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 二週間ぶりのプールは、飯塚の尻に漏斗が刺さっている以外は全く持って変わりはなかった。


「どうだ休めたか?」というコーチに飯塚は何食わぬ笑顔を返したが、頭の中は尻から抜け続ける無臭の空気と、プールの中で披露してしまうかもしれない大腸の中身のことでいっぱいだった。



 だがその心配は杞憂に終わり、予想もしなかった嬉しい誤算が飯塚を襲い始める。




 あれほど伸び悩んでいたタイムが上がってしまった。




 尻から吹き出す空気がジェットの役割を果たすのか、今年の公式戦でのベストタイムは50.27秒だったのに対し、今日の練習では50秒を切り、49秒台の後半がバンバン出る。



 いつまでも水中にいると「ブクブク」と空気がバイブラのように出てしまうため、泳ぎ終わった後すぐにプールから出ないといけないのは手間だったが、次々に出る好タイムのおかげで全く苦にはならなかった。


 泳ぐ時も、尻からの空気を誤魔化す様にバタ足に意識がいってしまうため、散々研究したフォームは崩れてしまっていた。



 だが、それでも上がり続けるタイムに飯塚は歓喜した。




 翌日以降も、タイムは依然右肩上がりで伸び続けた。




 49秒台後半だったのが49秒台前半、そして49秒を切り始めた頃に、飯塚はさらなる実験を開始する。



 まずは、漏斗のサイズアップ。


 漏斗の穴の径が大きくなればなる程、ジェット効果は高まるのではないかと考えたのだ。


 いきなりのプールでの使用は不安なので、まずは自宅の浴槽で試してみたが水が体内に逆流することもなく空気が放出され、サイズが大きくなったことで勢いも増した。



 そして次は、腹に力を入れて意識的に空気を出す練習だ。


 引き続き同じように浴槽で試してみたが、こちらは残念なことに失敗した。


 いざ力んでみると、大きくなった漏斗の穴からプクンとウンチが二、三個飛び出し浴槽に浮かび上がってしまったので、風呂桶で丁寧にすくい上げトイレに失敗の記憶ごと流した。


 水っぽくなかったのが幸いだ。



「腸内を一度洗浄してしまえばいいのではないか」



 そう思いスマホで「腸内 洗浄」と検索をかけてみたが、「断食で腸内環境改善!」だの「腸は第二の脳みそ」だの「幸せホルモンをだそう!」だの参考になりそうな情報が見当たらない。


 仕方が無いので、古典的ではあるが薬局で下剤と浣腸を購入し、腸内のモノを出し切るだけ出し切る。


 便意が収まるまで多少の時間はかかるが、出し切って仕舞えば腹に力を入れて空気を押し出してもウンチは出ず(無いのだから当たり前か)、尻から飛び出す空気の勢いはより一層加速した。




 以上の実験結果はプールでの実用にも十分に通用し、日本選手権に出場の申請を済ませる頃には、飯塚のタイムは自己ベストの48.57秒まで残り0.1秒と迫っていた。




「いける。今度こそオリンピックも夢じゃ無い」




 同窓会の返事を返すことは、もはやすっかり忘れていた。

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