いつか出逢ったあなた 37th

ヒカリ

第1話 「今度は、いつ会える?」

 〇島沢真斗


「今度は、いつ会える?」


 鈴亜りあが首を傾げて僕を見た。


「連絡するから。」


 そう言ったものの…鈴亜が納得するわけないって分かってる。


「…いつも、そればっかり。結局あたしが会いに来ないと会えないのね。」


 案の定…鈴亜はそう言って唇を尖らせた。



 朝霧家の長女で…僕のバンドメンバーである光史君の妹。

 鈴亜は桜花の高等部三年生で…僕と付き合い始めて…一年以上。


 メディアに出ない僕達は、比較的自由はきくんだけど…今週はちょっと…忙しい。

 そんな時は、鈴亜が家の近くまでやって来て待ち伏せなんてしてて。

 僕は慌てて車で連れ出す…みたいな形になる事が多い。


 父親である朝霧あさぎり 真音まのんさんには…許可をもらった…って言うか…

 交際宣言はした。

 鈴亜さんと、お付き合いさせてもらってます。って。

 そしたら…門限は五時。って言われて。

 しかも、打ち明けた事は言うなって、朝霧さんに言われて。


 鈴亜は…僕とのデートに不満タラタラ。


 …そりゃそうだよね。

 今時の高校生が…午後から会って、五時までにデートを終えるなんて。



 光史君に打ち明けて、協力してもらおうかな…なんて思った事もあるんだけど…


 陸ちゃんから。


「まこ。気を付けろよ。光史はあれで、案外シスコンなんだぜ?」


 って…意味深なアドバイス。


「な…何の事?」


 僕は…陸ちゃんにもしらばっくれてしまった…。



 あー…僕だってまだ帰したくない。

 せっかく鈴亜が会いに来てくれて…その笑顔を見せてくれてるのに…。

 だけど朝霧さん…本当に鈴亜の事可愛くて仕方ないみたいだし…



「…嫌いになった?」


 突然鈴亜にそう言われて。


「まさか。」


 僕は即答する。


 嫌いになんかなるもんか。

 鈴亜は…本当、可愛くて素直で…

 だから余計、門限を言い渡したのは朝霧さんだ…なんて言えない。


『お父さんなんて嫌い!!』


 って…

 鈴亜は悪気はなくても、その時の感情をストレートに言うだろうし…



「さ、もう帰んないと、遅くなるよ。」


 手を引いてそう言うと。

 鈴亜は泣きそうな顔で、トボトボ歩き始めた。


 …ごめんよ。

 でも…ちゃんと、朝霧さんに認めてもらうためには…

 こうするしかないんだ。



 * * *



「いやっ。帰んないっ。」


 またしても…鈴亜は我儘を言った。


「…鈴亜。」


 久しぶりに丸一日会える事になって、少し遠出した。

 鈴亜が行きたがってたテーマパークや、買い物に行って。

 それから、海沿いをドライヴして…景色のきれいな公園で座って話してたら…

 あっと言う間に帰る時間。



「心配かけるといけないから。」


「何が心配よ。今時、デートから5時に帰る子なんていないわよ。」


「でも、もう暗くなってきたから。」


「そんなこと言って…まこちゃん、あたしのこと飽きたんでしょ。」


「なわけないだろ。」


「じゃ、どうして一緒にいてくれないの?あたしはずっと一緒にいたいのに…」


「……」


 ぶっちゃけ…

 何度言っても分かってくれない鈴亜に、少しイライラ…しなくもない。

 一緒に居られる時間が少ないとしても、僕は…その時間を大事にしたいと思う。

 朝霧さんが門限を言い渡したのも、本当に娘可愛さからの事だと理解できるから…それは守りたい。


 だけど…

 僕だって一緒にいたいのに、飽きたんだろうなんて言われると…


 ……ん?

 そう言えば…

 F's…今日からレコーディングって言ってなかったっけ…

 確か、父さんが母さんに…


「悪いけどマノンと泊まり込むから、二日ほど帰れない。」


 って、夕べ言ってたような…

 だとすると…



「…じゃ、もう1時間だけだよ?」


 ごめん…朝霧さん。

 たまには、門限破らせて下さい。

 じゃないと、本当に…僕、朝霧さんが門限出したって言わずにいられなくなります…



「…本当?」


「ああ。」


 僕の返事に、鈴亜は満面の笑み。


 …うん。

 イライラなんかして…ごめん、鈴亜。



「鈴亜。」


 機嫌の直った鈴亜の顔を覗き込む。


「ん?」



 この前、ルームで光史君が聖子と話してるのを聞いた。

 鈴亜が進路をなかなか決めない。って…

 すると聖子が。


「そりゃ彼氏でもいて、プロポーズ待ってるんじゃない?」


 って…


「…鈴亜はまだ高校生だけど?」


「あんた、自分の親がいくつで結婚したか、知ってるでしょ?」


「はっ…」


 そう突っ込まれた光史君は、大袈裟に驚いてみせた。

 …確か、朝霧さん…

 奥さんがまだ高校三年の時に婚約したんだっけ…


「女はね~、色々夢見ちゃうのよ。」


「高校生で結婚をか?」


「いたなあ~。高校在学中に結婚した奴。」


「……」


 そう言って、二人は知花を見た。


「な…何かな…?」


「知花の結婚願望はどうやって湧いたの?」


「…聖子知ってるクセに。意地悪。」


「えー?厳しい家を出たかったから…ってやつ?」


「…元々は、そこよ…」


 …そっか。

 そういうのが理由になる事もあるんだ…

 って事は…

 鈴亜も、朝霧さんが門限を言い渡したって知ったら、早く家を出たいって思うのかな…?


 僕は、鈴亜が進路についてどう考えてるのか…知りたくなった。



「進路、決めた?」


「……」


 あまりにも僕の質問が意外だったのか、鈴亜はかなり目を見開いて。


「まー…まだ…考え中…」


 かなり…低い声で言った。

 …これは…知られたくないのかな?


「…そ。」


 あまりしつこく聞くのも…と思って、その話題はもうやめにした。

 せっかく一時間…色んな覚悟を持って延長したんだ。

 有意義に過ごさなきゃ。



「そういえば、何が欲しい?」


 僕が笑顔で問いかけると。


「え?」


「誕生日。来週だろ?」


「…覚えててくれたの?」


「当然。」


「嬉しい!!」


 突然、鈴亜が抱きついて来た。


 ちょ…

 周りには人が大勢いるのに…


「り…鈴亜。」


 もし、万が一…知ってる人がいたら…困るよ!!

 朝霧さんに殺される!!



「何でもいい。まこちゃんのくれるものなら。」


 そう言った鈴亜は…本当に…僕を落としたのはこの笑顔って言ってもいい、最高の笑顔。


「…何でも?」


「うん。」



 光史君、陸ちゃん、聖子…と、立て続けに結婚式を目の当たりにして…

 僕には無いと思ってた結婚願望に火が着いた。


 もし…僕が指輪を贈ったら…

 鈴亜、どんな反応…するかな?



 * * *


「まーこーちゃん。」


 僕は…背筋を凍らせる思いで、その声に振り向…いや…振り向けないままいた。


「何だよ。無視かよ。」


「か…神さん…?」


 恐る恐る、首だけゆっくり振り返ると…

 そこには、いつもクールな神さんが、目をクジラのような形にして…笑ってた。


 事務所の向かい側にジュエリーショップがあるんだけど…

 そこはさすがに目につくから…と思って。

 少し離れた場所にある、店に来たのに…

 どうして、神さんここに…?



「え…ええと…」


 僕がうろたえてると。


「ゆっくり見てけよ。女へのプレゼントだろ?」


 神さんは後ろで手を組んで、ショーケースを見渡した。


「…神さんは?知花に…プレゼントですか?」


 ヤバい。

 神さんから知花。

 知花から聖子。

 聖子から光史君。

 って図が見えてしまって…

 僕はどこで口止めしよう!!って、頭の中がパニック!!



「ここ、兄貴の店なんだ。」


「え…えっ!?」


 そ…そう言えば、聖子と知花がお揃いの何かを、宝石屋をしてる神さんのお兄さんにもらったって言ってた!!

 あー!!しまった!!

 ここだったんだー!!



「そんな、青い顔すんなって。誰にも言いやしねーよ。」


 僕が冷や汗かいてるのが分かったのか、神さんはケタケタと笑いながらそう言って…

 それが本当なら…ありがたいなー…なんて…


「でも、何で秘密にしてんだ?」


 う。

 さりげなく…調査?


「つーか、そういうのって、誰かの身内だとか相手が同性だとか言うんだろーな。」


「どっ同性じゃないですよ!!」


「じゃ、誰かの妹かー。」


「……」


「ま、妹がいるのって、もう限られてるよなー。」


 神さん…

 もう、目が…

 楽しんでるよー…


 神さんは、知花がいるからだろうけど…

 SHE'S-HE'Sに詳しい。



「朝霧の妹か。」


 ズバリ。

 ああああ……


「…当たりです…」



 それから、神さんはお店の隅にあるカフェコーナーで僕にコーヒーを淹れてくれて。


「何で秘密にしてんだ?」


 今度は、クジラ目じゃない目で聞いてくれた。


「打ち明けたい気持ちはあるんですけど…」


 コーヒーを、一口。


「光史君、結構妹思いだから、ちょっとなかなか…」


 僕がそう言うと、神さんは。


「朝霧さんには?」


 これまた…真顔。


「…朝霧さんには交際を認めてくれって言いました。そしたら…門限を言い渡されて。」


「ほお。」


「なおかつ…僕が朝霧さんに打ち明けた事は内緒だって言われて。」


「なんで。」


「…門限、五時なんですよね…」


 さすがにそれには同情したのか、神さんは額に手を当てて。


「…確かに俺も娘には門限を出すだろうが…五時はないな…相手いくつだ?」


 唸るような声で言った。

 神さん、話分かる!!


「来週18歳になります。」


 味方を見付けた気がして、意気揚々と言った僕に…


「そりゃ五時だな。」


 神さんー!!

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