第30話

 Honestly I wanna see you be brave

 どうして最近このフレーズが頭から離れないのだろうか。

 

 インハイの道は遠く……

 春の埼玉大会優勝した籠原南高校はまさかの結果となる。


 初戦の相手は、行田長野高校。

 第二ダブルス、第一シングルスを落としまさかの大苦戦。なんとか3-2で突破。

 しかし籠原南高校のメンバーはみな浮かない顔をしていた。

 埼玉東高校でもなく、蒼大本庄でもなく、そして埼玉けやき高校でもなくこの行田長野高校に苦戦するとは。


 二回戦は春日部緑高校。

 ここもまさかの大苦戦。同じような形で3-2で勝利。


 そして運命の試合。

 相手は鴨田国際学園高校。


 元々女子高校で近年共学化になったばかりの高校であり、硬式テニス部では過去数回全国制覇を遂げている。

 高校野球でも埼玉県大会の決勝まで進出するなどの近年スポーツに力をいれているようなそんな学校である。


 そんな高校、一筋縄ではいかない。


 最初の大原さん、瀬浪さんのペアで大苦戦をした。まさかの21-17 21-19 で試合を落とす。


 ここで一気に流れが悪くなる。

 続く第二ダブルスも21-18 21-16で落とし、後がなくなった籠原南。


 すべては原島さんに託された。


 その原島さん。

 気勢がこもっていた。溢れる闘志。般若みたいな怖い顔。

 最初は完全に原島さんの流れであった。

 緩いスマッシュのようなショット……カットで相手を揺さぶり、ヘアピンで前に決めてそして相手がミスをしたところに打ち込む。

 原島さんにしては小細工が多いような戦い方ではあったが、それでも強い。


 1ゲーム目は21-19で何とか点をとる。

 ここまでは順調。

 しかし問題は2ゲーム目から。


 突如、原島さんは崩れる。

 理由など分からない。しかし原島さんのカットもドロップも、ヘアピンもすべてが逆手に取られていた。

 そして最後の方は、低い弾道を無理にスマッシュを打ってそれをネットに引っ掻けたりというミスが多く目立つようになっている。


 かなり焦っている。


 それは誰でもわかった。


 そして21-17で2ゲーム目を落とすと続く試合も21-15で完敗。


 籠原南の夏は県大会三回戦で終わった。


 奇しくも、反対側のコートで埼玉けやき高校が埼玉東高校を3-0で破り三回戦を決めていた。


「いやー、さすが埼玉東高校。負けると思いました。尊敬&尊敬です」


 などと埼玉けやきの宮本さんは相手を煽っているようにも聞こえる口調で言う。


 この試合にたいして戦犯は誰か。などと言うことを言う人は籠原南にはいない。

 当然ながら原島さんを攻める人などはいない。

 それもそうか。


 何だかんだいって、籠原南高校には原島さんの替えなどいない。彼女以上にシングルスで戦える先輩などいない。

 部内の試合でも、いつも原島さんが上位にたっていた。


 だから当然、大原さんも瀬南さんも原島さんを攻めるということはしなかった。


「ま、私たちはまだ個人戦あるからね。泣いている暇なんてないよ」


 とゲラゲラ笑いながら瀬南さんは言う。

 そうだ。団体戦が終わったら今度は個人戦が始まる。

 個人戦は各校3人まで代表でエントリーできる。(これは年度によって変わることもあるが)


 瀬南さんと大原さんは今回はダブルスとして参加。そのため、シングルスの枠が余っている。

 そこに私と原島さんも参加をする。


 つまりはまだ終わっていない。

 さらに今年の日程は少々特殊で個人戦から一週間の猶予がある。


 まだ全国大会出場の夢が消えたというわけではなかった。

 むしろ、団体戦補欠の私は個人戦から本番である。


 だからこの団体戦の敗北は、私や大原さん、瀬南さんからしてみればそこまで落ち込むようなものではなかった。

 それに対して、原島さん。


 彼女は休憩室でただ1人胡座をかいて座っていた。

 この体育館の休憩室はエアコンなどついていない。だからほぼサウナと変わらない温度であるはずである。

 それなのに彼女はそこのボーッとしている。


 そして私は目があった。


「な、惨めだろ」


「そんなことないよ」


 驚いたことに原島さんは泣きそうになっている。


「まさか鴨田に負けるとは」


「でも相手の選手、元々兵庫の宝来中学出身で全国大会出場経験あるような人だし、厳しい試合を言えば」


「そうじゃない。勝たないと意味がないんだよ。相手が全国大会出場経験者とかそんなことは関係ない。私は勝つためにバドミントンをしているのに」


 私はどのように原島さんを励ませばいいのだろうか。負けてどんまいと言えばいいのか。大丈夫、来年は全国大会行けるよと根拠のないことを言えばいいのか。


 あー、自分は無力だな。

 相手を励ませるような名言を作ることができないや。


「体調は驚くほどに絶好調。それなのにどうして勝てない」


 彼女の体は震えている。

 私は何を言えばいいのか。


「イケブクロって知っている?」


 ようやく言えたのはそれだった。

 夏の個人戦。本当の最後の戦いに向けて私たちはどうにかして今の状況から抜け出さないといけない。


 個人戦の抽選の結果、私と原島さんは準決勝で。埼玉けやきの宮本さんは決勝でぶつかることになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る