第95話 全滅

『ころころり、ころころり。乳白色の川霧に包まれた岸辺を、緑と白のまだら模様になった首と胴体が転がっている。軽やかに、そして羽が生えているかのごとき速さで、川上から川下へ』


「結城さん、もう書き留めてる余裕ないって」

「まずいことになったなぁ。モスクワ遠征の敗走みたいに、屈強な人々がガンガンやられていくざんす」

「俺もそろそろHPもMPもゼロだ。起きて目を開けているのが不思議なくらい身体が重い。あと50時間寝たい」


 結城さんと増黒さんが秘術を駆使しながら絶望的な光景から逃げのびていた。集まった方々が適度に強いのでかろうじて魔王を足止めしているが、戦況は好転しそうにない。


「女の胸の中で死にたかった」

「なぜお祭り男の養徳さんは来なかったのでしょうか……」


 紫煙をくゆらせながらショーグンさんが倒れ、巴会さんも貫手を空に向けたまま悔いなしと末期の言葉を残す。


「本棚を片付けておくべきだったか……」

「男は死ぬまで戦いたよ。極真は背中を見せない。これが極真の歴史たよ……」


 二刀で応戦した机さんも倒れ、卍さんも総裁の真似をしつつ息を引き取った。他の英雄たちも続々と一振りごとに大爆発を起こす二天一流の奥義に討たれていった。


 それにしてもいったいなんでがらんどさんは暴れてるんだろう。いや、普段からの持論を示しているのは間違いないんだが。


「我々の生きざまはコンキスタドールの人生である。もはやここまででしょう」


 Sz73さんがつぶやいたと同時に、本陣に大量の刀が降り注いだ。もはや二刀流でもなんでもないような気がするが、この一撃でついに総大将のあやめさんが討ち死にに至った。


「多めに擦りましたので新刊の在庫はまだ充分にあります。私の死後もぜひぜひよろしくお願い致します☆」


 商魂たくましい最期であった。そして後年、従軍画家のタフトさんはこの惨劇を絵に納めて同人誌と抱き合わせで販売するが、それはまた別の話である。


 白里さんや託也さんら取材班は記録を残しながら退却、本陣には兵站の連中と技術班、そして主人公のあむりんとえなてぃ、ヒロインの美少女が残された。


「これ、最後どうなるんだろ」

「笑えばいいと思うよ」

「転載して乃木坂46のセンターになる結末ですかね」


 この三人がそろって初めて世界の窮地を救うことができるということはわかっているのだが、何をどうすればいいのかはまだ判明していない。


 彼女らを守る最後に残ったのは格闘技プロ勢であった。KFCさん、葛西さん、菅さん全員の意見は完全一致しており、即撤退と決まった。


「刃物持って人に斬りかかる人の相手はしてられませんね」

「本当に大事なものを護りたい人はそう考えるべきです」

「そもそも我々は素手の格闘家ですし」


 三人が残兵をまとめて殿をつとめ、結城さんと増黒さんが撤退を指揮する。次回が最終話らしいが、これ、収集つくんだろうか。


【登場人物紹介】


結城さん:創作クラスタ(中華風ファンタジー他)

頑強に抵抗した創作勢の一人にして東洋魔術の使い手。「中後華宮」と呼ばれるどす黒く渦巻く空気を魔王へ叩き込み、生き残りを引き連れ脱出に尽力する。

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ゼノビアの宝石箱 ~シルクロードを巡る煌めきの物語~

https://kakuyomu.jp/works/1177354054889407065


増黒さん:創作クラスタ(歴史・ファンタジー他)

イセカイケイ戦史を記載していた修道士。結社全滅後に残兵を率いて遊撃戦を展開。結社が総崩れになり魔王城より撤退する光景にひるむが、ついに三博士が残した秘文の解読に成功する。

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雷獣の牙

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885586247


Sz73さん

異世界転生者の歴史に明るい賢者。結社がコンキスタドールの人生であると喝破し、異世界民の略奪には限界があるので撤退せよと叫ぶが時すでに遅し。創作術の使い手が次々に敗れ武術勢も崩れはじめていった。


タフトさん:創作クラスタ

従軍画家。総指揮をつとめるあやめさんの討ち死にを見取り、絵に起こす。城に一番乗りした葉月さん、アルパカ、パンダ、マレーグマらの動物組、ゾンビを連れてきたなかい君らも次々に倒れていったため、記録として腕がしびれるまでその惨劇を描き続ける。

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http://www7b.biglobe.ne.jp/~moae/


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