第27話カレーは飲み物でした

 俺は矢も盾もたまらず、女将に香辛料について聞きにいった。


「この茶に入ってる香辛料? あぁそれならそこかしこで栽培してるよ」

「あの植物が……」


 畑に生えていた謎の植物、どうやらあれが香辛料の正体だったようだ。


「これってどこに行けば買えますか?」

「そこの通りを右に行ったところにある、薬師さんのところに行けばいくらでも売ってくれるよ」

「ありがとうございます」


 俺は女将に礼を言い、民宿を飛び出した。

 ここでは香辛料は薬として売ってるのか。

 そう言えば何かの香辛料が解熱剤とか神経痛とかに効くって聞いたことがある。

 薬屋は盲点だったな。

 クロと雪だるまもぴょんぴょん飛び跳ねながらついてくる。


「ユキタカがこんなにやる気を出すなんて珍しいにゃ。カレーってそんなにすごいのかにゃ?」

「自分もなんだか楽しみになってきたのだ」


 二人も期待が高まっているようだ。

 楽しみにするがいい、カレーはそれに十分応えてくれるだろう。

 早速薬屋と書かれた看板を見つけると、中に入って作業中のおじさんに声をかける。


「すみません、ここで香辛料が手に入ると聞いたのですが」

「あぁ、ここで間違いないよ。ほれ」


 薬師が木の箱を開けると、そこには区切られたスペースに乾燥させた木の実が入っていた。

 クミンにチリペッパー、カルダモンにコリアンダー、カレーのスパイスがずらりである。

 以前、スパイスから作る本格カレーを使ったことがあり、その時に調べたので見分けがつくのだ。

 まぁ手間がかかるのでその後は市販のものにシフトしたが……こんなところで役立つとはな。


「おおっ! これはすごい! ぜひ譲ってください! 全種類、十袋ずつ!」

「おやおや……随分呆れた買い方だねぇ。あんた旅人さんかい? こいつは薬だよ? そんなに色々買っても仕方あるまい。行商でもしようってのかい?」

「そういうわけではないんですが……」

「まぁいいさ。それだけの量ならちょっとおまけして銀貨十五枚でどうだい?」

「ありがとうございます!」


 礼を言って金を払う。

 いよっしゃあ! スパイスゲット! これでカレーが作れるぜ。


「なぁ旅人さん、何に使うか聞いてもいいかい?」

「料理ですよ。カレーを作るんです」

「かれぇ?」


 薬師は不思議そうに首をかしげる。


「よかったら作りましょうか? 厨房を貸していただければ、ですけど」

「構わんよ。丁度腹も減って来たところだし、助かるよ。ワシは店番をしているから好きに使ってくれていい」

「ではお借りします」


 俺は厨房に入ると、購入した香辛料を乳鉢ですり潰していく。

 すると辺りにいい匂いが漂い始める。

 うん、いい感じだ。

 全ての香辛料をすり潰し終えた後は、各々まとまった量をフライパンに入れる。

 これに小麦粉と塩を混ぜ、火にかけて混ぜながら炒めるのだ。

 ザクザク混ぜながら火にかけていると、香りが強くなっていく。


「ふにゃ!? すごくいい匂いがしてきたにゃ!」

「香ばしい匂いなのだ」


 これを少し冷ますと、カレー粉の完成である。

 夢にまで見たカレー粉だ。

 これだけでも美味しそうである。


「おっと、忘れるところだった。ご飯を焚かないとな」


 大事なものを忘れていたぜ。

 鞄から米を出すと、土鍋に入れて水に浸透させておく。

 こうすることで米が割れたり潰れたりしにくくなるのだ。

 あとは中火にかけて、沸騰するまで放置。

 蓋は取らないのが鉄則だ

 全自動炊飯器があれば楽なんだが、ないものは仕方ない。


 火加減を見ながら今度はカレールーを作り始める。

 フライパンにタマネギとニンジン、余っていたシメジとホウレンソウを入れる。

 俺はカレーにジャガイモは入れない派だ。

 ジャガイモが溶けてルーに雑味が入ってしまうからな。

 肉はウサギと蛇の肉をミンチにし、投入。

 ドライカレー風でいこう。ミンチ肉を使うと味によりコクが出て美味いんだこれが。

 それらを炒めた後、水を入れて煮る。


 沸騰してきたらアクを取り、今度は弱火でじっくりと茹でていく。

 その間に沸騰したご飯の火を弱くして、十五分ほど放置。

 後は火を切ってじっくり蒸らすだけだ。

 これでご飯の方はほぼ完成。

 そして鍋から火を外し、カレールーを投入!

 中は一気に赤茶色になり、見知ったカレー色になった。


「おっと、丁度ご飯も炊けたようだな」


 土鍋を取ると、白い湯気が上がる。

 米粒は銀色に輝き、鍋の中でピンと立っている。

 こいつは美味そうだ。


「まだかにゃー?」

「おう、出来たぞ!」


 大皿にご飯を盛り、カレーをドバッとかける。

 カレーライスの完成である。


「おお、いい匂いに釣られて来たら、もう出来たみたいだねぇ」


 丁度いいタイミングで薬師も厨房に顔を出す。


「初めて見る食べ物だがなんともいい匂いがするじゃないか。頂けるかい?」

「もちろんですとも」


 言われるまでもなく、薬師の分も皿に盛ってある。

 四人分のカレーライスを用意した俺は、早速スプーンを突き立てる。

 カレーとご飯を混ぜて、パクッと一口。


「んー! 美味い!」


 甘さと辛さが一体となり具材のコクと相まって濃厚な旨味を醸し出す。

 それをご飯と一緒に流し込む幸せ。

 カレーは飲み物とはよく言ったものだ。


「んにゃ! んまいにゃ!」

「ただの丼物とは一線を画する味……美味なのだ!」

「おお、こりゃあとんでもなく美味しい! 香辛料にこんな使い方があったとは!」


 他の三人も一心不乱にカレーをかき込んでいく。

 俺も無言で、だ。

 そのせいか一番最初に食べ終えてしまった。


「ま、おかわりするんだけどな」

「ボクもにゃ!」

「自分もお願いするのだ」

「ワシも頼むよ」


 結局全員おかわりをした。

 しかも二度、食べ終えると流石に満腹になってしまった。


「ふぅー、食った食った」

「美味しかったにゃ」

「結構なお点前だったのだ」


 かなりの量を作ったはずなのに、米もカレーもカラになっていた。

 やはりカレーには魔力が宿ってるな。

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