第29話火の国に着いてました

 荒野の中、ヘルメスを走らせていると、突然――

 どおおおおおおおん! と爆音が響いた。

 地面が揺れ、車体が跳ねる。


「おわっ!? な、なんだ一体!?」


 慌ててハンドルを取り、バランスを立て直す。

 ふー、びっくりしたぜ。

 一体何が起こったのかと辺りを見渡すと、向こうの山の頂上からもくもくと煙が上がっていた。


「もしかしてあれ、火山の噴火か?」


 リアルで見たのは初めてだが、やはりそうだよな。

 火山流は流れてないみたいだけど、すごい迫力だ。

 かなり離れているのにこんなところまで響くなんて、とんでもない威力である。


「な、クロ! すごかったな!」


 俺が声をかけると、クロは副座席に潜り込み顔を伏せていた。


「おいおい、大丈夫かよ」

「び、びっくりしたにゃあ」


 縮こまり、ブルブル震えているクロ。

 猫は大きな音が苦手だからな。


「雪だるまは大丈夫なのか?」

「心頭滅却すれば火もまた涼し、その程度で動じる自分ではないのだ」


 どうやら雪だるまは平気なようだ。

 目を閉じて涼しげな顔をしている。


「ていうかそろそろ火の国のはずなんだがな」


 地図上ではこの辺りのはずである。

 さっきから気にして辺りを見渡しているが、街らしき場所が見当たらない。

 というか山が多すぎて、街の場所が分からないんだよな。


「そうだ、アレを使ってみるか」


 鞄の中から取り出したのは、望遠鏡のような形をした魔道具、透眼鏡である。

 これは遠くを見渡すだけでなく、物体を透過して見る事が出来るというものだ。

 岩場だらけの見通しが悪い場所でも目的の場所を探すことが可能である。


 早速、透眼鏡を片手に、辺りをぐるりと見渡してみる。

 透過した岩山の更に更に奥、何か動くものを見つけた。

 ……む、人影発見。

 一つ二つではない。多くの人がいる。

 どうやら岩をくりぬいて住処にしているようだ。

 ほほう、なるほど。だから気づかなかったのか。

 こんな街並みだと、遠くからチラッと見ただけでは岩山か何かと勘違いしまうからな。


「街を見つけた。行くぞ」


 俺は改めてアクセルを回し、ヘルメスを走らせる。

 透眼鏡で見えた方へ進んでいくと、ようやく街を見つけた。

 近くで見てもやはり岩だらけである。

 ここが火の国か。雪の国に比べるとかなり狭いな。

 城壁もないし、思ったよりも何というか、寂しい感じだ。……まぁとりあえず入ってみるか。

 岩壁の一部に穴が開いている。そこから中に入れそうだ。

 ヘルメスの速度を緩めて近づき、押して歩き中に入る。

 いきなり入ったら驚かせるかもしれないからな。


「こんにちはー……」


 少し警戒しつつ中に入ると、影からにゅっと人影が出てきた。

 緑色で鱗のようなの肌、ぎょろっとした金色の目、鋭い爪、耳まで裂けた口。


「おわあっ!?」


 異形の姿に思わず飛びのく。

 そこにいたのは身長200センチはあろうかというトカゲ人間だった。


「おや、もしかして旅人さんかい?」


 トカゲ人間は見た目に似合わぬ穏やかな口調で俺に話しかけてくる。


「は、はい……えぇっとこの街の人ですか? 魔物とかではないですよね?」


 恐る恐る尋ねると、トカゲ人間は一瞬キョトンとした後、大きな口を開けて笑い出した。


「はっはっは! 私たちはリザードマンだよ。れっきとしたこの国の民さ。旅人さん、ここを訪れるのは初めてかい?」

「えぇ、まぁ……あ、先ほどは魔物なんて言って大変失礼しました」


 知らなかったとはいえ、つい失礼な事を言ってしまったからな。

 深々と頭を下げると、リザードマンは首を振る。


「いいさ、慣れてるからね。ここは火の国モーカにある街の一つ、リザーディア。私たちリザードマンが住んでいるんだよ。入国手続きなんて面倒な物はないから、入っちゃいな」

「そうなんですか」


 どうやら手続きも必要ないらしい。

 というかすでに火の国に入っていたようだ。

 ここら一体が全てそうなのだとすると、入国する者を把握するなど出来るはずがない。

 雪の国より小さいかと思ったが、実際は無茶苦茶広かったようだ。


「では失礼します」


 言われるがまま、中に入る。


「北へ進むとホテル街、西の方は住宅街、この辺りは大通りで屋台が並んでいる。まぁそんなに広い集落じゃないから、一日もあれば見て回れると思うよ。それじゃあ私はこれで。旅人さん、楽しんでいきな」

「はい、ありがとうございました」


 親切なリザードマンに別れを告げ、大通りに足を踏み入れる。

 そこは住民に溢れ、活気に満ち溢れていた。

 もちろん全員リザードマンである。

 うーん、全部同じ顔に見えるな。


「ユキタカ、ボクここに来たことある気がするにゃ!」

「……そりゃあるだろ」


 マーリンと共に世界を旅して回ったんだからな。

 むしろこんなインパクトある街を忘れているのがおかしいくらいだ。


「自分は初めて来たのだ。世界には色んな種族がいるのだ」


 珍しそうにあたりを見渡す雪だるま。

 正直リザードマンより雪だるまの方が変わっていると思うのだが……それは言わないお約束か。

 ヘルメスを押しながら大通りを歩いていると、両脇に屋台が並んでおり、いい匂いがそこかしこから漂ってくる。

 肉の串焼きに焼きそば、ビール。

 それを美味そうに食う人々を見て、俺の腹がぐぅぅと鳴った。


「よし、今日の昼はこの辺の屋台で食おうぜ」

「にゃ!」

「それは良い考えなのだ」


 そうと決まれば俺は早速屋台へ入る。


「おっちゃん、串焼き三本」

「あいよっ!」


 ねじり鉢巻きをした店主は、肉を串にさすと炭火で炙っていく。

 肉汁がしたたり落ち、炭火に落ちてぱちぱちと爆ぜる音が聞こえてくる。

 美味そうだ。クロは待ちきれないのかよだれを垂らしている。


「出来たよ! 串焼き三本!」

「ありがとうございます」


 代金を支払い、串焼きを受け取る。


「ほらよ、二人とも」

「にゃ! はふっはふはふ、はふん!」

「ふむ、塩のみのシンプルな味付けだが、肉の旨味を生かしているのだ」


 クロも雪だるまも、美味そうに食べ始めた。

 まぁクロは苦戦しているようだが……よし、俺も食べよう。

 パクっと一口、熱々を口に入れる。

 あっつ! 焼きたてだからな。口の中で躍らせながら何とか噛み切って少しずつ飲み込んでいく。

 ……うん、これは鶏肉っぽいな。

 普通の鶏肉に比べて旨味がすごいので、魔物肉かもしれないな。


「これって何の肉ですか?」

「この辺りに出るサンドリザードって魔物の肉だよ」


 やはり魔物肉だったようだ。

 リザードマンはいかにも戦闘力が高そうだし、そこらにいる魔物を狩って食べているんだろう。


「ユキタカ、次に行くにゃ!」


 ようやく食べ終えたクロ尻尾をぶんぶん振りながら催促をしてくる。

 慌てて食べたのか、口に油が付いているぞ。


「はいはい」


 俺はクロの口元を拭うと、次の屋台へ赴くのだった。

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