第5話 いよいよオープンです/ギルドマスターの苦悩

時計の針が18時を指す・・・


扉の札を営業中に変える・・・


オープン待ちをしてるお客様・・・0人


まぁ、来るとしたら夕飯が終わってからか?


勇者一行の晩飯は総菜コーナーの唐揚げ弁当(用意済み)


ジュークボックス代わりのHDDコンポにジャズのCD大量に入れてある。


オールリピートでかけ流しでOK


グラスを磨きながら時間を潰す・・・


「グラスの曇りは心の曇り、お前さんにグラス拭きができるかな?」


なんてバイト時代のマスターに言われたのを思い出す。




いい感じに流れる曲が心地いい・・・




曲名も演奏者も知らないけど、どんな曲でもジャズは好きだ・・・


耳障りにならないし・・・



そんな中カランカラーンというベルの音とともに入ってくる男性



冒険者ギルドのギルドマスターである



「いらっしゃいませ、お好きな席にどうぞ」



カウンター席、俺の真正面に座る



「重い扉と音楽に驚かされたが、いい店じゃないか」



物珍しげに店内を見渡す


「ありがとうございます、メニューはこちらにあります、他、ご希望がありますか?」


メニューを一瞥し


「強めのでハルが勧めてくれるのでいい、つまみも任せる」


「かしこまりましたすぐ用意いたします」



ウィスキーにして ナッツとチョコでいいかな・・・


とりあえずロックで出してみる


個人的には常温の水でハーフ&ハーフが一番好きなんだが・・・


まぁ初めてのウィスキーならこの飲み方がスタンダードかなって


「まずはこちらをお試しください、おつまみはこちらをどうぞ」


ザ マッカラン 12年 年数を増すごとに深みが出るが お手頃価格でスタンダードに美味い酒だ


「おっ、これは効くな、だがいい味だ!うん美味いぞ!」


「シングルモルトウィスキーの中ではこの銘柄が一番好きですね」


・・・俺よ待て、この世界でシングルモルトなんて言っても通じるわけないだろ・・・


「シングルモルトってのがよくわからんが、いろんな種類のウィスキー?があるんだな」


「そうですね、色々と飲み比べて一番好きな銘柄を見つけるっていう楽しみ方もあります」


「ふむふむ、つまりこの店に通えって事だなっ」


ニコッと微笑むだけで言及しない、それを口に出したら野暮ってもんだ


「まぁ、この落ち着いた雰囲気は悪くない」


「ギルドの酒場の良さもあるんですけど、同じじゃつまらないでしょ」


「それもそうだな」


グラスには氷しか残ってない事に気づく


「次はこれと違う趣のウィスキーがいいぞ」


「かしこまりました」


っとすればバーボンだな~最初のお客様だしサービスするか・・・


っと心の中で呟き棚から一本取りだす・・・


ウッドフォードリザーブ ダブルオーク


果物っぽいの香りとまろやかな口当たりで極めて深みのある味のお気に入りバーボンだ


これもロックで出す


「バーボンウィスキーといいます、お気に入りの銘柄ですよ」


「ほうほう」


チビリと飲む・・・


「これもいい!実にいい!!」


「お気に召したようで何よりです。」


「そうだな・・・美味い・・・」


しばらくジャズだけが流れるなかゆっくりと飲んでいく


そしておもむろに語り始めた・・・








「最近、高ランクの依頼を受けられるものが減ってな、


お国の方からも依頼達成が滞ってる現状を叩かれてるし・・・


お前さんに戻ってきてもらおうと頼みに来たつもりだったんだよ




ギルドの方も勇者頼りになってきて後進もなかなか育たない・・・


その辺りはハルも気付いてたかと思うが・・・



育成の方は俺の怠慢だからこれから何とかするとしてなぁ・・・


訓練所の方にできるだけ行くようにしたり


高ランクのメンバーによる講習会とかどんどんやっていければ・・・底上げにはなるだろう・・・


ただ、この店と酒を扱ってるハルを見ちゃうとやっぱり戻ってきてくれって言えないわな・・・




だからってわけじゃないが、新人の連中にもここに来るように言うから、


一人の先輩冒険者としてアドバイスしてやって欲しいんだわ・・・」


俺は黙って話を聞いていた。


「そうですね、アドバイスくらいなら・・・かく言う俺も、勇者に引っ張り上げてもらっただけなんで冒険者としては3流ですよ」


「いやいや、十分だって、っと、もう一杯3種類目のウィスキー貰おうか」


「かしこまりました、それでは次はスコッチウィスキーをお出ししますね」


スコッチを飲むなら一度は選んでほしい銘柄


それがバランタイン・・・ブレンデットウィスキーの傑作の一つ


お手頃価格からかなりお値段が張る物まで結構幅広いラインナップだが


今回選ぶのは21年。熟成年月が味と香りをより深くそして滑らかになった一品


30年物はそれ以上だが、この店でホイホイ出せる金額ではない


基本的にシングルを銅貨2枚 日本円で2000円に設定してるもんで・・・ もちろん例外有り


21年だって高めの酒だと思う


「お待たせしました、バランタイン21年ものです」


「むほっ、こりゃまた同じウィスキーでも全然違うな・・・でもこれはこれで美味い」


「スッキリ芯の通った王道のシングルモルト、そこから色々とブレンドして味と香りを作るブレンデットウィスキー、バーボンはそもそもの材料が違います」


「それぞれ個性がありますがどれが一番ってあんまり決められないですよね」


「うんうん、飲み比べた3種の中では2番目のが好みかなぁと」


「バーボンも色々種類がありますから楽しいですよ」


「ふむふむ、次に来るのを楽しみにしておこうかな」


クイッとグラスの残りを空け金貨を1枚出す


「開店祝いだ釣りはいらんよ、若いのが来たら相談に乗ってやってくれ」

「ありがとうございます、またのご来店を」

「おう!ハルよ、ごちそうさん」


そう言い残すとギルドマスターは店から出て行った・・・


「人に頼る前にやる事やらんとな・・・」


冒険者ギルドの改革がこの後すぐ本格的に動き始めた・・・

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