第26話小さな村に着きました

「おっ、なんだありゃ」

 

 街道沿いを走っていると、建物が並んでいた。

 否、建物というにはあまりにボロボロというか……

 藁葺き屋根の小屋や悪い意味で歴史を感じさせる木造住宅、そして周りにはその何倍もの面積の畑。


「あれが火の国かにゃ?」

「なわけないだろ……あそこは全く別の村だよ」


 こいつ、火の国に言った事があるんじゃないのかよ。記憶力ゼロかな?

 それにしても狭いな。遠くから全体を一望できそうな集落だ。

 地図にも載ってないような小さな村である。


「丁度いい、今日はここに泊まるとするか」


 別に家を出してそこに寝てもいいんだが、せっかくだしこんな田舎に泊まるのも悪くないかもしれない。

 何か面白い発見があるかもしれないし、とりあえず宿を探してみよう。

 ヘルメスに乗ったまま村の中に入り暫く走らせていると、鍬を持った老人を見つけた。


「すみません、ここに宿ってありますか?」

「おや、旅人さんかね。宿ならほれ、あそこの民宿があるだけじゃぞ」

「ありがとうございます」


 よかった、どうやら宿はあったようだ。

 老人に礼を言い、指差した方向へと走らせる。


「……それにしても畑しかないな」


 行けども行けども畑ばかりである。

 しかもかなりの農家が見たこともない妙な植物を栽培している。

 ……まさか麻薬とかじゃあるまいな。

 異世界だし、文化が違う可能性があるから注意しないとな。

 そんな事を考えながらヘルメスを走らせていると、老人の言っていた通り民宿らしき場所を見つけた。


「こんばんはー」


 扉を開けて中に入ると、疲れた顔の老婆がいた。

 中はちょっと広めの民家くらいの感じである。


「いらっしゃい、旅人さんかい?」

「はい、一泊お願いしたいのですが大丈夫ですか?」

「構わないよ。使い魔込みで食事なし一泊銀貨十枚、それでよけりゃあね」


 流石田舎だけあって値段は安い。

 というか俺がラティエで泊まった宿はかなりいい宿だったんだな。

 何せ値段が十倍だ。

 それにしてもクロはまだしも、雪だるまにもノーツッコミかよ。

 使い魔ってそんなに一般的なのだろうか。 

 まぁなんにせよ、ここに泊まらせてもらおう。


「はい、お願いします」

「あいよ。お一人様ご案内。馬は納屋につないでおくれ」


 迷彩をかけているので、ヘルメスは他の者には馬の姿に見えるのだ。

 俺はヘルメスを納屋に停めると、老婆の案内に従い中に入る。

 廊下は掃除してはいるが変色しており、所々修理した跡がある。

 ガラガラと立て付けの悪い扉を開けると、中はだだっ広い広間だった。

 所々にシミやカビがあり、歴史を感じさせられる。


「それじゃごゆっくり」


 老婆はそう言うと、さっさと扉を閉めてしまった。

 うーんこの色々とセルフな感じ、安い田舎のビジネスホテルっぽいな。

 まぁ寝場所は用意するのであとはご自由に、というスタイルも気楽でいい。

 俺は荷物を置くと、テーブルに置いてあったお茶を入れる。


「とりあえず一服しようぜ」

「にゃ!」


 とぽとぽとぽ、と急須に湯を注ぎ、茶葉を入れる。

 それを揺らして馴染ませ、湯飲みに注いだ。


「そうだ、茶菓子に氷饅頭を食べようか」

「おおっ! それはいい考えにゃ!」


 お茶と言えばお菓子である。

 ローザから持たせてもらった氷饅頭を鞄から取り出し、置いた。

 一人一個だ。あまり食べると夜ごはんが食べられなくなるからな。


「いただくにゃ」

「いただきますなのだ」


 そう言って二人は早速氷饅頭に手を伸ばす。

 続いて俺も、氷饅頭を手に取り頬張った。

 うん、やっぱり美味い。疲れた身体に甘味が染みわたる。

 あっという間に食べ終えたところで、茶をすする。

 舌に残った甘さが渋い茶で流されていく――


「んむっ!?」


 思わず顔を顰めてしまう。

 口に含んだ茶から、妙な味がしたのだ。

 鼻をつーんと抜けるようなスパイシーな香り、どこかで嗅いだことがあるようなものだった。


「にゃっ!? このお茶変な味がするにゃ!」

「……変わった香り付けなのだ」


 その香りに二人も顔を顰めている。

 茶葉を掌に落として匂いを嗅いでみると、ようやくその正体が分かった。


「……これはカレーのスパイスだ」


 言わずと知れた国民食、茶葉に入っている小さな種からその香りがするのだ。

 マーリンから色々調味料を集めてもらっていたが、カレーのスパイスは手に入らなかったんだよな。

 まさかこんなところにあるとは驚きである。

 ――というわけで、


「いよっしゃあああああッ! ようやく見つけたぜカレー!」


 立ち上がりガッツポーズをした。

 俺のテンションが爆上がりするのも仕方あるまい。

 何せカレーだ。カレーなのだ。

 カレーを嫌いな日本人がいるか? いやいない。


「カレーってなんにゃ?」

「なんなのだ?」


 そんな俺を見てポカンとするクロと雪だるま。

 俺は二人を見てにやりと笑う。


「世界で一番美味い食い物さ」


 俺の答えに、二人はやっぱりポカンとしていた。

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