第7話 待ち人は来たけれど!?

なぜか緊張が凄かった。落ち着かないので原稿用紙を広げていたし、コーヒーが進んだ。しかも味がわからない。


向こうは前回も俺を見ていたわけで、心の準備は出来てるはずだ。でもこちらは……


───チリンチリン


来たかと思い、思わず姿勢を正してしまう。

しかし待ち人ではなく、グループだったり別の席に自然に座って注文していた。


なぜか少しホッとしている。


『おかわりは如何ですか?』

「お願いします」


マスターのコーヒーが緊張を和らげる。

いや、マスターの存在が既にそうなのかもしれない。

窓から見る景色も変わらない。


そんないつもの日常に浸っていて、聞き逃したのだろうか。

まったくドアの鈴の音に気がつかなかった。


『……あの』


急に声をかけられて驚きつつ、振り返る。

そこには髪の長い女性が立っていた。


「なんでしょうか?」


見覚えのない女性だった。

聞き返してみたが返事がない。


「何か御用ですか?」

『あっ……』


向こうも驚いたようで、髪を触って誤魔化しつつ話を続けた。


『私…あっ、僕です僕』

「ボク?」


オレオレ詐欺なら聞いたことある。

それに、俺にはボクっ子の知り合いなんかいない。


『あっ…えっと、サイトの…本の声と僕の声の管理人です』


…本の声と僕の声の管理人?

俺の本まで読んでくれたあの?

このボクっ子が?


───本の声と僕(ボク)の声!?


驚いてコーヒーをこぼし…たりはしない。

代わりに、使い捨てミルクのゴミを弾き飛ばして原稿用紙が濡れた。


でも、大丈夫。

相変わらず、原稿用紙は白紙だもの。

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