感想が書かれました

脳幹 まこと

こんな作品書いたんだっけなあ……


 ふと、以前使っていた小説投稿サイトを覗いてみようと思った。

 数年前に去ってからは見ることもなかったので、トップページの変わりぶりには少し面食らった。

 メモ帳に控えていたIDとパスワードを入力し、自分の会員ページに入る。ああ、ここでは「タバタソウリュウ」という名前で書いていたんだっけ。

 しみじみと感慨にふけっていたが、ある表示を見て顔がこわばった。


「感想が書かれました」


 正直、複雑な気持ちだ。「頑張ってください」なんて書かれていたらどうしたものか。もうここでは書かないと決めている。いっそのこと「才能ないよ」くらいの罵声であれば都合が良いのだが。

 期待半分、不安半分でその表示をクリックする。


「アニメ化希望!!」

「現代小説界の超新星、現る」

「世界に誇れるレベルじゃないか?」


 眼前に入ったのは絶賛コメントの嵐であった。今のサイトですらこの状態には程遠い。全身が悦びのあまり脱力するのを身に感じる。

 感想だけではなく、ポイントもお気に入り数も桁の見間違いか思う位に入っている。同じ位のポイント数で書籍化された作品が脳裏に幾つもよぎる。

 あの当時にこの評価だったら、間違いなく移ることはなかっただろうな――


 今書いている長編小説の存在が途端に小さく、馬鹿らしく見えてきた。これを機に乗り換えてしまうのもいいかもしれない。

 そうだ。どうせ幾人しか見ていないだろう作品よりも、数万人が待ち望む作品に的を絞った方がいいに決まっている。

 その小説は執筆中小説のようだ。いつ書いたのかもしれないが、どれだけ待たせてしまったことか。さて、どのタイトルが大化けしたのか。


「アザントゥースの宣告」


 私はそのタイトルを数分間眺めた。しかし、何故か全く浮かんでこない。あらすじを見ても、中身を読んでみても、かすりともしない。

 確かに当時は多くの作品を書いてきた。というより、それで評価されなかったから今の場所に移ってきたのだ。だから、一つや二つは細部が思い出せない作品があってもおかしくはない。

 けれども、それにしたっておかしい。こんなにぽっかりと忘れ去るなんてことがあるだろうか。他の作品はタイトルだけで思い出せているのに。

 何がどうなっている。

 評価されているのはこの作品だけで、他の作品は出て行った当時のままだ。

 それにこれだけが連載小説だ。他は一話で完結している。


 何よりも文体が全然違う。

 まるで――自分以外が書いているかのように。


「感想が書かれました」


 新しい感想。

 私は反射的に左クリックをしてしまった。


今回・・も素晴らしいクオリティでした!! 映画、楽しみにしています!!」

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