焚き火

 葉っぱを燃やしてもいい場所は案外簡単に見つかった。バーベキューをしてもよい河原やキャンプ場は都内にも何か所かあって、その中には焚き火をしてもいい(たぶん)ところもある。ただし、直置きで燃やさないことが絶対条件だ。垣根の垣根の曲がり角はちょっと無理だと思う。

 かずこさんは少しゴネたが、出来ないものは出来ないのでぷりぷり言いながらも一応納得した。次の休みに芋掘りに行き、翌日河原で焼きいも大会と決定する。

 さつまいもなんてスーパーで買った方が安くて旨いような気がするが、「おいも掘り」に食いついたのはおっさんだからしょうがない。


「おいも掘りー♪」


 ウキウキと。おっさんは謎の芋掘りダンスに興じている。節も動きも非常に残念だが楽しそうなので放っておこう。

 それにしても。ちょっと出来の好いさつまいもだと、おっさんよりデカイんじゃないだろうか。おっさんの力で引き抜けるとは到底思えないな。


「おっいっもっ。おっいっもっ♪」


 ゴキゲンでキッカイな踊りは続く。

 まあ。いいか。


   🍠


 土曜日の早朝。俺と融は融のアパート近くの寺に集合していた。

『焚き火だ焚き火だ落ち葉焚き♪』

 それは譲れないとかずこさんがゴネるので落ち葉を調達に来たのだ。面識も無い俺たちの急なお願いを人の好さそうなご住職は快く聞いてくれた。朝掃除をするときに来てくれれば集めた落ち葉は持ち帰っていいと言う。


 という訳で。欠伸を噛み殺しつつ境内の落ち葉を集めている。砂利の敷かれた境内を竹箒で丁寧に掃いてゆく。掃除なんて面倒臭いと思っていたけど案外気持ちの好いものだな。

 朝の空気は冷たいけど清々しくて、清められてゆく砂利の上にしっとりと落ちる。集めた落ち葉の山を眺めれば、おっさんとぴーちゃんが飛び跳ねて遊んでいた。うおい!

 慌てて辺りを見回す。幸いお寺の皆さまは別のところを掃除していて、この区画には真面目に掃除する俺と嬉しそうにスマートフォンを構える馬鹿しか居ないようだ。俺は融の頭をはたいてスマホを取り上げ、代わりに足元に転がっていた竹箒を握らせた。


 ごみ袋三つ分の落ち葉を頂き、お疲れ様と労ってくれたご住職はごま塩おにぎりと温かい味噌汁を振る舞ってくれた。気持ちの好い体験をさせてもらった上に朝飯までご馳走になって、何だか申し訳ないくらいだ。

 ちょっと離れた融の駐車場まで歩いてゆき、車のトランクにごみ袋を詰める。慣れない早起きと程好い満腹感のお陰で欠伸が止まらない。

 美鈴ちゃんとの待ち合わせ時間まで、融んちで一眠りすることにした。

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