参
【参】
死神は、死神の街を私を連れて歩き回りました。
街の人々を見て気が付いたのは、死神の娘の格好は、おそらく奇抜なものなのだろうということでした。
英語の看板の店で、店員の娘にじろじろ見られながら、透明な入れ物に入った飲み物を買ってから、小部屋のある店に連れてこられました。
料金は前払い。鍵のつかない硝子張りの扉の小部屋がずらりと並び、中には壁を囲むようにして布張りの椅子が並んでいます。大きな音で喋る、私が知るそれよりずっと大きなテレビを消し、死神は座るように言いました。
「心中っていうんだっけ。あんたがしたような、ああいうの」
ぶっきらぼうな口調で、死神は尋ねました。ためらいながら頷いた私を軽く小突く調子は、やけに気安いもので、居心地の悪さと、かすかな高揚を感じておりました。
「死神は心中を知らぬのですか」
尋ねますと、死神は顎を掻き、「だれそれが心中したってとかは聞いたことないな。するなら恋愛じゃなくてお金じゃない? そんなんするくらいなら別れるし。いろいろ自由な時代だからね」とつまらなそうに申しました。
「自由っていうか、無責任なのよ」自分で言ったことに納得がいかない様子で、娘は顔をしかめます。
「家とか、地位とか、家族とか。しがらみを捨てても別に生きていけるはずだからね。生きるのに責任がいらないからさア、あえて誰かの死を背負っていっしょに死ぬって発想になりにくいんだと思うね」
十五、六に見える死神は、流暢に大人びたことを口にします。
「貴女にとって、家や地位や家族は、しがらみなのですか」
娘は目を丸くしました。
「そう聞こえたんだ? おもしろいね」
「そう聞こえました。ここの人は、家や地位や家族をしがらみと捉えるのですね」
「そういう人もいるってだけ。多数派じゃない」
「貴女は? 」
「マッ、場合によりけりね。ねえ、せっかくだから、なんか歌ってよ」
私は、そう言ったときに覗いた彼女の八重歯が可愛らしいと思ったのです。
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