黒髪黒目の国の金髪碧眼のうまら姫 ー疎まれていますけど頑張ります!ー

@gengorousan

第1話【花吹雪国:大陸の英雄と花吹雪国の小お姫さま①】

 私が知る彼は、齢20にも届かない男性で、なのに数々の冒険譚で語り継がれ、まさにお話の中にいるような英雄でした。


 曰く、その人は戦人(いくさびと)で、戦場を異形の化け物が跋扈(ばっこ)する現(うつつ)の地獄と定め、それらがいればどこへでも向かいました。

 化け物は、外界からの侵略者で侵害者と呼ばれ、人間に害をなす生き物です。

 そんな侵害者を彼は討伐し続け、いつの間にか英雄と呼ばれるほどになりました。

 その結果、名だたる仲間と共に、化け物どもが蠢く外界へ遠征を命じられ、その成功をもって人界へ長い平和をもたらすことができたのでした。

 めでたしめでたし……。


 と、行かないのが現実です。

 そんな偉業を成し遂げた彼を、大陸にある国々は褒めたたえこそはしましたが、十分な報酬をもって迎えることはしなかったのです。

 そして、現在の彼が、生来の国の王から受けている扱いは、面白いものではなかったみたい。


「なんだと! 王は! 俺に! 何をしろって!」

 平凡な部屋の一室で、文官相手に怒号を浴びせたらしいのは、少年期の終わりを迎えようとしている男性であった。

 その男性は、一見すれば戦いを生業としそうにもない、黒髪黒目で女顔の優男です。

 けれど、その安物の着物の下にある肉体は、鋼のように鍛えられていて、彼が只者でないことを匂わせています。

 そう、そんな彼こそ、偉業の英雄として語られる男性、その人でした。


「何度も申し上げていますでしょう? 王からの命は、『雷火(地区)生まれのあずま 汝を兵部大丞(ひょうぶたいじょう:武官のこと)に任免し、兵の将官として王へ報いることを命ず』、以上です。全く、わからないのですか?」


 白髪茶色目の王国の文官である壮年の神経質そうな男が、そんなことを彼に吐き捨てたということらしい。

 律令体制の鳴上国で、兵部大丞という地位はそれほど高いものではなく、英雄へ与えられる官職としては、いささか低く感じます。

 ただ、彼が怒っているのはそんなことではありません。


「言っている内容なんぞ、わかっている! 俺が疑問を呈しているのは! 外界を遠征し、今も侵害者を討伐している俺に、謂れのない役を課そうっていうのかってことだ! しかも、人間を相手取る兵士として!」


 彼が憤りを感じているのは、外界への遠征をそれほど評価されていないこと、現在の侵害者討伐を評価されていないこと。そして一番は、人間相手に戦えと命じられていることでした。

 彼には、侵害者と戦うことへ誇りがあるようです。

 一般的に、侵害者と戦う「大地守護者」や「守護者」と呼ばれる人たちは、人類の敵である侵害者と戦い、人々を守ることへ誇りを持っています。

 そして、人を殺す兵士とは違うという意識の強い者も多く、彼もその一人でした。


「それに、俺が兵士になったとして、どんな活躍の場があるっていうんだ。それなら、侵害者を屠っていたほうが、国の為にもなるだろ」


 彼の言い分にも、確かに一理あります。しかし、彼の国(鳴上国)の王の考えは、違っていました。


「王の判断が間違っていると、言われるのですか? 王は、こうおっしゃられておりました。『外界への遠征が成功し、侵害者どもの攻勢は、長い停滞期へと入る。そして、これから始まるのは、人の世・人間同士の闘争だ。面白い時代がやってくるぞ』とのことです。王の見立てでは、どうやらこれからは兵士としてのほうが活躍できそうですよ」


 鳴上国の王は、これから人間同士の争いになると予想したようで、おそらくそれは当たるのでしょう。

 ただ、それで彼が納得するかといえば、別の話です。


「馬鹿な。長い停滞期に入るからこそ、人間は協力しあって、国力を増強させ、侵害者への強固な対策を構築していくべきなんだろ。あいつらは、滅んではいないぞ。それなのに、人間同士で争うなんて……」


「国力は回復していくでしょうし、対策もより良いものが練られていくでしょう。その中で、争いも起こるというだけです。それは、侵害者の侵略が激しかった以前でもあったことです」


 そう、いつの世も、人間というのは争いばかり。……いえ、人間に限らず、この世の中の生き物は戦いばかりです。それが世の理だというのに、彼もそれはわかっているのに、納得できないという。


「それでも、進んで闘争の世界へ進んでいくことはないだろ。国王なら、そんな道を歩まない方法もあるはずだ」


 彼は、もしかしたら、過酷な戦歴から想像される人物像とは違い、優しそうな見た目通りの甘い理想論者なのかもしれない。

 だとしたら、そんな彼に、


「ともかく! 王の意向に逆らうというのなら、この国に居場所はありませんぞ」


 なんて、脅しのような言い方を、官僚はするべきでなかったのでしょう。

それにカチンときた彼は、売り言葉に買い言葉で、こんなことを言ってしまうのです。


「ああ、わかった! そこまで言われるのなら、こんな国、出て行ってやる!」


 そんな子供じみた言い合いの末、彼は国を出ることになったのでありました。

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