第35話 かげろう




♡翌年の二回目のボート競技。

他のチームもコースをよく調べあげ、竹生町は黒壁と日牟礼に負けて

3位に終わったの。

でも、本当に接戦で僅差だったのよ。永吉これが最後のレースと

引退を考えていたわ。


 三ヶ月後。急遽きゅうきょボート競技の全国大会が琵琶湖で

おこなわれることになってね

開催地枠として県チームが組まれることになり

全国の強豪に勝つため竹生、黒壁、日牟礼の三町で県代表チームを

組むことになったの

各チームの選手はリーダーは永吉しかいないと一番に名前があがったの。


 永吉はその話を何度もことわったんだけど…

彼ほど湖のことを熟知しながら、統率のとれる人間はいないとみんな知ってて。仕方なくしぶしぶ了解したわ。

ただ、永吉が出場する代わりに、主催者の県に条件を出したのね

それは大会規約として選手全員に救命胴衣着用の義務づけるものだったの。♥





「頼むよ、今津くん、なんとか県のために一肌脱いでくれんかね。」


「会長、このレースは危険すぎます。コースが長い上に比良ひらを横切っていくんですよね、をまともに横から当てられたら沈没遭難しますよ、このレース自体を取りやめるべきです!」


「そうは言ってもなぁ、もう、候補地も二点三転しているんで、今更止められないんだよ。」


「それに、これが成功すれば、湖北の観光にも一役かうかもしれんんし、なんとか頼めんかね。」


「わかりました。では、主催者から参加者全員に救命胴衣の着用をするように言ってもらえませんか?」


「う~ん、それは難しいかもしれんなぁ。

少しでも軽くして優勝を狙っているチームにとっては救命胴衣といえど

死活問題だからなぁ。

でも、県のチームはそうするように働きかけるよ。

それでお願いできんかね。」





♡熱心な県体育委員の言葉を無下むげにすることもできず、

チームメイトの安全を確約させたところで永吉はその話を飲んだの。


湖を縦に展開されるこのレースは横風の対策が難しく、

湖でも難しいコースとされているわ。


 コース設定は浜から観客がレースしている姿が見えるので急遽決まったみたいだけど、永吉は大会の危険を示唆しさしていたの。

8人乗りのボートは、スピードを出すために底がすごく浅くて

とても横風に弱い構造になっていたんだ。♥





「なぁ浜。このレースが終わったらもうレース船は降りようと思ってるんだ。」


「でも、永吉さんの大切な趣味なんでしょ?」


「若いもんがどんどん芽吹いているし、そろそろ引退して指導者にまわろうとおもってな。

それに趣味は続けるよ、時間できたら昔みたいに、四人で奥の入江まで行こう。」


「うん、ほなうち永吉さんの最後のレース、精一杯応援させて。」


「浜がいたら心強いよ。」





♡永吉は地元開催で入賞できるよう、人一倍練習で声を出していたわ。

地元の漁師の力をかりて万全の体制で挑んだの。

やけに涼しかった夏がすぎた日曜日。

レースはできたばかりの大きな橋のたもとからスタートするの。



 秋晴れで澄み切った空、対岸までくっきり見えるロケーションで

最高のレース日和に見えた、



 各県から豪腕の猛者たちがあつまってくる、

色とりどりの船が15艘が横に並び、永吉のボートは真っ白だったの

その横に目の覚める黄色いボートが並んだわ、優勝候補の京都チームだった。



 京都チームは日本海側の入江で練習していた。

水なら慣れた感じで選手全員が筋肉質でその威圧感が半端なかったわ。



 永吉が予想していたいように、救命胴衣をつけていたのは、半数以下で

隣の京都チームも救命胴衣はつけていなかったの。

海で慣らした男たちにとって、視界に浜が見える湖なんて

ため池くらいしかに見えなかったのかもしれないね。



 爽やかな秋の空気が大きな花火のスタート音で空気が揺れる

花火の音を皮切りにレースがスタート永吉にとっての最後のレース

そして……。



 各船が後方に白い軌跡をつけて、先頭を取り合っている

永吉のチームは距離が伸びてしまうものの沖を通らず

浜に近い浅瀬をコース取りして漕いでいる。


 あの時と同じように風が緩く波の穏やかなコースを選択したの

浜辺からは県のチームを応援する声が選手の耳にも入ってくる

その声援に応えて全種一丸必死に漕いでいるわ。


 横の距離はあるものの沖には優勝候補の京都と、永吉たちのボートがほぼ並走して走っていのが見えたの。

圧倒的に早い2艘に優勝の行方が絞られていたんだ。♥





♡そこ頃、竹生のゴールには日吉旅館の従業員

そして千成旅館従業員もつめかけ、ゴールを待っている人に

ちらし寿司を作ってふるまっていたの。


 日吉と千成の両大女将、浜の姉たち。日吉、小海が永吉の帰りをまっている

放送で途中地点で有力視されている京都と永吉たちが競り合っていると流れると、おおきなどよめきが起こる。


 下馬評では下位だった県のチームがなんと優勝候補と張り合っているからよ

もちろん、これは永吉の綿密に考えていた作戦で、地元の漁師から風の向き、

かすかな潮の流れを聞いてコースを考えていた作戦だったのだんだ。♥






「よし、みんな、ここから沖に出て一気に勝負をかけるぞ!」


「永吉たちの船の指揮は高く、それも高順位につけている要因だった、だけど。」





ぴゅー!ぴゅー!。




「!危ない!漕ぎ手、浜の方に頭を回せ、このままでは危険だ!」




♡スタート地点は風ひとつなかったのだけど、

レース中盤の高い山の麓を通った時に甲高い風の音が聞こえて

それは比良おろしという、爆発的に山から風が一気に麓を吹き抜け

湖をかけ渡る暴風の前兆だったの。♥






ごぅ!ごぉう!!!!びゅ!!!ううう。





♡永吉たちの船は突風を船の斜めに浴びてバランスを崩すも

なんとかもちこたえた、しかし並走していた黄色い京都の船が

風にあおられて転覆してしまったの。

並走している、動力船も横風に煽られ、転覆したボートには近づけないでいる。それを見た永吉は全員に指示を出したの。♥




「あいつら救命胴衣つけてない!このままじゃ溺れてしまう、行くぞ!」



♥ボートは90度反転すると、山を背にして転覆した沖に漕ぎ出したの。

強風に背中を押された白いボートは、すごい速度で転覆した船に近づき

湖面を流されている男たちを引き上げ始めるの。


 救命胴衣をしていない男たちは湖の怖さを知らなかったわ

淡水は海水ほど浮力が少ない、まして鎧の筋肉で覆われた体には5分も浮いていられない。


 それに表面と水中温度の差が激しく一度はまってしまうと

水中にひきずり込まれるような感覚になりパニックを起こしてしまう。


 県チームのメンバーは風で流されている選手を飛び込み自分たちのボートに乗せて行ったの。

永吉の言っていた救命胴衣がここで選手の命を救ったのよ。




「今何人だ。7人か!あと一人、ああ、あそこか!、ロープを貸せ!」




♡船尾に括ってあったロープを手にとると、

風に流されて離れていく選手に向かって泳いでいく永吉。

白い船は、定員いっぱいで、さらに県の選手が浮きながらしがみついている。


 バシャバシャと溺れながら流されていく選手に近づくと、永吉の目の前で

その選手はつめたい水にのみこまれてしまったの。


 永吉は男が消えた場所に泳ぎ着くと、自分の救命胴衣にロープを結びつけて、救命胴衣を脱いで、水の中に潜っていったの。

 水に浮かんでいるロープがシュルシュルと水の中に入っていく。

全員どうすることもできずに、ただ、永吉を信じるしかなかったの。♥





「あああ!永吉さんだ!永吉さん!上がってきたぞ!」



「うおおおおおおおおお!」





♡永吉が水面に沈んだ選手をつかみ上げて引っ張りあげたの!

選手もぐったりしていたけど、かろうじて手を振っていたわ。

永吉は自分の救命同意におぼれた選手にくくって助けに来てくれた

近くで漁をしていた漁船に向かって押して行ったの。


 漁船はボートの選手の乗せて、

水に浮かんでいる選手も引き上げられてみんな安心して永吉の方をみると。♥




「あれっ、永吉さんは? 永吉さん!おい!永吉さんがいないぞ!」




◯漁船が到着してみんなが救助されていあいだに

浮かんでいる選手をつかんでいられなくなった永吉。

体力はもうとっくに限界をすぎていたの。●

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