《future shuttle》の窓

琴波 新 (水)

future shuttleの窓

 僕、山田太郎は日本を代表し、名誉ある《future shuttleフューチャー・シャトル》一号の乗組員に選ばれた。

 《future shuttle》とは、NASAの専門家が言うに、シャトルの内と外を隔てる壁に沿って時空間が相転移とかした結果、内側を今に残したままで外を未来にする乗り物だ。

 つまり、技術者かれらの説明は僕の理解を超えていた。

 さらに僕は、彼らの説明を語りえる言葉を持ち合わせていない。

 だから、皆さんにシャトルの仕組みを語ることもできないし、それに、僕が彼らの説明を把握することもできない。

 けれどそれは、たぶん、いわゆるタイムマシンなのだろう。

 僕と各国から集まった四人はこれから《future shuttle》に乗り込んで未来を観測する。

 そして、未来の記録を今に持ち帰るのが僕たちの仕事だ。

 僕はほとんど読み終わったソシュールの『一般言語学講義』を閉じて、シャトルに向かった。

 シャトルの中は意外と狭かった。■■■■(機密なので多分お伝えできない)のような壁に、一つだけ大きな窓がある。

 僕らはこの窓越しに未来の景色を盗み見て、それを手元の紙に記録する。

 最後のブリーフィングが行われたのちに、いよいよ《future shuttle》が駆動した。

 そして、そこはもう未来。ここは今だった。



 窓の外を眺めて、さっそく僕たちは未来の記録に取りかかった。

 しかし、おかしい。

 どれだけ頑張っても、僕には窓の外の景色を記述することができないのだ。

 記述した内容は一文ごとに矛盾してしまう。

 論理的にくねくねした文章は矛盾律を守るまいと抵抗しているかのようだった。

 しまいには、窓にもやがかかっているように見えてきた。窓の外の未来けしきがよく見えない。


willウィル

 窓の外がぼやけてよく見えない!

 君はどうだ?」


「太゛郎、僕も少し見えづらい。

 描写できないこともないけれど、ちょっと文が変だ」


 合衆国のも僕と似た状況だった。

 窓に異常が生じているのだろうか。


「私は、willウィルよりは正確に描写できるわよ?

 窓は、確かに少し見えにくいけれど……」


 同じ合衆国のshallシャルは僕らよりマシらしい。

 ドイツのwerdenウェルデンも、首を傾げ、手を止めている。

 僕らが仕事を進められず、頭を悩ませている中で、フランスのauraオラだけがただ一人、黙々と作業を続けていた。


auraオラは順調そうだな」


「そりゃあそうよ、私たちは未来を語る達人だから。

 みんなには難しいかもね。

 窓はクリア、未来ははっきり見通せる。記すこともわけないわ」

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