第49話サーフィンを楽しみました

 昼食を終えた俺たちはホテルに戻り、チェックアウトを終えた。

 ヘルメスを転がしながら、砂浜を歩いていく。


「ユキタカ、今日は何するにゃ?」

「実は水上バイクをやってみたくてな」


 時折海や川で見る、水の上を走るアレである。

 もう半分の理由は実験だ。

 ヘルメスは水の上を走れるらしいが、どの程度なのか試してみたかったんだよな。

 いざって時に乗れませんでした、じゃ話にならない。


「とりあえず人気のないところへ行こう」


 こんな海水浴客がわんさかいる場所では危ないからな。

 誰もいない場所を探し、ヘルメスを走らせる。

 海岸沿いを走ることしばし、街外れの狭い砂浜に辿り着いた。

 泳いでいる人どころか人通りすらなく、まさに理想的な環境である。


「とりあえず浅瀬を走らせるところから始めてみるか」


 アクセルを回し、海に入っていく。

 ヘルメスの車体は魔力によりコーティングされており、海水を弾くので錆びや汚れたりする心配はない。

 とりあえず浅い箇所は問題なく走行できるな。

 そして水面に浮いている感覚もある。不思議な感覚だ。

 安全を確認しつつ、少しずつ沖へ移動していく。


「おおっ! 水の上を走っているのだ!」


 コーティングにより浮力が発生しているのか、タイヤの半分から上は浮いている。

 ただスピードを緩めると沈んでいくな。

 これはアレだ。忍者が池の上を走る時に左足が沈む前に右足を出すという……

 ということは速度を上げると浮いていくのだろうか。

 俺はそれを試すべく、アクセルを回し速度を上げていく。

 予想通り自ら浮き上がり、ヘルメスはほぼ海面スレスレを走り始めた。


「すごいにゃ! 速いにゃ! 面白いにゃーっ!」


 クロがきゃっきゃと喜んでいる。

 余り遠くに行くと人に見られるかもな。

 よし、ここでターン。

 ハンドルを傾けカーブすると、水飛沫がばしゃあ! と散った。

 くるくる回転しているだけでも楽しいな。


「ユキタカ、大きい波がきてるにゃ!」


 沖から大きな波が押し寄せてくるのが見える。

 一瞬避けようとして、ふと思いとどまる。

 そうだ、アレが出来るかもしれないな。

 俺はニヤリと笑うと、波に向かってアクセルを回した。


「ぶ、ぶつかるのだ!」

「しっかり掴まってろよ!」

「にゃーーーっ!?」


 加速していくヘルメスを、波の手前で大きく倒す。

 姿勢を低くして、タイヤを倒し、波に乗る。


「ひゃっほーーーっ!」


 ざざざざざざざ、と波をかき分けながら、ヘルメスが大きく傾いた。


「な、波の中を走っているにゃ!?」

「ふふふ、これはサーフィンというものさ」


 ノリで波に突っ込んでみたが、意外と何とかなったな。

 もちろんやった事はないが、ヘルメスにはバランス保持機能とでもいうべきものが付いており、基本的に転けたりする事はない。

 だからまぁ、何とかなると思っていたのだ。


「すごいのだユキタカ殿! こんな技は見たことないのだ」


 ヘルメスがすごいだけなんだけどな。

 俺は車体を倒し、滑るように波をくぐり抜けた。

 ざざん、と俺の後ろで波が収まっていく。

 ふぅ、楽しかった。

 余韻に浸っていると、また波が来た。


「ユキタカ、また波が来たにゃ! もっかいやるにゃ!」

「よしきた、任せろ」


 高波に合わせ、ヘルメスを走らせる。

 ざざざざざーと波をかき分けて走るのが気持ちいい。

 波に沿って走り、頂点付近でくるっと回って着地する。

 どばぁん! と水柱が上がり、俺たちは水浸しになった。


「今の面白かったにゃ! サーフィンすごいにゃ!」


 今更だがこれってサーフィンなのだろうか? ……まぁ気にしないことにしよう。うん。

 そんなこんなでサーフィンを楽しんでいると、小舟が近づいてきた。


「おーい!」


 声をかけられ船を見ると、魚釣りで会ったあの老人が乗っていた。

 俺はアクセルを緩め、船へと向かう。


「こんにちは」

「おう、兄ちゃんがイルカに乗って遊んでるのが見えたから声をかけたんだ」


 あ、そうか。ヘルメスには迷彩が施されているから、バイクに乗っているとはわからないんだ。

 それにしても陸地は馬だけど、海ではイルカに見えるのか。


「今更だが兄ちゃん、あんた魔法使いだったんだねぇ。使い魔連れだったからそうだとは思ったがよ」

「え、えぇまぁ、大した事はないですが一応……」


 最近覚えたばかりだけど嘘ではないぞ。

 とはいえそう名乗るのは、まだちょっと恥ずかしい。


「おじいさんはまた漁ですか?」

「バカ言っちゃいけねぇよ。もう今日は十分稼いだからよ、家に帰って晩酌さ。兄ちゃん旅人だろ? あそこはシケた島だが一応観光地だからよ。よかったら遊びに来てくれや」


 そう言って老人は船をこぎ始めた。


「小さい島だにゃ!」

「へぇ、それなら俺たちも行ってみるか?」

「賛成なのだ」


 サーフィンも疲れたし、何か面白いものがあるかもしれないしな。

 俺は小さな島へ向け、ヘルメスを走らせるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る