3.風呂は命の洗濯だ

「まさか、また空腹か?」

 あれから数日。再び廊下に横たわる二村と遭遇した。


「ふひぃ、ち、違うのです。この廊下は影なので、地面が涼しいのです。」

「ひどい暑さ対策だな!!」

 二村は「怒鳴られると暑さが増す気がする」と愚痴を漏らす。廊下から起き上がる気はないらしい。


「というか、毎回見るたびに同じ服装だが、ちゃんと洗濯してるのか?」

「……。着替えがありません」

「やっぱり着替えてないのかよっ!」

「あと、水道は出ません」

「風呂も入ってないってことかよ!! っていうか、飲み水はどうしてるんだよ!!」

「穴を掘って、ビニール袋を──」

「サバイバルかよ!!」




「なし崩し的に風呂を貸すことになり、そして今は洗濯もしてやる……と」

 俺もお人よしだなぁ。そして目の前には、二村が脱いだパーカーにホットパンツ、そしてTシャツと……

「SHITAGI!!」

 ……。いや、このショーツ何日も穿いたやつだよな……。人によっては"ご褒美"とか言う人もいそうだが……。


 しばし逡巡……。

「だめだ、俺には少々ハードルが高いっ!」

 あまり見ないように、次々と衣服を洗濯機に放り込む……。

「あれ?」

 そう、重要なアレが無い。脱衣所にあった衣服はこれで全てだ。間違いなく何も残っていなかった。奴が男の俺に下着を洗濯されることを拒むような性格ならば、ここにショーツが残されているわけがない……。その事実が導く結果。


「あいつ、ノーブラなのか!?」

 気が付かなかった。いつも少し大きめのパーカーを着ているため、上半身の状態が分かりづらかった。それにこのTシャツもぴちっとしてて体格が出るタイプの奴だ……。

「く、アイツにここまで悩まされるなんてっ!!」

 なんかくやしいっ!!





「体を洗ったのは、先日の雨の日以来です。」

「え、外で脱いだの!? まさかそうなの!?」

 二村には着替えが無い。そのため、俺のTシャツとハーフパンツを着て、バスタオルを頭にかぶった状態で風呂場から現れた。


「とりあえず洗濯して干したけど、乾くまではしばらくかかるだろう。明日までそれ貸してといてやるから」

「おお、ありがたい。この代金は私の下着の匂いを嗅いだことでチャラということで」

「してねぇよ! ちょっと考えはしたけど、断じてしてねぇ!」

 二村はそのままベッドに腰掛け、しばし辺りを見回して何かを探す素振りをした後に口を開いた。

「風呂上りには冷たいモノが飲みたくなりますね」

「風呂上りの飲み物探してたのかよ! そしてストレートに要求してくるのな!」


「お茶しかないぞ!!」

 

「あ、そんな気を遣わなくてもいいのに」

「要求したよね! 確実にリクエストしてたよね!!」


 二村はお茶を煽り、一気に飲み干した。

「ぷは~」

 なんか、銭湯の風呂上りに飲む牛乳みたいなノリだな。


「あぁ~、ベッドふかふか~」

「おい、こら、まだ髪濡れてるのに寝るな、布団が──っ!!」

 なっ、バカな!! こんなことが!? このサイズは!! 仰向けになったことで初めて明らかとなったこのサイズ! 二村はかなり細い。日々の極貧生活のせいでやせ細っていると言っていい。実際、常にホットパンツで生脚が見えているのに、あまり色気はない。ヒップも同様だし、どうせ上も……と、俺は思っていた。だが、それは完全に先入観だった! 巨大なわけではない。わけではないが、元々かなりスリムな奴の体型に対し、お手頃サイズとはいえ、その生み出される高低差は絶大だ。そう、奴のステータス振り分けは、胸部装甲の攻撃力極振りの超攻撃特化型だったのだ!!


 なんてことだ、この俺が、奴の攻撃で轟沈寸前だと!?


「それで、今日の夕食はなんですか?」

「全く遠慮なくなってない!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る