう」

「ふふ、どういたしまして」


「で、お兄ちゃん?」

「んぐ、は、はい?」

 急に萌絵が表情を変え、俺はうっかり梅干しを飲み込みそうになった。もう少しで種ごとイクところだった。


「ちゃんとご飯食べてる? まさかスパゲッティばっかり食べてないでしょうね?」

「うぐ……」

 二日に一回ペペロンチーノ食べてることがバレてる!?

「おばさん心配してたよ? ペペロンチーノばっかり食べてるって」

「ぇ、ぁ、ぉぅ」

「麺類が楽で美味しいのはわかるけど、そればっかりだと栄養が偏るよ?」

「う、うん……」

 萌絵は「ふぅ」と一息、そして

「まぁ、そんなことだと思って……」

 床に置いてあったビニール袋を持ち上げ、部屋の中へと上がり込んでくる。

「おっじゃましまーす」

「お、おい」


「今日の夕ご飯は~、私が作ってあげまーす!」

 これまた準備してあったらしいエプロンをいそいそと身に着け、ビニール袋からジャガイモやらニンジンやら、材料をキッチンに広げ始める。

 制服の上からエプロンという組み合わせの妙。そんな美少女が俺のために夕食を作ってくれる。なんて素晴らしいシチュエーション。


「あ、あんまりジロジロ見ないでよ、緊張しちゃう」

「あ、ごめん!」




 いつも食卓に使うちゃぶ台には、カレーライスだ。

「ごめんね、単品だけど」

「いやいや、ありがたい。早速いただきます!」

「はい、召し上がれ」

 俺は手を合わせ、"いただきます"の後、カレーライスを口に運ぶ……、これは!


「懐かしい味だ」

「おばさんから、作り方聞いてきたんだ。どう? おいしい?」

「うん、すごくおいしい……」

 懐かしさからか、俺は柄にもなく目頭が熱くなった。

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