秋は微ヤンキー
1.強襲隠れオタ
『"方舟"ではその怪我も治療できます──』
『"方舟"はあそこです』
荒野の真っただ中に……、何かがあった?
「うぁ!?」
ガンッという音をたて、俺の頭部はちゃぶ台へ衝突した。
「痛てぇ……」
テレビ画面には、操作途中だったキャラクタークリエイト画面が映っている。どうやら寝落ちしていたらしい。だから変な夢を見たのか……、夢を? えっと、なんだったか? しばし考え込むも、それよりも少々暑いことが気になった。
「うぅ、まだ結構暑いな。やっぱりクーラーにしよう。」
暑さのピークは過ぎ、窓を開け外気の風で過ごせないかと試みてみたが、まだまだクーラーの方が快適だ。
クーラーを起動し早速涼しげな風が出るのを感じながら、改めてコントローラを握る。画面には設定途中のキャラクター立像が表示されている。
「腰まであるロングって、動きに躍動感がでるよな」
ピンポーン
「ちょっと身長高めにしてみるか」
ピンポーン
「やべぇ、これどこのモデルだよ、っていう体形になった……、ま、いっか」
さらにアクセサリの項目へと進む。
「ここは、メガネでいくか。フレームの色は……」
フレーム色を変更し、自分好みの色を探す。
「"メガネ取ったら美人!"って漫画なんかでたまにあるけど、素顔が美人ならメガネかけても美人だよね、普通は。」
アクセサリ設定完了し……
「次は……」
「……。」
「いや、二回で諦めんなよ! もうちょい粘れ……」
「へぁっ!?」
扉から飛び出し叫ぶ俺の声に、自分の部屋に戻ろうとしていた女性が奇妙な声を挙げた。俺はというと、彼女の容姿を見て、ツッコミの勢いが急速に萎んでいった。
身長はちょっぴり低めで、ちょうど俺の鼻が額に付くくらいか。少々つり目で三白眼気味ではあるが、全体としては整った顔立ちをしており、美女といて差し支えないと思う。引っ越してきたばかりだからか、上下緑のジャージで、前ファスナーを開いたままのジャージ上着からはTシャツが見えていた。そのTシャツから慎ましくも自己主張する部位に自然と視線が寄り、緊張の中にあっても「あ、意外とあるんだ」などと感じてしまうのは、悲しい男のサガだろう。ここまで敢えて言及を避けたが、彼女の容姿において最も特徴的な部分は、背中にややかかるほどの長さの"金髪"だろう。それも、天然ではなく、見るからに脱色しているタイプのアレだ。前髪をヘアクリップで簡単に留めているだけなので、完全にオフモードっぽい。
つまり、彼女の容姿を一言で示すならば、"ヤンキー(死語)"である。
マズった! 俺はどうして居留守を使った! いや、それはいい! なぜ敢えて自分から飛び出してきた! あのまま居留守しとけばよかったじゃないか!!
「あ、やっぱり居たんすね」
なっ! 居留守していたことがバレていた、だと!?
「電気メータが全開で回ってたんで、居るんじゃないかとは思ってたんすけど……」
「ぐっ、」
「そこまで悔しがることっすか!?」
俺の隠密術が通じなかったことに少々のくやしさを覚えつつ、ここまでの会話のやり取りで、そんなに警戒しなくても大丈夫なのでは? という思いが湧き出してくる。
「あーっと、隣に越してきた
「あ、ども、
三好さんのなんとも言い難い敬語に少々怯みつつ、彼女が差し出してきた手提げ袋を受け取る。割と軽い。大きさはA4用紙くらいの箱か?
「あ、それ挨拶の品で、タオルっす」
彼女の言葉が事実なら、実に普通。いたって普通。極々普通の挨拶品だ。なんの問題もない。なんだろう、見た目の印象と話し方だけ気にしなければ、とても常識的なんじゃないか? もしかしてこれはボケ待ちなのか!?(少々錯乱)
「ありがとう、お茶請けにいただくよ」
「え!? 食べるんすかっ!?」
実に常識的なツッコミ──もとい、反応が返ってきた。ああ、彼女はとても常識人だ。
「あれ……、もしかして、プレイボックス4っすか?」
三好さんは、俺の部屋にあるちゃぶ台の上、そこに置かれた現行最新ゲーム機を指さしつつ、聞いてきた。
「ああ、うん。他にもスナッチとかもあるけど……」
「マジすか! どんなゲームやってるんすか!?」
なんだろう、すごい食いつきだ。
「ブラソとか(ブラックソウル 高難易度系アクションRPG)」
「とびファイとか(ぶっとびファイターズ ぶっ飛ばし系お祭り対戦ゲーム)」
「マジすか!! 今度遊びに行っていいっすか!?」
「あ、うん、いいけど」
興奮のせいか、語彙力がヤバイことになっている彼女の勢いに、俺は頷くことしかできなかった。
彼女は、ヤンキー風の隠れゲーオタだった。
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