ACT3

 マスターが110番したせいか、警察おまわりが押しかけてきて、優雅で静かだった店内は、途端に無神経な連中で騒然となった。 


 男はどうやら東都銀行の窓口が閉まる瞬間を狙って押し込み、金を奪う計画だったようだ。


(当然ながら、銀行の中にも仲間がいたようだが、無線機から聞こえたこっちの騒ぎに気を取られ、あたふたしているうちに警官隊がなだれ込んできて御用となったらしい)


 女に脇腹を撃たれたサングラス男は、担架に縛り付けられてうなってはいたものの、命に別状はなく、俺に警棒で肩を殴られた短髪の方は鎖骨を破壊されただけで、せいぜい2~3か月の怪我で済んだようだ。


 警官達は、彼女と俺の認可証とバッジを確認すると、相変わらずいつものように苦虫をつぶしたような表情をしてみせた。


『お前ら探偵は民間人なんだぞ』とか、


『とにかく後でちゃんと報告書を書いて提出しろ』だの、月並みな毒を吐き散らしていた。


 警官おまわりの調べが一通り終わると、店の中はやっと静かになった。


 俺達はまたさっきと同じ席に座り直し、コーヒーをオーダーし直す。


 再び、俺はシガーケースからシナモンスティックを取り出して咥えた。


 黙って、彼女にも差し出すと、彼女もまた一本つまんで咥えた。


『探偵だったとはね・・・・・』


『それは私の言うセリフよ。』 


 彼女はコーヒーが運ばれてくると、カップの中にスティックを浸し、暫く掻きまわしてから再び口に咥え、そしてにっこりと微笑んだ。


 俺が自分の名前を名乗ると、彼女も名を名乗った。


『早乙女カレン』それが彼女の名前だそうだ。


 俺と同じで一匹狼の私立探偵をしている。


 仔細しさいについては、


『守秘義務があるから』ということで、詳しくは教えてくれなかったものの、何でも(決して後ろ暗い方面ではない、と、そこだけは強調していたが)から頼まれて、銀行襲撃計画を防いでくれと依頼を受けたのだという。


『それにしてもまるでダーティーハリーもどきの活躍だったな』


『貴方がいてくれたからよ』


『俺は単なる善意の第三者に過ぎん』


『でも、何かお礼をしなくっちゃね。』


 俺は腕時計と店の掛け時計を見比べた。


『いつの間にか4時30分を回ってるな・・・・俺の馴染みの店なら、そろそろ看板を出す時間だが?』


 彼女はぼりぼりと音を立ててスティックをかじり、コーヒーを飲み干し、


『じゃ、付き合うわ。勿論私が奢るわよ』


『いや、御無用。女性に奢られるのは性に合わん』


『お酒と私じゃ如何?』


 俺は苦笑しながら、


『ならいい。』


 俺も続けてスティックをぼりぼりやり、コーヒーを飲み干した。


                              終わり


*)この物語はフィクションです。登場人物、場所、時間その他全ては作者の想像の産物であります。








 


 

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弾丸(たま)と女とシナモンスティック 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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